第9話 暗い世界

「斑鳩さんを革切りにみんな聞き始めているな。 斑鳩さんは淡々と先生に質問をしているみたいだね」

「うん。 俺達も聞こう! 出遅れちゃったし!」


 出雲が大和に行こうと言うと、大和はそうだねと言って出雲の後ろを歩いて行く。二人が若い男性教師の側に到着をすると、既に何名かの生徒が魔法の習得しようとしていた。


「ぐぎぎぎぎぎ! 教わった通りにしてるけどこの斧に魔力が定着しない!」

「何度やってもこの槍に弾かれちゃう! どうやったら定着するの!?」


 複数の生徒達が難しいと言いながら付与をし続けていると、美桜が簡単に魔力付与を行っていた。美桜と共にいた二人の女生徒が驚いていると、若い男性教師が美桜に近寄って来る。


「もう出来たんですか? 見せてください」

「分かりました」


 美桜は返事をすると同時に、右手で持っている細剣に自身の氷属性の魔力を付与していく。美桜が左手を細剣にかざすと、左手から青白い氷属性の魔力が細剣に注がれていく。氷属性の魔力を注がれた細剣は全体的に青白い淡い光を放っているようであった。


「これは……凄いですね……完璧に魔力付与が出来ています! どこかで習っていたんですか!?」

「いえ、たまたま出来ただけです」

「斑鳩さん凄い! すぐに難しい技術を習得しちゃった!」

「後で私にも教えてください!」


 美桜に側にいる二人の女生徒が教えてくださいと何度も言っていた。


「良いわよ。 あとで教えるわ」

「ありがとうございます!」

「斑鳩さんと一緒に魔法を学べる!」


 二人が喜んでいると若い男性教師が練習をしている生徒達を見て回っていた。出雲と大和は美桜が教えている様子を見ていた。


「斑鳩さんって教えるの上手だな。 俺はあそこまで丁寧に教えられないな」

「俺にちゃんと教えてくれてるから、大和は丁寧だよ」

「ありがとう」


 大和は出雲に魔力付与のやり方を教えていた。大和は先生が言った通りにと言い、出雲に説明をしている。


「斑鳩さんは簡単に出来てたけど、実際は他のクラスメイトと同じようにかなり難しいんだ。 出雲が持っているその長剣に自身の魔力を浸透させるイメージでするんだ」

「浸透させるイメージ……」


 出雲は大和に教わったやり方で魔力付与を行おうとしていた。だが、扱える属性魔法が未だにないので魔力付与を行えなかった。


「俺は魔力付与出来ないじゃん! 使える属性魔法ないし!」

「そうだった! この場合どうすればいいんだ?」


 出雲と大和が悩んでいると、龍雅に渡された古い本が淡く光を放ち始めた。


「突然もらった古い本が!? な、なんだ!?」


 出雲が驚いていると、手に持っている古い本が勝手に捲れて一ページ目にどこの文字か分からない言語が浮かび上がった。


「な……何だこの文字!? 見たことがないぞ!?」

「俺も見たことがない……絵のように見える形右下や左下に小さな数字が書かれていたり、英語の筆記体のような形が交えて書かれてる……」


 二人はどういう意味なんだと考えていると、遠くから二人を見る人影があった。その人影の視線に気が付いた出雲が視線の方向を向くも、そこには誰もいないように見えていた。


「視線を感じたんだけど、誰もいなかったな……」

「急に本校舎の屋上を見始めたから何かと思ったよ。 誰かに見られてたのか?」

「いや、この本が勝手に捲れてから突然鋭い視線を感じて……」


 出雲は尚もそう言うも、大和が屋上を見ると人影など見えなかった。大和は気にせずにこの本を見ようと出雲に言った。


「そうだね。 でもこの文字どこの文字なんだろうな?」

「うーむ……全く読める気配がない……」


 出雲と大和が唸っていると、出雲はその文字を唐突に読める気がしてきていた。


「文字が分かる気がする……なんで俺はこの文字が理解出来そうなんだ?」

「分かるのか!? この変な文字が読めるのか!?」


 大和が出雲の顔を凝視していると、少し読めるかもしれないと目を見開いて出雲は不可思議な文字を見続ける。


「光属性魔法……第一節……」

「読めるのか!? 読めてるのか!?」


 大和が出雲の両肩を掴んで揺らしていると、出雲が頭が痛いと言い始めていた。その様子を見た若い男性教師が慌てて近寄ってきた。


「だ、大丈夫か!? 頭部が痛むのか!?」

「先生にもらった古い本を見ていたら出雲が突然痛がって!」

「すぐに保健室に連れて行こう! 君も一緒に連れて行こう!」


 若い男性教師はその場にいる生徒達に教室に戻っててくれと言って大和と共に出雲を保健室に連れて行く。意識を失っている出雲は暗い世界に座っているようであり、その暗い世界で出雲にその本は捨ててと女性の綺麗な声が聞こえてきた。出雲はどうして捨てるのと目を閉じながら答えると、その本は闇の魔法に呪われていると女性は言う。


「闇の魔法? でも俺はあの本がないと属性魔法が……」


 出雲が落胆しながら言うと、光が集まって暗い世界に淡いかが放つ女性が現れた。その女性がこの本を使ってと白色の表紙も何もない一冊の本を出雲に手渡した。


「この本は一体なんなの?」

「その本は光属性を扱えるようになる本よ。 光属性は失われた属性魔法であり、闇を滅ぼすことが出来る唯一の属性なの」

「闇を滅ぼすって、闇なんてどこにもないよ?」


 出雲がどこにもないと言うと、女性が君の世界に闇が蘇ろうとしていると返す。


「古の時代に滅ぼされた、闇の属性を持つ悪があなたがいる時代に復活しようとしています。 あなたが扱える光の魔法のみが闇を倒すことが出来るのです」

「どうして俺なの!? 俺が失われた光属性の魔法を扱えるからなの!?」

「そうです。 あなたは以前に闇を滅ぼした人の末裔であり、唯一光属性に目覚めた人だからです」


 そう言われた出雲は末裔と言われても分からないと答えた。すると女性は今すぐには分からないかもしれないけどと言う。


「いずれ理解する時が来ます。 それまでに守れる力を身に着けて――」


 そう言葉を残して女性は掻き消えるように姿を消した。

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