第7話 昔の約束

「もしかして……あの髪色ってあの時の女の子に似てる気がする……幼かった時の成長した姿みたいだ」


 出雲がそう考えていると、いつの間にか出雲の番が回ってきたようであった。藍に突然名前を呼ばれた出雲は驚いた声を上げてしまった。


「うひゃっ!? は、はい!」

「次は黒羽君の番ですよー! お願いします!」

「わ、分かりました! えっ、えっと……俺の名前は黒羽出雲と言います。 出身学校は大川中学校です。 使える属性は……まだないです……」


 出雲が使える属性がないと言った瞬間、教室内に緊張が走った。藍を含めて生徒達は魔法が使えない人を見たことがなく、魔法が使えるのが当たり前だと考えていたからであった。


 どうしてなのか、何故使えないのか、魔法が使えないのにこの学校に入れたのか不思議に思っていた生徒が大多数であった。だが、龍雅だけは違うようであった。


「今まではたまたま全員が魔法を使えていただけかもしれませんし、生まれてから数年後に魔法が使えるようになったケースもあります。 今現在使えなくても、明日使えるようになるかもしれないですからね」


 龍雅がそう言うと教室にいる何人かの男子生徒が不適格者だと呟いていた。その言葉を聞いた他の生徒は、どんな意味なのか聞いていた。


「この現代において使える魔法が使えない人のことを言うんだよ。 現代魔法を使えないから不適格な者で不適格者って呼ぶんだ」

「そうなんだ。 なら黒羽は落ちこぼれな不適格者なのか」


 出雲のことを数人の生徒が不適格者と呼んでいると、藍が次の人お願いねと喋った。


「次は斑鳩さんですね。 お願いします」

「はい。 私の名前は斑鳩美桜です。 桜蘭女学園から来ました。 使える属性魔法は氷です。 よろしくお願いします」


 美桜が淡々と自己紹介をすると、斑鳩の名前を聞いた生徒達が驚き始めた。


「斑鳩美桜って前にテレビで見たことある! この国一番の大企業の社長の娘だ!」

「俺も見た! 魔法を利用した科学技術を国防組織に提供をしている大企業だ! 前にやってたデモに斑鳩さんがいた映像を見たことがある!」


 美桜のことを生徒達が話していると、美桜がもういいですかと藍に言う。


「そうですね。 斑鳩さんに聞きたいことがある人は後で聞くと言いですよ。 では、これでロングホームルームは終わりです」


 その言葉と共に生徒達はありがとうございましたと頭を下げて言った。休み時間になると、男子と女子生徒が数人美桜の周囲に集まった。その際に出雲は突き飛ばされて地面に倒れてしまった。


「うげっ!? 押さないでよ……」

「仕方ないさ。 斑鳩さんは美人だし大企業の娘で既に仕事も任されているらしいからな」


 地面に倒れた出雲に大和が手を伸ばすと、出雲はその手を掴んで立ち上がった。


「斑鳩さんは話しかけられても興味がなさそうだな。 退屈そうだ」

「そうねとか、一言くらいしか話してないね」


 二人が美桜と生徒達の会話を聞いていると、出雲と美桜の視線が何度か合うことがあった。美桜は魔法が使えないと言った出雲の言葉を聞いて、昔に出会った男の子のことを思い出していた。子供の頃に、父親が一般的な生活を美桜に教えるために住んでいた町にて出会った男の子と遊び、その男の子とは毎週決まった時間に近所の公園にて会っていた。


 二人の子供はお互いの素性を話さずに楽しく遊んでいた。美桜はその男の子と遊ぶことが子供時代の一番の楽しみであり、これまでで最高の楽しかった記憶である。


 だが、その幸せは父親が社長に就任したことで終わってしまった。それは父親が美桜に会社を継がせるために高度な教育を始めたからである。魔法や教養、仕草など美桜の意見など聞かずに強制的に強引に教育をし、美桜は自我を表に出さずに父親の気持ちに報いようと努力をしていた。


「高校だけはここに入るって言ったけど、あの時の男の子はいるのかしら? 国一番の魔法学校に入ろうだけでわかってるといいんだけど……」

「どうしたの斑鳩さん?」

「いえ、なんでもないわ」


 美桜は時折独り言を呟きながらクラスメイトと談笑を始めていた。出雲は大和と共に次の授業の話をしていた。


「次は魔法技術の準備だぞ。 用意はした?」

「魔法技術? なんだっけそれ?」

「魔法と武器を用いた実践式の授業だな。 自分達に適応した武器と、魔法を合わせて動きや魔法を学ぶんだ」

「詳しい!? 説明ありがとう! 準備してないや!」


 出雲はすぐに教科書を鞄の中から探して取り出した。大和は予鈴が鳴ると席に戻った。美桜と話してた人達も自席に戻り、出雲は椅子に座ることが出来た。


「ついに授業だ! 緊張するなー」

「俺も緊張するけど、新しいことだし魔法の授業は楽しみだ」


 出雲と大和が楽しげに話していると、二人の後ろから美桜が二人のクラスメイトの女子生徒と話していた。


「斑鳩さんは家の仕事を手伝ったりしているの? 昨日仕事で来れなかったって言ってたけど」

「そうね。 お父様の仕事に私は深く関わっているわ。 新商品の開発や言えない事柄にもね」

「凄いわ! 斑鳩さんってたまにCMにも出たりしてるよね? 私見たことある!」

「お父様がCM費の節約や情報が漏れるのが嫌らしくて、社内で撮影したりしてるから私がよく起用されるだけよ」


 質問に微笑しながら答えていた美桜は、時折出雲をチラチラと見ていた。美桜は出雲も自己紹介で属性魔法がまだ使えないと聞いて、あの時の男の子ではないかと考えていた。


「まさかね……当時の子供の頃の約束なんて忘れてるわよね……」

「どうしたの斑鳩さん?」

「何かあったの?」

「あ、なんでもないわ。 ごめんなさい」


 二人に心配された美桜は謝って、再度二人と話し始めた。出雲達は指定された校庭に出ると既にクラスメイト全員が集まっていた。


「もう集まってるな。 みんな緊張してるみたいだ。 俺も緊張して来た」

「俺もだよー。 魔法と武器だなんてどうやって学ぶんだろ」


 出雲と大和が不安気に感じていると、若い男性教師が現れた。

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