三
「なんで」
カーディガンにスウェットパンツという部屋着で森にいた。
あたりを見回す。
高い木々に囲まれているが、わたしが立っているのは道らしく、草が生えておらず土がむき出しになっている。道幅は人が一人通れるくらい狭い。
「どうしよう」
スマホを確認する。
案の定、電波が届いていない。
ため息をつく。
チラリと道の先に目をやる。
やはり気になるのは、そこで倒れている人物だ。
さっき目に入ったけど、かかわりたくなかった。
黒いジャケットと黒ズボン、それから黒いハットをかぶった男が道の片方をふさぐように倒れている。
かかわりたくない。
こんなところで襲われたら助けも求められない。
でも病気か怪我だったら。
いや、そうやって心配した女や子供を襲っているのかもしれない。
だがその男はかなりの細身で、風が吹けば折れそうな体型をしている。
わたしでも負けないように思える。
でも武器を持っているかもしれない。
……慎重に近づこう。
すぐそばに落ちていた太い木の枝を拾い、両手で構えながら近づく。
男は特徴のない顔をしていた。
それでも苦悶の表情を浮かべていることがわかる。
「あの、大丈夫ですか」
「うぅ」
男はうなった。
油断せずに枝の先を向けながらたずねる。
「どこか痛いんですか」
「……いんだ。苦しいんだ」
救急車を呼ぶことを考えた。しかしここに電波は届いていない。
「できれば助けを呼びたいんですが、ここは電波届いてなくて、近くにお知り合いは住んでいませんか」
「いや、いいんだ。いくら苦しくても、原因が退屈なら死にはしない」
おかしなことを言っている。
やはりかかわないほうがいいように思える。
「……そうですか。ここはどこですか。わたし、いきなりここにいて。近くに誰かいるところがあれば知りたいのですが」
「それなら、あっちへ進むといいだろう。黒っぽい友人がハイキングをしている」
男は道の先を指さした。その先は道がカーブしているので奥は見えない。
黒っぽいというはきっと服装のことだろう。
「ありがとうございます。お大事に」
軽くお辞儀をし、男の動きに警戒しながらこの場を後にする。
カーブで見えなくなるまで、男はぐったりと倒れたままだった。
そして、道を進んだ先のことだ。
木々に囲まれた円形の広場に出ると、中央の長机が目に入る。
机を挟むように席についているのは、黒っぽい影。
かすむような人影が動いているのだ。
黒っぽい、影……
――黒っぽい友人、いた。
彼らは人間なのだろうか。
二人の影、いや、影の二人はティーカップを持って何かを話している。
やはり戻って黒い男にこの場所を吐き出させようか。
いや、どちらにしても怪しいのだ。
こちらの相手は二人だが、影であれば木の棒でも勝てる望みはあるかもしれない。
早くこの森から抜けださなければいけないのだ。
わたしは長机のほうへ歩いて行った。
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