二

 午後十一時。

 自分の部屋で高校受験の勉強をしていた。

「また体積を求めよ、か」

 数学。まあまあ苦手。

 なんか丸っぽい図形なので円周率を使うことはわかる。

 そういや円周率ってなんだっけ。

 たしかπと書いてパイと読む。

 パイ……か。

 ノートに円を描いて真ん中に直線をひいてみる。

「あー、アップルパイ食べたい。お腹空いた」

 円に線を次々と足してアップルパイを描く。

「休憩しよ」

 席を立って部屋から出る。

 それから自室に戻ったのは一時間後。

 ちょっと休むつもりだったがテレビをつけたのがよくなかった。

 気を取り直して席に着き、ノートと向き合う。

「なんだこれ」

 ノートには黒い円形。

 さっきアップルパイを描いたところだ。

 そこが黒く塗りつぶされている。

 家族の誰かがいたずらしたのだろうか。しかし両親はもう寝室で寝ているし、大学生の姉もこんなことをする人じゃない。

 顔を寄せてじっと見る。

 そのとき、円形の中で何かが動いた。

 何か白いものがチラリと見えた気がした。

 勉強のしすぎで疲れているのだろうか。

 いや、それはない。

 しすぎていないことは自分がよく知っている。

 目をぎゅっと閉じてから開き、また円形をじっと見る。

 ――あ、これ穴じゃないか。

 よく見ると、黒く見えるのは塗られているからではない。

 光の反射が一切ない。

「どうして」

 穴が開いているページをめくってみる。

 しかし次のページには穴どころか何も書かれていない。

 本当に穴なのか疑わしくなり、ページを戻してから穴にシャーペンの先を近づけ、少しだけ入れてみる。

 入った。

「マジか」

 穴を覗き込んでみる。

 何も見えない。闇だった。

 スマホを手に取り、ライトをつけて穴の上にかざしてみる。

 しかし、それでも何も見えない。

 姉に見せてみよう。

 そう思ったときだった。

 腕だった。

 白かった。

 手首をつかまれた。

 息をのんだ。

 その瞬間には、森の中にいた。

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