106. 王城見学
「王城見学なら、
マリアンヌが言った。
二人の様子を見れば、話はすでにまとまっているのだろう。
「よろしいので?」
「もちろんですわ」
マリアンヌは微笑んだ。
「セリーズさんは、すでにお友達ですもの。それに、特待生の彼女を、
ね? と、頭一つ分低い顔を覗き込むマリアンヌに、赤く染めた顔を頷かせるセリーズ。
なに仲良くなってんのこの二人? マリアンヌもセリーズの攻略対象なの?
そういえば、マリアンヌもメイン女性陣と同様のキャラクターデザインだ。僕の仮説どおりなら、彼女も好感度ステータスを持っていておかしくない。
二人の百合展開もなかなか見ものかもしれない、などと僕が想像しているとは思い浮かべもしないだろう、マリアンヌは僕へと微笑みかけた。
「ステファン様は、御用事があっていらしたのではなくて?
「ああ……そうですか。そういうことでしたら、お願いいたします」
マリアンヌが、僕に気を使ってくれたのだ。
彼女の中では、いずれ、僕が宰相になり、自分が閣僚となったときに協力し合う図が、見えているのだろう。
僕の方は、自分が国政の重責を担うことになるなど、まったく想像がつかない。
いま頭にあるのは、ヴィルジニーとの甘い日々だけだ。
僕は、ただ宰相の息子というだけで、自分に政治家をやるような才覚があるとは、信じていないのだ。
セリーズはジョアンナに礼を言い、事務室の面々に見えるようにそちらに頭を下げ、それからマリアンヌと共に廊下へと出た。僕も一緒に出る。
「ステファン様は、どちらへ?」
振り返ったマリアンヌに言われ、僕はどうしようか、と考えた。父が戻るまで時間調整の必要はあるが、せっかくセリーズを押し付けられたのだし。
「王子のところへ行こうかと」
「御内廷へ? それならば、見学もそこから参りましょう」
「御内廷、って、王族の方たちが住んでらっしゃるところですよね」
なぜか怯えたような顔をするセリーズ。
「そのようなところを、見学できるのですか?」
マリアンヌは微笑んで首を横に振った。
「もちろん、外から眺めるだけです。荘厳で、大変美しい建物なのですよ」
三人連れ立って、一度、建物の外へ出る。
独立した建物である御内廷へは、外から行ったほうが早いのだ。
御内廷は、王城でも最も奥まったところにある。
よく整備された公園のような敷地を歩いていると、まるで散策しているような気分だ。
マリアンヌがする建物の説明を聞き、真剣にメモを取るセリーズ。その手帳には見覚えがあった。
いつだったか、僕がセリーズに進呈したものだ。どうやら、使ってもらえているらしい。
メモを取りながら歩いていたからだろう、周辺確認が疎かになったセリーズは、横合いから飛び出してきた人物とぶつかってしまう。
「あっ……申し訳ありません」
ぶつけてしまったのか、鼻の辺りを押さえ後ずさりながら、相手をろくに見もせずに謝罪の言葉を口にするセリーズ。
そのセリーズより頭一つ分ほど背の高い相手は、後方によろけかけたセリーズの背中にさっと手を伸ばし、その身を支えた。
「失礼。大丈夫ですか?」
透き通るような、中性的な声。
その人物は、とても美しい顔立ちをしていた。
美少年、という言葉は、まさに彼のためにあるように思えた。背はさほど高くなく、僕よりも低いぐらいだが、おそらくそれが、彼の中性的な魅力を更に引き立てていた。完璧な造形の整った細面、ショートボブにした、ヘーゼルベージュの柔らかそうな髪。美しく澄んだ、優しげな茶色の瞳。瑞々しい唇――
至近距離でそれを見ることになったセリーズは、惚けた表情。その美しい顔から、目が離せないようだ。しかし、無理もない。あれほどの美人にあの距離で見つめられたら、僕だって赤面してしまったことだろう。
そして僕は、その人物を見たとき、思い出していた――この感覚も久しぶりだ。
僕は、その
もちろん、今生で、ではない、前世の記憶だ。
間違いない。彼は、このゲームの公式サイトで、
「貴方は……」
進み出たマリアンヌが、その美少年に声を掛けた。
気付いた彼が、ようやくセリーズから目を離し、マリアンヌの方へと顔を向ける。
「貴方様は、もしや――クロード様?」
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