41. 予定外の告白

 ヴィルジニーは。

 呆気にとられた様子で、しばらく硬直フリーズしていた。


 やがて、ゆっくりと身体を椅子へと戻すと、微かに首を傾げる。


「なに……なにをおっしゃいました?」


 まったく信じがたい、というふうに言う彼女の様子が、とてもおかしく思えて、おかげで少し冷静になれた僕は、口元に笑みを浮かべる。


「好きだ、と言ったのです」


 今度ははっきりと眉間にシワを寄せたヴィルジニーは、今度は逆方向に首を傾げた。


「それは…… は? ……どういう意味です?」


「意味も何も」


 僕は肩をすくめた。

 そのころには、もうどうにでもなれ、という気分だった。

 開き直り、というやつだ。


「言葉通りですよ。恋の告白、です」



「あっ、貴方あなた!」


 ヴィルジニーは椅子から勢い良く立ち上がった。


「ごっ……ご自分が何をおっしゃっているか、わかっていらっしゃいますの!? わたくしは……わたくしは、フィリップ王子の……王族の婚約者なのですよ!?」


「気をつけてください。あまり大きな声は、外に聞こえます」


 引きずられず、抑えた声で言えた僕は、自分の唇に人差し指を当てる。


 ヴィルジニーは、興奮している様子だった。僕の指摘に口こそ閉じたが、頬を紅潮させ、驚きに満ちた表情で僕を見下ろしている。


「もちろん、わかっております。ですから、秘密にしていてくださいね。誰かに知られたら、大事になりますゆえ」


「そっ、そうです!」


 ヴィルジニーは声量こそ抑えたが、強い調子で言った。


「そのようなこと……たとえ冗談でも、口に出すべきではありません」


「冗談ではありません。本気です。本気で好きです」


「ほっ……本気でしたら、なおのこと」


 ヴィルジニーの表情は、そのころには真っ赤になっていた。


「そのような気持ち……決して表には出さず、胸のうちにしまっておくべきでしたわ」


 僕はやれやれ、と首を振る。


「貴女が聞かれたのではないですか」


「そっ、それはそうですが……っ!」


 ヴィルジニーはついに気恥ずかしくなったのか、身体ごとそっぽを向いた。自分の両肘を抱えるように抱く。


「だからといって、馬鹿正直にそのような……」


「貴女の勘違いのせいです。王子の味方だから、などと思われては」


「なにもかもわたくしのせいですのね!」


 忌々しげにため息をついたヴィルジニーは、顔を赤くしたまま、横目で僕を睨みつけた。


「いいでしょう。今の言葉は、聞かなかったことにしておきます」


「えっ? それは……それで、困る、というか」


「なぜ貴方が困るのです!?」


「いや、だって……僕の気持ちは知られて――」


わたくしの気持ちも、考えて下さい!」


 ヴィルジニーは、真っ赤に染まった顔を怒ったような表情にして、言った。


「殿方に、本気で好きだ、なんて言われたの……生まれてはじめてだったのですよ!」


 それを気にする、とは思わなくて、呆気にとられた僕は、思わず目を丸くする。


「それは……申し訳ありません」


「なぜ謝るのですか!」


 やはり怒ったように、言ったヴィルジニーは。

 直後にハッとした顔をして、僕を睨みつけた。


 それから素早く身を翻して、急ぎ足で部屋を出ていく。


 力いっぱい閉められた扉が、バタン! と大きな音を立てた。

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