6. 僕の目論見
王子に対しては、彼、というか国益のために振る舞うと約束した僕ではあるが、ここが(どういう仕組みかはわからないが)ゲームの世界だとわかった以上は、その知識を最大限に活かして利益を享受したい、と考えていた。
つまり、絶対に手に入らないと思っていたものを、手に入れたくなったのだ。
ヴィルジニー・デジール――見た目だけは美しい、文字通りの高嶺の花。
そりゃあ、確かに彼女、性格には問題がある。しかし、逆に考えてほしい。
あのような、我儘で高慢で
彼女を手に入れる――イラストのヴィルジニーではない。現実の彼女をものにするのだ――想像するだけで思わず身震いする。武者震い、というヤツだ。
僕は自室にあったポスターイラストを思い出す。
あれは最高だった。二次元の世界に行きたいと、あれほどまでに思ったことはなかった。
――それが理由だろうか、僕が、プレイすらしていないゲームの世界に転生してしまったのは。
いずれ、神様にでも会うことがあれば、聞いてみよう。きっと
つまり言いたいことは――僕は前世から惚れていたのだ! ヴィルジニー・デジールに!
現世において、僕はヴィルジニーの美貌を好みだと思いながらも、その苛烈な性格と、なによりもすでに婚約者がいる、しかもそのお相手は自分の友人にしてこの国の第三王子、等々の理由で、恋愛対象からは外していた。
そのせいかどうかはわからないが、とにかく、女性全般を恋愛対象として扱って来なかった。正直、女性にそういう意味での興味があまりなかった。
しかし、今は、少し事情が違う。
ここが、乙女ゲームの世界だと思い出してしまった。
そしてフィリップ王子が、このゲームの“攻略対象”であることも。
フィリップ・ド・アリオン。僕は彼のこともまた、前世から知っていた。
パッケージイラストにも大きく使用されているフィリップは、公式サイトのキャラクター紹介でも、先頭に紹介されていた攻略対象だった。
ゲームの顔役でもある、正統派王子様――その紹介文の最後には確か、「彼には誰にも秘密にしている真の姿があって……」みたいなことを書かれていた気がするが、おそらく主人公が接近する経緯で明かされる秘密とか、そういう設定があるのだろう。
とにかく重要なことは、彼が攻略対象である、つまり、
前世の記憶を思い出した、今。
攻略対象リストの筆頭にいたフィリップ第三王子の婚約者が、ゲームの主人公の最大のライバルとなる悪役令嬢ヴィルジニーであることは、シナリオ的要求だったのではないか、と思える。
僕は、ゲームをプレイしていない。故に、人格者とされているフィリップ王子が、なぜヴィルジニーを婚約者にしたのか、その理由を、知らない。
現世においても、これまでに聞いたことはなかった。
彼が自ら話すことはもちろんなかったし、まさか僕の方から聞くわけにも行かなかった。
聡明な王子のことである。ただ惚れた腫れただけで婚約に達したとは、考えられなかった。
主人公がもしもフィリップ王子を“攻略”するなら、その時は当然、婚約は解消させなければならない。
であれば――おそらくその婚約には、なにか理由がある――設定されているはずだ。
主人公、セリーズが、フィリップ王子を攻略してしまえば。
悪役令嬢ヴィルジニーとの婚約は、当然のことながら解消される。
そうなれば、ヴィルジニーを僕が頂いても、何の問題もない。
ゲームとして、セリーズと王子が一緒になるルートがある以上、その道を辿らせるのは、決して難しいことではないはずだ。
セリーズの王子攻略を支援しつつ。
僕はヴィルジニー・デジールを攻略する。
それが僕の、真の目論見だ。
このゲームをプレイしたことはない――そもそも乙女ゲーム自体、プレイしたことがない。
だけど、ゲームとしてどういう構造なのかは、理解しているつもりだ。
できるはず――いや、やるんだ。
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