第13話 穏やかな日々02

 あのモンスター襲撃から一週間が経った。


 襲撃の規模はかなりの大きさだったが、ちょうど町に居合わせていた王都開拓者達の活躍によって被害は驚くほど少なかった。その結果町の復旧はかなりのペースで進み、現在では以前と変わらない町並みに戻りつつある。


 王都開拓者達は襲撃について調査し、人間をオーガに変えたのではないかと言う推論に行き着いた。そしてこの前代未聞の事件について報告をする為に彼等は早い段階で王都に帰還する事となった。


 シグレはその事をエクスに伝えて仲間と共に帰還したが、その去り際に、


「お主らが目覚めたその力は、うまく制御しなければ自らを危険に晒すことになる。もし開拓者になると言うのなら、ここに行って力を磨くといい」


 と言って簡易的な地図を手渡していた。


 孤児院はオーガによって破壊されていた。その事が影響したのか、ミラはこれを機に孤児院を畳む事にした。


「シグレさんが教えてくれた場所に行くんでしょう?私はあなた達を見送った後に母国に帰るわ」


 母国の教会に帰り、そこで生活をするとの事だった。エクスはミラを一人残すことを心配していたが、それを聞いて少し安心していた。




 そして次の日。


「行きましょう!エクスさん!」


 そう言いながらエモがエクスの手を引っ張り、二人は宿屋を出た。色々と落ち着いてきた頃を見計らってエモはエクスに前の約束を果たしてもらう事にしたのだ。


「何を食べるか決めたのか?」


 エクスは問いかけた。エモはその質問を待ってましたと言わんばかりに口を開く。


「たっこ焼き!」




 たっこ焼きは蛸の代わりに食感の似た山菜を使用したたこ焼きである。


 たっこ焼きを買った二人は近くにある高台の上で食べる事にした。そして登った後、エモはおずおずと一つを頬張った。すると目を見開いて


「お、おいしいです!」


 と言って、エモは人生初たっこ焼きの美味しさに驚いていた。エモの好物が誕生した瞬間である。


「そうだな」


 そう言ってエクスもたっこ焼きを口に放り込んだ。食べている最中、その目は町の景色に向けられていた。


 上から町を見下ろすと、所々瓦礫の片付けが終わっていなかったり、魔法を使って整備をする人がいたりと、襲撃の爪痕がよく見えた。


 そんな襲撃からエクスが連想するのは、やはりオーガとの戦闘だった。一方的に攻撃されていたのが、最後の最後で逆転したのだ。右腕に目をやると、灰色のアザが夢ではないと言うように今も刻まれていた。


「大丈夫ですか?」


 エモが神妙な表情のエクスを心配して声をかけた。エクスがエモを見ると、同時にエモの髪も目に入った。


 新雪のような白髪だったエモの髪は、左側の目から耳にかけて金色の模様に染まっていた。


「ど、どうしたんですか……?」


 エモはエクスがじっと見つめてくるので頬を少し赤くした。


「ああ、いや。髪がちょっと変わったな…って思ってただけだ」


「あ、そうなんですよ!私も初めてミラさんに言われたときはびっくりしました」


「あのときのエモ、すごい慌ててたよな」


「う…でもエクスさんの腕も人のこと言えないですよ!」


「まあ、そうだよな……」


「私の方はまだそこまで目立たないですけど、エクスさんのはすっごく目立ちますし」


「ぐ……」


「ちょっと普通の人には見えないというか……」


「ぐぬぬぬ……」


 エクスはアザが悪目立ちすることをかなり気にしていた。命の恩がある手前何も言えないが、もう少し場所と色を変えてくれても良かったのではないかと思わずにはいられなかった。


(何か布で覆うか?いやしかしそれはそれで宜しくない見た目になるぞ……)


 と考えながらエクスが唸る一方、エモは


(まぁでも、模様が私のと似ててお揃いだからちょっと良いかなーって思ったり思わなかったり……)


 と、実は意外と気に入っていた。




 二人がたっこ焼きを食べ終えてからしばらくして


「あ」


 とエクスは自らのポケットに手を突っ込んだ。


「エモ、これ」


 エクスがポケットから取り出したのは歯車と鍵がくっ付いた髪留めだった。エクスはエモにそれを手渡した。


「やったー!ありがとうございます!」


 エモは髪留めをキラキラした表情で受け取ると、飛び跳ねて喜んだ。エクスはその様子を見て微笑みながらも


(思ったより驚かないな……)


 と、サプライズに失敗して少し落ち込んでいた。そんなエクスをよそに、エモは早速髪留めをつけてみた。


「エクスさん、どうですか?」


 エモがエクスの前で回る。髪留めはエモの髪の模様と絶妙にマッチしていて、とても良く似合っていた。しかしそれは同時にエクスのアザが更に浮いて見えると言うことでもあった。


「あぁ……良く似合ってるよ……」


「あれ?エクスさん、どうしてそんなに落ち込んでるんですか?」


「落ち込んではいない……」


「じゃあ何でそんなに遠い目をしてるんですか?おーい、エクスさーん?」


 エモはエクスの目の前で手を振るが、それによってエクスが我に帰ることはなかった。




 そんなこんなで約一ヶ月間、エクス、エモ、ミラの三人は旅立ちの準備を進めていった。

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