第10話 怪物
「GAAAAAAA!」
オーガはエクスを見つけると、叫び声とともにエクスに向かって突進した。ミラとエモのことは既に眼中にないようで、二人を通り過ぎてエクスに肉薄する。
エクスはオーガの切り替えの速さに少し反応が遅れてしまった。
オーガは突進の勢いのまま右腕を振るう。
(まともに食らったら死ぬ!)
「くッ!」
エクスは咄嗟に横に飛んで避けると、すぐさま立ち上がり走り出した。来た道を引き返し、町を出てダンジョンへの道を走る。
「GUAAA!」
オーガもエクスを追いかけて町を出て行った。
「エクスさん!」
エクスがきてほっとしたのも束の間、今度はエクスが危機に晒される事になった。エモは体を起こして立ち上がった。
(このままじゃ、エクスさんが……!)
「エモ、シグレさんを探してきて!」
ミラは起き上がりながら言った。エモがミラを見ると、先程転んだ影響でミラは足から血を流していた。
「ミラさん!?」
「私は大丈夫だから……行って!」
「……ミラさんは孤児院で待っていて下さい!」
そう言ってエモは町に飛び出した。しかし、ミラはエモを見送ると、
「ごめんなさい」
と言って孤児院から離れていった。
「はっ、はっ、はっ」
エクスは走りながら打開策を考えていた。
(どうすれば奴を止められる?手持ちはナイフと植物の入った巾着袋だけだ。ダンジョンまで行けばツルハシなんかがあるが……来るッ!)
オーガが地面を蹴る度に重いものが落ちるような音が鳴り響く。その音が近づいている事を察して、エクスは90度方向転換した。
「ッ!」
「GAAAA!」
道の両側は森になっている。エクスはオーガの攻撃をすんでのところで避けると、手頃な枝にジャンプして掴み、勢いを利用し半回転して枝の上に立った。
オーガは攻撃が当たらないことに苛つきながらも、一直線にエクスに向かってきていた。
エクスはそんなオーガを尻目に巾着袋から植物の蔓を手に取った。そして蔓を縄跳びの様に両手で持つと、オーガに向かって飛び込んだ。
「はぁっ!」
エクスは蔓をオーガの首に引っ掛け、そのまま全力で引っ張った。
「GUU……!?」
丈夫な蔓は引っ張っても千切れる事はなく、オーガの首をきつく締めた。オーガはうめき声をあげて、抵抗できずに後ろに倒れた。
「これでも食らえ!」
エクスは蔓を捨ててナイフを抜き、オーガの目に突き立てる。
ナイフを振るうエクス。それを見て、オーガは苦しそうな表情から一転、凶悪な牙を見せて笑った。
(何だ……!?)
エクスに悪寒が走り、逃げようとするが既に遅かった。
オーガはエクスが近づくのを待っていた。油断させるために、わざと直線的に動いていたのだ。
(避け切れない!くそっ!)
エクスは咄嗟に体を捻り、植物が詰まった巾着袋をクッションがわりにオーガに向ける。
「GAAAAAA!!」
オーガは腕にマナを纏わせると、その腕でエクスを弾き飛ばした。
「かはッ」
エクスの体は軽々と吹き飛ばされ、木々の枝にぶつかりながら、最後はダンジョンの道に転がった。
「ぐ……う……」
エクスはギリギリのところで意識を保っていた。奇跡的に離さなかったナイフを地面に突き立てて、顔を上げる。
エクスの目には、満足そうな笑みを浮かべながら近づいてくるオーガが映った。勿論、その体には傷一つない。
(くそっ。やれると思って、近づきすぎた……)
軋む体に鞭を打ち、エクスは立とうと体を起こす。しかし、その様子を見ていたオーガは自らのマナを解放した。突如として現れた突風に、エクスは堪え切れずに倒れてしまう。
(魔法が使えるオーガなんて、聞いた事がないぞ……)
「ぐっ……」
オーガは強風になす術なくひれ伏すエクスを見下して、
「GUGAGAGA!」
と嗤った。
オーガはこれでとどめだと言わんばかりに腕にマナを集めていく。エクスはその様子を眺めながら、
(やはり、俺が正しかったな。エモ……)
と、思った。
エクスは体から力が抜けて行くのを感じた。無力に倒れた状態。まるで、自ら首を差し出している様だったが、エクスにはその状態が一番楽だった。
オーガがマナを集め切って、エクスの方に向いた。
エクスはオーガの目を見た。狂気に満ちたその目を見ても、エクスの心は動かなかった。
そんなエクスの曇った目に、横から何かが現れた。
血塗られた足、見覚えのある服……。そこまで理解して、一気にエクスの意識が覚醒した。
「ミラ!?」
エクスは痛みも気にせず勢いよく顔を上げた。そこには、
「エクスの前に、私をやりなさい!」
と言って両手を広げる、ミラがいた。
「GA?」
強風吹き荒れるなか、ミラはオーガから目を離す事なく立ち止まり続けた。
オーガはそんなミラの様子に苛立ちを覚えた。自分の邪魔をする存在は消さなければならないと、本能が訴えている。
オーガはまず先にミラを消す事にした。ちょうどこの腕を振れば、確実に葬れるだろうと、少し振りかぶる。
ミラは、そんな状況にも関わらず首を回してエクスに微笑みかけた。
エクスは、ミラの表情を見て、全身が熱くなるのを感じた。
腕に力を込めて、
足を前に出して、
走り出す。
「お前の相手は、この俺だあああぁぁぁ!!!」
エクスは手に持っていたナイフをオーガに突き刺した。
風が止んだ。
「GU……AA!?」
オーガが数歩後ずさる。痛みとともに、オーガはエクスのことをはっきりと思い出した。この男に風を止められたのは二回目だ。エクスだけは、絶対に、ゼンリョクで、ケサナケレバ!
「GAAAAAAAA!!!」
エクスはオーガがこちらに意識を向けたのを確認して、走り出した。ナイフはオーガに刺さったままで、エクスは代わりの武器を手にするためにダンジョン横にある荷物置き場に向かった。
しかし、我を失ったオーガがそれを許さない。ありったけのマナを腕に纏わせて拳を振るうと、先程とは比べ物にならない威力の超強風となってエクスを襲う。
エクスは飛び込み伏せることでなんとか回避できたが、超強風はそのままエクスの頭上を通り過ぎて荷物置き場を木っ端微塵に吹っ飛ばした。
「くそっ!」
エクスは立ち上がり、必死に足を動かす。オーガに動きを捉えられればそこで終わりなのだ。
エクスは追い込まれる様に廃ダンジョンに入って行く。
そのすぐ後ろで、怒り狂ったオーガが二発目を準備しながら追ってきていた。
残されたミラは道の脇に崩れるように座り込んだ。そして、
(もう私には祈ることしかできないわ……)
ネックレスを掴んでいた。
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