第5話 エクスの欠点とエモのピンチ

 エモはエクスの腕を引っ張りながら、


「まずはどこに行くんですか?」


 と声をかけた。


「とりあえず町の中心に行くか。どこに行くにも中心からなら近いからな。……あっちだ」


 エクスがそう言って方向を指さすと、エモは


「分かりました!」


 と言って歩き出した。ダンジョンでの事で懲りたのか、適当な方向にずんずん歩くのはやめたようだ。しかし、相変わらず目を輝かせて辺りを見回している姿にエクスはくすりと笑いながらエモについていくのだった。


 町の中心に近づくにつれ、通行人が増えてきた。通行人の服装は様々で、重装備で武器を携えている者もいれば考古学者のような者もいた。これは、数十年前から流行り出したある職業の影響だ。


「エクスさん、あの大きな建物は何ですか?」


「あれは『開拓者ギルド』と言って、簡単に言えば開拓者達を取りまとめてる場所だな」


「かいたくしゃ?」


「ああ。この世にはな、人類が入った事すらない未踏の地が沢山あるんだ」


「そして開拓者と言うのは、その未開の地に入って、ダンジョンを見つけて攻略したり、古代文明の遺跡を発掘したりする職業なんだ!」


「へぇー!すごくロマンのある仕事ですね!」


 数十年前から流行り出した仕事、それは、『開拓者』。未踏の地には凶悪なモンスターがいるだけではないことを知った各国は、競って開拓者を奨励した。開拓者達がもたらす古代文明の遺産、『アーティファクト』は、国の産業、文化、軍事を飛躍的に向上させているのだ。


「エクスさんも、開拓者になるんですか?」


 エクスが楽しそうに開拓者を語るのを見たエモは、


(エクスさん、開拓者が好きなんだろうなー!)


 と言う思いで聞いてみた。


 だが……


「いや、俺は


 どこか諦念を感じさせる表情で、エクスはそう呟いた。


「え……?」


「俺じゃあ無理なんだよ、エモ」


 その有無を言わさない口調に、エモも口を閉じてしまう。それに気付いたエクスは、少し慌てた様子で


「よ、よし!次はあっちの小麦畑を見に行くぞ!」


 と、開拓者ギルドを通り過ぎて行く。


「……」


 エモは、一瞬唇をきっと結んだが、


「そうですね!行きましょう!」


 と言ってエクスについて行く。


(どうしてそんなことを言うのか分からないけど……エクスさんを励ましてあげなきゃ!)


 と思いながら。







 小麦畑、高台とエクスはエモを案内した。そんな穏やかな時間によって、二人にも笑顔が戻ってきていた。


「それじゃ、最後に市場に行くか」


「いちば!楽しそうな響き……♪」


 エモはスキップをしてくるくる回った。




 昼下がりの市場は大きな賑わいを見せていた。大通りの至る所で出店が開かれており、多種多様な品々が売られていた。


 エモのテンションは最高潮に達しており、エクスをぐいぐい引っ張っては台に並べられた品に


「かわわぃ……!」


 と感嘆の声を漏らしたり、屋台から漂う香ばしい香りにヨダレを垂らしそうになっていたりと全身で市場を満喫していた。


 振り回されてばかりのエクスは目を回していたが、ふと動きが止まったのを感じてエモに視線を向けた。そこには、アクセサリーを並べた出店でその内の一つをじっと見ているエモがいた。


 そのアクセサリーは髪留めだった。ただ、普通の髪留めとは違い、小さな歯車と鍵が付けられた少し無骨なものだった。


「嬢ちゃん、その髪留めが欲しいのかい?お目が高いね!これはね、ダンジョンに落ちてた部品を使っているのさ」


 台の向こう側からおばあさんが声をかけてきた。


「ほら、そこの連れのお兄さん。嬢ちゃんに買ってあげなよ!今なら安くしとくよ〜?」


 エクスはちらと値札を見た。


(まあ、それ程高くはないが……)


「だ、大丈夫です、おばあさん。エクスさん行きましょう!」


 エクスが思案げな顔をしているのに気づいたエモは、少し顔を赤らめながらそそくさと店から離れるのだった。




「ちょっとお腹が空いてきたな」


 あれから少しして、エクスがそう独り言を呟いてエモを横目で見ると……


「……〈じゅるり〉」


 凄い期待の目でこちらを見るエモがいた。もし彼女にしっぽがついていたなら今どうなっているのだろうと少し想像してしまう程で、


(なんか子犬みたいで可愛いな……)


 とエクスはふと思った。


「分かった分かった。じゃあ、少し小遣いをあげるから、その辺の屋台で買いなよ」


「やった〜!」


 エモは両手を上げて飛び跳ねた。


「その間に俺は仕事の報告をしてくるから、変なところには行くなよ?」


「りょーかい!」


 エクスは手提げ袋からお金を取り出すとエモに渡して、


「あんまり食べ過ぎて夜ご飯食べれなくならないようにな」


 そう言って、市場から少し離れた資材置き場に向かった。


(さて、どこまで報告するか…)


 エクスは歩きながら、そんな事を考えていた。


(今日は色々あって結局仕事は出来てないんだよな。事情を一つでも説明したら、全部説明しないといけなくなりそうだ)


 資材置き場に入ると、大柄な男達が資材を加工している所だった。リーダーの筋骨隆々な男がエクスに気付いて近づいてきた。


「おう、エクス。ロウのじいさんから話は聞いてるぜ。A区画に入ったんだってな」


「はい。入ることは出来たんですが……。仕事までは厳しかったです」


 結局エクスは『呪い』が強力で何も出来なかったと報告した。少し罪悪感はあるが、話がエモに飛び火する事を避けたかったのだ。


 エクスは給料を受け取ると、足早に去っていった。


 用事を手早く済ませ、エモを探す。


「どこにいるんだ?」


 人通りが多く、すぐには見つけられない。


(白い髪、白い髪……)


 エモの特徴的な白髪を目印にする。そして、


「いた……」


 遂にエクスは見つけた。


「こ、来ないで!」


 ガラの悪そうな男に絡まれているエモを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る