第4話 謎の少女

(どうする?)


 エクスは冷や汗のようなものをかいていた。


 真っ白な髪、真っ白な肌、そして真っ白な服。そんな彼女はどう見ても異質だった。崩落が起こったときは咄嗟に手を引いて助けたが、町の中で見かけていれば絶対に話しかけたりはしないだろうとエクスは思った。白い服を着ることのできる人は貴族かお金持ちの商人だけなのだ。


「た、助けてくれて、ありがとうございますっ!」


 エクスが一人で悩んでいると、少女が声を出して勢いよくお辞儀してきた。突然のことにまた飛び退きそうになったエクスだが、その温かみのある澄んだ声に平静を取り戻すことができた。


「助けがなかったら、どうなっていたことか……」


 そう言いながら少女は崩落を思い出したのか、体を震わせていた。エクスは彼女を落ち着かせるように、穏やかに話しかけた。


「君は、あそこがどういう場所か分かるか?」


「それが……全くわからないんです」


 それからエクスは少女にいくつか質問をしたが、彼女はあの研究室らしき部屋のことも、エクス達の住む町のことも、全く知らなかった。


「気が付いたら部屋にいて、そこをあなたに助けられたんです。すみません。分かるのはそれだけです……」


「……まあ、分かった」


 彼女の事情は殆ど分からなかったが、状況は孤児のようなものかとエクスは理解した。孤児ならばとエクスは少女に話し掛ける。


「それで、これからのことなんだが……とりあえず、うちに来るか?俺の家は孤児院になってるから、そこにしばらく居れば良いんじゃないか」


「い、良いんですか?」


「ああ。ただ、孤児院と言っても今は俺を含めて二人しかいないし、すごく小さいんだけどな」


「全然大丈夫です!ありがとうございます!わわ私、お手伝い頑張ります!」


 少女はぱっと表情を明るくして、何度も頭を下げた。エクスはそれを見て、苦笑していたが、そこに負の感情はなかった。


「そう言えば、名前を聞いてなかったな。俺はエクス。名前は覚えてるか?」


「覚えてます!私はエモです。気軽に呼んでくださいね!エクスさん!」


 そう言ってはにかむエモ。エクスは、あのときエモを救い出して本当に良かったと思った。


「そうと決まれば早速行きましょう!」


 エモはエクスの方を向きながら、体は別方向にずんずん歩いていく。


「あ、ちょっと待ってくれ。ダンジョンに荷物とりに戻らなきゃ……ってそっち町と逆方向なんだが……」







「へぇー。エクスさんはダンジョンに採掘しに来てたんですね」


 二人は廃ダンジョンに置いて来てしまった荷物を取り戻した後、荷車などの片付けをして家である孤児院に向かって歩いていた。


 幸いにも崩落は廃ダンジョン全体で起こってはおらず、あの研究室らしき部屋が崩れていただけだったので簡単に荷物を回収する事ができた。


「今日でダンジョン採掘は終わりなんだがな。エモのいた区画で最後だったんだ。そこを俺が任されてたってわけ」


「あ、だから他の方がいなかったんですね!」


 エモの言う通り、今日はエクスを除いて誰も来ていなかった。今までは10人程度で協力して仕事をしていたのだが、A区画は例の『呪い』によって満足に仕事できないことが予想されており、ロウもあまり期待していなかったのだろう。


「そうだな。今日は現場監督のじいさんもいないし、A区画は呪いが酷いらしいから……ってエモも呪い大丈夫だったのか?」


「呪い?」


 エクスはエモに『呪い』の説明をした。するとやはりエモにも呪いの影響は無かったようだ。エモはA区画にいたことから予想はしていたが、エクスは自分以外で呪いに耐性がある人を初めて見たので、少し親近感を抱いたのだった。


 そうこうしている内に二人は町に着いた。エモは町に入るなり目を輝かせてキョロキョロと辺りを見回していた。それを見たエクスは肩をすくめて、


「町は後で案内してやるから、先にうちに行くぞ」


 と言った。今のエモは良くも悪くも目立ちすぎるのだ。エモがどこかに行かないように気を配りながら孤児院に向かう。


 孤児院では、今日もミラが掃除をしていた。エクスはミラを見つけると、手を振って声を掛けた。


「ミラさーん。ただいまー」


 ミラはエクスに気が付いて顔を向けた。心なしかいつもより明るい声にミラは不思議に思ったが、答えはすぐに見つかった。


「エクス、おかえり……あら?その子はどうしたの?」


「ダンジョンで助けたんだ。記憶喪失みたいで、帰る所が無いらしいんだが……」


「は、はじめまして!エモと言います!」


 エクスはミラに事情を説明した。ミラは事情を聞くと、エモの頭を撫でながら「気が済むまでうちにいていいのよ」と言った。ミラの聖母のような包容力に、さっきまで忙しなくしていたエモも落ち着いていた。


 エモも孤児院に住むことが決まったところで、仕事の報告も兼ねてエモに町を案内することになった。エモはミラのお古に着替えると、エクスの腕を引っ張って、


「れっつごー!」


 と言って孤児院を出ていく。ミラは、エクスがエモにたじたじになっている様子を見て微笑を浮かべながら、


(エクスがこんなに楽しそうにしてるのは久しぶりね。あの頃のエクスが戻って来ると良いのだけれど……)


 と思っていた。


「エクス、エモ、いってらっしゃい!」

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