第3話 決闘




図書館に戻ると骸骨たちが詰め寄ってきた・。

「坊ちゃんどうしたのですか?魔王様に呼ばれるなどただ事ではありませんが」


自分が魔王秘書と決闘させられることを話した。


骸骨たちは神妙な顔をして、

「それはどういった意味があるのでしょうか?ただ単に坊ちゃんの実力を知りたくなっただけですかな?」

「しかし、それだけではあるまい。もっと違う意味が、例えば魔王様の死期が近いとか」

「まさかそんなことはあるまい」


骸骨たちが口々に口論しあった。


「今はそんなこと考えている暇はないだろう、問題は坊ちゃんをどうやって勝たせるか?この一点だけを考えよう」

骸骨1がほかの骸骨たちの議論を止めに入った。

「かといって、魔王秘書に勝てるだけの錬金陣をかくのは三十分では不可能だぞ」

骸骨が頭をかきながら悩み始めた。


「坊ちゃんは魔法を見たことがありますか?」

「ない、魔法は自分の内部の魔力を使って繰り出すものなんでしょ、錬金術との違いはそれだけ?」

「魔術との違いは、呪文の有無という点でもある。理解していなくても大体のイメージと呪文だけでポット出せるのが魔術の長所といってもいい。本人の魔力量に依存して威力が変わるため再現性が低いというのが科学的にはよくないことだが、

一方で錬金術はまず変換するエネルギーの元についてそれがなんなのか理解して、それを使いやすいエネルギーに変換や分解し、それを再構築して出力するといった手間がかかる。だから一対一の戦闘ではすぐに攻撃できる魔術のほうが圧倒的に有利なんじゃ」


「錬金陣を使えば、理解なしでも瞬間的にエネルギーに変換できるが、どんな力を返還するにしても複雑になってしまうし、一度使ったら再度使えないというデメリットがある。さらに魔王秘書様はほとんどの魔法の呪文を覚えているからすべてに対策するとなると...」


「とりあえず魔術を変換できないようにする錬金陣、正確には魔力をエネルギーにしてためることで発動できないようにするだけの術じゃが、それは五分程度で消えてしまう。それにもともと発動してある魔術を止めることはできないから、闇の衣を消すことができずおっぱいが見れない」


「まじめな話をしている途中だぞ」


「こっちは真面目じゃ!!」


闇の衣には肉体強化のような魔術が付与されていたはずだ。素手で勝つことはできないだろう。


「説明が長くなったが、魔王秘書様に勝つことは非常に難しいということだけわかっていればよい」


「しかし勝たねばならぬだろう。彼女は自分に強いものにしか仕えないといつもおっしゃっている。」


その通りだ。だから絶対に勝たねばならないだろう。


彼女は肉体や勝負の強さしか信用していないから、もし本当に父が死にかけならば、死後自分は殺されてしまうだろう。


「じゃあ、魔術をなくす錬金陣と、攻撃用の錬金陣をいくつかほしいです」


「それなら、地殻エネルギーによって地面を飛び出させる陣と、物理攻撃をそのまま返すことができる陣、それに炎が出る剣を渡しておきましょう。一度しか使えませんが」


「今用意できる攻撃手段といえばこれくらいですね。私たちは人間を助けるようにする研究しかしてこなかったからこの地面を飛び出させる錬金陣も洪水を防ぐという目的で作ったものだったが、私たちがこの城から出ることはなかったので試作品だけなのです」

「もっと攻撃するための陣はあるかもしれませんが、今から探すのは厳しいものがあります」

「いいや、これだけでも大丈夫」

笑顔で骸骨たちに返した。



 魔王城の中庭は細部まで整備が行き届いていた。といっても全体的に暗いイメージで葉は濃い緑、茎は鋭利な針をもち、黒や紫の花をつけていた。

中央は広場となっており黒いレンガが特徴で、一つ一つが魔王城周辺の薄い光を受けて鈍く光っていた。

そこに、魔王秘書がたっていた。中庭を見下ろしたバルコニーでは魔王が、椅子に座って無表情で見つめている。


いざとなったら息子を助けることも視野に入れておくか、私ならば魔王秘書にばれずに二世の攻撃と同時に魔術で手助けをすることができるだろう。

しかし、それは本当に最後の手段だ。私も二世の戦いを見ておきたい。


「来たか」

中庭の奥から、いつもの様子と変わらない息子の様子が出てきた。腰に刃物を持っているが、それ以外の武装は特にされていない。自分の息子の魔力量は今は少ないため戦闘では錬金術の攻撃方法を使うのだろう。


骸骨どもの研究は詳しく知らないが、軍事目的以外のもの生活が豊かになるものになるよう言っていたので攻撃手段は少ないはずだ。考えられるのは、炎を使うものや、けがを防止させるもの、魔術を使わせないものもあったな。


魔術を使わせないというのは非常に興味深いと同時に危険であると思ったが、もともと勇者であった魔王には魔術と同時に錬金術を何も錬金陣を必要としない錬金術を使えるようになっていた。それは犠牲になった人の魔力を使えるようにだけなのだが。


「さて、見せてもらおうか。息子の実力を」




中庭につくと正面に魔王秘書がつまらなさそうに立っている。

バルコニーには、魔王がなんの意味があるのかパラソルを立ててある中座っていた。二人はまっすぐ二世を見ている。

ポケットには、地面を盛り上げる錬金陣と、腰には剣を刺していた。


「君は戦いに来ないと思っていたよ」

「そんなわけないだろ。引っ張り出されるよりも、自分から来たほうがいいさ」

「まあ来なかったら、私よりも弱い判定をしてたけどね」

「でしょうね」

二人は笑いあった。しかし、それは心からくる笑いではない。秘書は見下すように、二世は引きながら笑っている。

「秘書さんは素手でいいの?」

「近接戦こそ血肉脇踊るよね」

指をぱきぱきと鳴らした

「なるほどね」

「君はその剣だけでいいの?魔術使えないんだよね?」

「何か隠しだねがあるかもよ?」

「だろうね。警戒しておくよ」



球体関節人形であるメイドがルールを説明する。骸骨の性癖のせいでひどく短いスカートをはいている。

「ルールは単純!どちらかの意識がなくなるまで、戦いあってもらいます。非常にシンプルですね!道具は何を使てもよし!魔術でも錬金術でも素手でもなんでも使ってください」

「じゃあ初手魔術ですぐに決着つけようかなー」

「はいそれがいいですね。早めに終わらして眠りに行きたいです」


「わしらあんな性格にしたかの?」

「さあ、忘れた」

骸骨たちも中庭の窓からのぞいている。


「じゃあ、魔術使うね?」

「どうぞどうぞ」

 二世は、剣と取り出して構えた。


「ファーイヤ」

呪文というのは脳内で唱えるだけでもいいのだが、あえてわかりやすいところだけ口に出すことで現実世界で反映されやすくなる。どうにも恥ずかしくなるらしいので、あまり口に出すものではないが、秘書は二世をバカにしているのかわざと口に出して魔法を使用した。

秘書は手を差し出したが、その手からは何も出ていない。

「あれ?間違えたかな?ファイヤ」


「いつから魔法を無効にする陣を使っている?」

「出てくる直前に使っていたから、2分ほど前かの?」

「あと三分か」


「秘書さん、何もしてこないの?じゃあ、行かせてもらう」

二世が秘書に向かって走り出した。

「なんでか知らないけど、こぶしだけでも十分だもんね」

二世が剣を振りそこから炎が出てくる。それは、秘書の目の前に広がり、二世の姿を一瞬見失う。


しかし、意外なことに二世は正面から突っ込んでくるだけだった。


秘書は笑った。勝利を確信した笑いである。愚かにも自分の目の前に出てきたのだ。しかし、それも仕方がないだろう。自分のように肉体強化もしていなければ、魔法も使えない。


「おおおおおおお」

意外にも大声を放ちながらいまだに突っ込んでくる。遅い。


秘書の腹に、二世のこぶしが届きそうになったその時、秘書は自分の左の背後に闇の衣を変換させたこぶしをふるった。


それは盛り上がってきていた土をはじき飛ばし、骸骨たちが見ていた窓のすぐそばにぶつかった。


骸骨たちはひどく驚いた。

二世のこぶしは秘書の腹にぶち当たりそして止まった。

「痛いなー」


しかし、その顔は全く痛くなさそうである。こぶしを突き出した場所の柔らかさを持った腹が、ぐにゃりと曲がっている。


「君は考えなしだと思っていたけど、それはあり得ない。あんなインテリ骸骨どもと一緒にいるやつが正面から向かってくるなんておかしいと思ったんだ。どうして僕の日常的に作っている死角を知っているのか知らないけど、こんなトリックを使うなんて愚かだね!!」


秘書は、二世の腹を闇の腕で殴った。全力でである。二世は吹っ飛び、庭にあった木に引っかかった。


「んー、なんか手ごたえがないな。」


意識がもうろうとしている。吹っ飛ばされた時の遠心力で腕が取れそうだった。胸に手を当て、腹を確認した。


「意識を失うさせるためには、顎を殴るのが効果的って言ってたなー、このまま殴り続けると死んじゃいそうだし一発で決めるか」


 秘書がどんどん近づいてくる。秘書が目の前にまで来ると髪をつかんで置きかがらせてきた。そのまま、顔を近づける。


「私の勝ちだね」



秘書は広角を不気味につり上げ、まっすぐ二世を見た。











「僕の勝ちだ」


手に持っていた錬成陣を使い、秘書の顎に当てた。それに疑問に思う間もなく、腕がはちきれんばかりの衝撃が二世に伝わり、同時に秘書の顎にも伝わった。

自分をなめているだろう秘書はもしもし初めの攻撃でやりきれなかった時、自分が殴った腹部を殴ってくると予想しておいたのだ。正直賭けであったがそこに衝撃をそのまま返す錬成陣を張っておいたのである。

飛ばされた後腹部を確認したのは陣をはがすためでもあった。





秘書の一撃は自分の意識をも飛ばすものであった。しかも、本能的にその攻撃を受け流すのではなく受け止めていたため衝撃は攻撃されたものと踏ん張った分の約二倍の威力を持っていた。普段の秘書ならそれでも耐えていただろう。自動でダメージを受けたときに肉体強化する魔法を持っているため慢心していたのである。しかし、いまだに魔法を打てなくする陣は継続していた。


秘書は立ったまま、髪をつかんだ格好のまま気絶していた。闇の衣が空気の中に消えていき、裸のまま気を失っていた。


二世は立ち上がると、体についていた土汚れを払った。きていた上着を脱ぎ、すべてがあらわになっている秘書にかけた。





魔王は、その様子をただ眺めていた。




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