第30話 王子として

 学園の中は『最優秀生徒』についての噂で毎日もちきりだった。


 遠くから見るヴィンセントは少ない取り巻きの中でさみしく笑っていた。そばに行って、そっと髪を撫でてあげたいと、そう思った。夜着のままのわたくしを抱きしめた時の情熱はどこに消えてしまったんだろう? どうでもいいって顔、してる。


「ヴィンセント様が次回も首席でなかったら、どうなるんでしょうね?」

 なにも考えていないといった顔でミサキが気まぐれに話しかけてくる。なんだかんだあった中で、わたしたちの仲は深まっているのかもしれない。

「縁起でもないわ。そんなこと、有り得ないのよ」


「別に一番も二番も変わりなくないですか? それにずーっと一番だったんでしょう? 平均的に見れば一番は王子だわ」

「……そんな簡単なものではないのよ。一番であるということの意味、それを考えたことがあって? 学生時代、成績の悪かったひとは無責任な人物だと思われるわ。そんなひとが国の父として敬われるかしら?」

「……王になることがそんなに大切ですか?」

「大切かはわからない。でも、王族として生まれてしまったというのは確かなの」


 つまり、わたしのような逃げ道はない。わたしはヴィンセントとの婚約が破棄されれば王族に入らない。でもヴィンセントは。

「王子様って大変なんですね、いままであまり考えたこと、なかった。王子様だってだけで素敵だなって。だけど王子様は王子様でいるための努力が必要なんですね。知らなかった。エルメラ様は勉強家ですもの、皇太子妃に相応しい方です」

「ありがとう。でも、わたくしが皇太子妃になれなくてもいいの。ヴィンセントの努力が実ることを祈ってるわ」

 ミサキは珍しく真面目な顔をしていた。

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