第4話 別れと出会い

この日も天候は荒れていた。既に2回のビバークを終え、知らない間に日は西に傾いていた。夕刻を過ぎると、朝方は激しかった山の天気は落ち着き、風もなく怖いくらい落ち着いていた。

太陽が沈みゆく頃には、反対から大きな月が、姿を表していた。

僕達は朝のツケを夜で返そうと、無謀にもナイトアタックでのアルパインクライミングを決行した。

ハンターとドミニクは2人1組をクライミングロープで結ぶ、アイザイレンをするかについて揉めていた。正直、この時の僕はレオの事で、心が抜け殻となり、話に割り込む気にもなれなかった。ガイドのオリバーも口数が少なく、話は平行線を辿り埒が開かず。結果、ハンターと僕がアイザイレンをして、ドミニクとオリバーは単独で登る事となった。

月明かりがあるとはいえ、先の見えない氷の壁に、ピッケルを固定して地道に登って行く。単独で登る2人は自分のペースで、先へ先へと進んでいく。

後どのくらい登るのだろうか、僕は氷壁に固定されたピッケルを両手で持ち、アイゼンを氷壁に突き刺し足場を固定し身体を休める。

「雪崩だ!」

ハンターのよく通る声が夜の雪山に響くと、地響きと共に大量の雪が襲った。

僕は両手で必死にピッケルを握るが、一瞬で白い世界に包まれ、意識が飛んでいく。

「レオ、こいつで間違いないのか。」

「そうだよ。何回も言ってるじゃん。それより、目立った外傷が無くて良かった。」

「本当に信用して良いのか?」

「もう、アレスは疑り深いな。もう長老の了承だって取ってあるんだから。」


その日、僕は夢を見た。

背中に羽が生え、大空を飛び回る夢。

大空から見下ろす世界は、雄大で美しかった。


僕は硬い岩の上で目を覚ます。

節々が軋むように痛いが、動作に問題はない。雪崩に巻き込まれたが、いたって正常だ。記憶も雪崩までの記憶がしっかりと残っている。

「ダメだよ。まだ寝てなきゃ。あれ程の雪崩に巻き込まれたんだ。骨や臓器を損傷しててもおかしく無いのだから。」

「レオ、レオなのか?良かった。手はどうした。適切な治療は受けられたか?」

「落ち着いて、落ち着いて。今は自分の事が優先でしょ。待っててね。今、長老を呼んで来るから。」

そう言って、レオが石段を駆け上がって行く。

僕は混乱を隠せず、辺りを見回した。岩に囲まれた洞窟のようだが、虫や小動物の気配は無く、土も無い事や整備された石段から、この洞穴は人工のものに近いと推察出来る。また、光苔が繁殖しており、それなりの視界を確保できている事にも気づいた。

「やあやあ、客人。大事無いみたいで安心した。」

「長老。先に行かれては危険です。私の後ろに。」

「アレスは用心深いのぉ。レオの報告を聞いて無かったのか。もうちと、信用しても良かろうに。」

「羽根の無いやつを、おいそれとは信用出来かねます。」

僕は目の前の光景に驚き、言葉を失っていた。目の前の御仁には手や腕が無く、代わりに色鮮やかな翼を有していた。

頭から胴、膝までは人間の構造で間違い無いが、膝下からは鷲の様な足をしており、3本の足趾に鋭い爪を有していた。

僕は新しい出会いに驚きと好奇心が重なり、節々の痛みなど、等に忘れていた。



















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