第3話 決断
風は弱まり、雪は未だにチラつくものの、日差しが雲の隙間から顔を出した。
僕はツェルトを出て辺りを見渡す。
ブリザード前は見えていた岩肌は、身を隠すように雪で覆われていたが、仲間のツェルトは雪で埋もれる事なく、近くに乱立している。
ハンターは、既にツェルトから出ていて、どうやらサブリーダーのドミニクと揉めているようだった。内容はたぶん進行状況の遅れのようだ。
ブリザードの影響で当初の予定から3日も遅れを取っている。帰りの食料を考えても、そろそろ決断をしないと行けない。そんな状況だった。そして、もう一つの決定打を今から皆に伝えなければならなかった。
僕はいがみ合う2人に割り込み、ハンターに号令を、かけてくれないか頼んだ。
「あぁ、俺たちも話し合うべきだと思っていたところだ。」
そう言って、ハンターは持ち前の良き通る声で皆を集める。
ハンターとドミニクを真ん中に、僕と現地スタッフのレオとフレディ、ガイドのオリバーが円を描くように向き合う。
僕はハンターが話し始める前に手を挙げる。
「僕からですまないが、昨夜の被害状況を伝える。今後の方針に大きく関わる事だと考えられる。」
「ドミニクには、つい先ほど話しをしたが、昨夜のブリザードで、ツェルトの補強中にレオが負傷した。ルーベンに対応をお願いした。その報告で間違いないな。」
ハンターが追記説明を行い、こちらに目線を向ける。
「はい。負傷したレオの傷口は浅く縫合で出血の方は処置を終えました。大事無いと思います。しかし、現在、痛みがぶり返し腫れが引かない状態です。僕は察するに、凍傷による再還流障害を起こしていると考えます。多少の鎮痛薬は持ち合わせていますが、一刻も早い抗炎症薬による治療が必要不可欠です。残念ながら抗炎症薬は町の医療機関に行かねばなりません。」
「聞いた通りだ。しかし、レオに問題がある訳ではない。3日間の遅れによる食料問題もある。俺は、ここら辺が潮時かと思っている。」
ハンターは悔しさを隠しながらも、出来るだけ冷静に努めていた。そんなハンターとは裏腹にドミニクが話に割り込む。
「道具の調達、現地ガイドの調達、しかも今回は2人だ。なぁ、ハンター。多少の手間賃が出たとしても、流石に割りに合わなくないか?それによ〜、他の開拓者が先に到達しちゃいましたぁ〜なんて事になったら、ボスに睨まれて、今後の仕事はあがったっきり、通帳は黒いカモメさんだよ。オリバーお前だって、まだ小さい娘さんいるんだろう。」
「そりゃ、そうだけど。ルーベン、一刻も争う
んだろ。」
「血液検査が出来ないから確かな事は言えないが、最悪の場合は壊死だ。壊死を放っておけば、手首、いや肘から先を失うかも知れない?」
ドミニクの舌打ちが聞こえた。
「じゃあ、こうするのはどうよ。現地スタッフはここで解散。そうすりゃ食料は余裕が出来る。もうちょい登りゃ中腹だ。土産話、程度にはなるだろう。珍しい鉱石でも見つけりゃ目っけもんだ。」
僕は反論する。
「ダメだ。まだブリザードが来ないと決まった訳では無い。食料を持たせず、怪我人を下山させるのは無謀だ。」
「ルーベン君。君は何か勘違いをしてはいないかい?金で雇われた現地人が足を引っ張ったとなっては、今後の治療費は払っていけるのかね。ましてや、まともな医療が受けられるとは思えないんだが。私は彼らを助けたいのだよ。」
確かにドミニクの言葉に一理ある。この不条理な世界で金の無いやつはゴミ屑だ。そんなゴミ屑が失敗したとなれば、いい笑い者どころの話ではない。村八分も免れない。
ハンターは苦虫を噛み潰したような顔で決断を下す。
「ドミニクの案を採用する。」
僕は憤りを隠せない。ハンターの意見であろえと、こんな人権侵害が許される訳ではない。僕は鼻息を荒くして一本前に出る。
僕の荒れ狂う心情を収めたのはレオだった。
僕の肩に手をかけ、首を振る。もういいんだと声にするように。
その瞬間、僕の怒りは悲しみに変わり、一筋の涙が溢れる。腐った世界への苛立ち、非力な自分への苛立ち、非情な仲間への苛立ちが全て悲しみに変わり、涙に凝縮されて溢れた。
僕はせめてもの償いとして痛み止めを処方し、彼らと別れた。
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