第八夜 「せんそうといっしょ」


 第八夜

 「せんそうといっしょ」


      堀川士朗



僕らは平和に暮らしていたんだ。


廃車となった車が山積みの広い駐車場で円形の舞台を組んで幼児番組「スイート倶楽部」の収録をしていた。

うたのお兄さんとお姉さんの歌をみんなで楽しく口ずさんでいたんだ。

名カメラマンの僕は頼まれてその舞台写真を何枚も高いカメラで撮っていた。客席にいる子どもたちも撮影した。

楽しい時間。


太陽は出てるんだか出てないんだかよく分からなかった。

いつの間にか夜になっていた。

どこからかミルクセーキの匂いも漂ってきた。


その時、突如として北の国の大魔王の軍隊が僕らの国に襲いかかってきた。

彼らは特殊なドローンをいっぱい持っていて、虫型のドローンが廃車の車に飛び移り、なんかの液を注射すると車は敵側のロボットに変形した。

悲鳴。悲鳴。悲鳴。

みんな。

みんなそのロボットに殺されていく。

とてもデカいハンマーで頭から叩きつぶされていく。

僕らもオノや槍で抵抗したけど全然無駄で、あとは大魔王直属のゾンビ兵に噛まれてみんなゾンビになってしまった。


僕らのリーダー、うたのお兄さんは立ちはだかってこう言った。


「やめるんだ!ボクの歌を聴いてくれ。戦争反対。戦争反対。♪ララララ~大切なのは~ひとりひと~り~が~人の~ララララ~人の~ララララ~人の~あれを~ララララ~あれさ加減を~ララララ~あれだあれ~ララララ~思いやる事~……それはまるで~ララララ~それはそれとして~」


歌い終わらない内に、うたのお兄さんはハンマーで無惨に叩きつぶされた。


僕は怖ろしくなって、テントになっている幼児番組の楽屋に逃げた。

机の下でうたのお姉さんがブルブル震えていた。


「お姉さん」

「ひっ!おどかすんじゃねぇよっ!」

「お姉さん、オレンジピンクの髪の女の子を見なかったかい?名前はティナ。僕の大切な人なんだ。はぐれてしまったんだ」

「うるっさいな!見てないよ。見てないよっ!」

「……」

「この国はもうおしまいだよっ!」


楽屋の奥の大きな扉を開けると港へと続いていた。

潮風が吹いている。

僕はたくさんの敗残者に混じって、この国の中でまだ唯一占領されていないサンタナ島に船で渡ろうと思っている。


長い長い行列が続く。

やっと船に乗れた。

どんぶらこ~どんぶらこ~ララララ~と、今の状況と不釣り合いな音を立てて、波に揺れている。

小さな船だ。

みんな薄汚れている。

みんな疲れきっている。


僕は、少しだけ眠った。



    第九夜に続く

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