第七夜 「桂林厨房飯店」


 第七夜

 「桂林厨房飯店」


      堀川士朗



太陽は出てるんだか出てないんだかよく分からなかった。

いつの間にか夜になっていた。

どこからかミルクセーキの匂いも漂ってきた。


今日こそは桂林厨房飯店に行って魯肉飯(ルーローはん)を食べるぞと必要以上に意気込んで僕は街に出かけた。


石みたいな岩みたいな肌をした背がものすごく低いコ〇キのおばあさんが歩いていて、


「この街は臭いねえ」


とか何とかつぶやいている。

何も食べてなくて、普段、多分、光合成だけで生きているような人だ。

僕はおばあさんに、


「これで缶コーヒーでも飲んであたたまって下さい」


と言って100円玉を勢いよく指で弾いて渡したら、勢いよすぎて100円玉は激しく高速スピンしながらおばあさんに衝突して、石みたいな岩みたいなおばあさんは破裂して跡にはこぶし大の赤い色をした石だけが残った。


心臓だろうか。


それを通行人に見られ、やばいと思ったので少し早めに歩いた。


店はオープンしている。

やった。

魯肉飯にありつける。

空いていたから丸テーブルに独り座って注文する。

店主は独りでこの店を切り盛りしている。

店主の顔は僕に非常によく似ている。

運ばれてきたそれ。

八角の効いた豚バラ肉の食感が舌の上でプリプリと心地良くとても美味しかった。

800円の勘定を払う時、カウンターに座っていた女子大生だかOLだか何だかの女に「臭えな」と言われた気がしたので顔面を思い切り殴った。

何だかの女は転倒した。

その時、僕と入れ違いに男性ムード歌謡アイドルグループ、「断裂」のメンバー7人が入店してきた。

おや珍しいな、こんな所に断裂と思ってカウンターに座って見る事にした。

もうお金を支払ったのだから店に居て眺める権利は僕にある。

断裂たちはメニューを見て悩みつつも満漢全席フルコースの料理を注文した。


暖房が効いて、店の室温が一気に上がった。

するとスパイスを大量にこれでもかと入れたあっつあつの超激辛料理が運ばれてきた。

断裂たちは一瞬、


「え」


となったけどアイドルらしからぬ食い方でむさぼり食った。

食い散らかした。

ものすごく汗をかいている。

ぐっしょりと服が濡れて床に汗の池が出来ている。

メンバーの沖羅奈鳩詩(オキラナ・ハトシ)が、


「美味いな。美味いな。う、美味いんだけど……せめて冷房を効かせてほしいよな……」


と弱々しく言ったが速いか、急速に冷房が効いて、店は南極状態なほど寒くなった。

すかさず氷でキンキンに冷やした冷製料理が運ばれてきた。

断裂たちは一瞬、


「え」


となったけどガタガタ震えながらアイドルらしからぬ食い方でむさぼり食った。

食い散らかした。

メンバーの砲冷泉矢場森(ホウレイセン・ヤバモリ)は気絶寸前。

歯の根も合わない。

背流露臼太(セルロ・ウスタ)と躁玉心(ソウダマ・シン)がワ~ンワ~ンお母ちゃ~んと泣いている。

プッ。

吹いてしまった。

明らかに桂林厨房飯店の店主のいじわるなのだ、これは。

アイドルがすこぶる嫌いなのだろう。

店主の顔は僕に非常によく似ている。


メンバーの山北度度板(ヤマキタ・ドドイタ)と滋威倶問答風呂井戸(ジイグモンドウ・フロイト)が声を揃えて狂って叫んだ。


「この店は俺たちを殺そうとしている!」


狩馬竹好狩(カルバタケ・スキカル)はおもいっきり吐いた。

そのパニック状態を僕は笑って見ていた。

断裂たち7人は全員フラフラとよろけながら店を後にした。

それと入れ違いに今度は店の外で断裂を張っていた芸能リポーターたちが大挙して店を訪れた。


「今フラフラになって出て行った断裂のメンバーたちは何を召し上がっていたのですか!?」


店主はニヤリと笑って、


「ヒッヒッヒ。当店自慢の満漢全席フルコースだよ。あんたたちも食べてみるかい?んまいよ」


と言った。


店は大繁盛だし、店主のいじわるは更に続く感じだ。


店主の顔は僕に非常によく似ている。


今日はオレンジピンクの髪の女の子は現れなかった。



    第八夜に続く

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