第六夜 「印度人との会話」
第六夜
「印度人との会話」
堀川士朗
駅のホーム。
なかなか来ない電車を待っている。
太陽は出てるんだか出てないんだかよく分からなかった。
いつの間にか夜になっていた。
どこからかミルクセーキの匂いも漂ってきた。
立っていて疲れたのでホームのベンチに座ったら、しばらくして隣に印度人が座った。
50代ぐらいの男だ。
会釈すると向こうから話しかけてきた。
「こんにちは。今日は寒いね。日本寒い。マジデェ~ェ」
「そうですね。あなたはどこから来たのですか?」
「サンタナだよ」
「暑くていい所ですね」
「マジデェ~ェ!ありがとう。8ポイントあげる」
「ありがとうございます。しばらく電車は来ないみたいですよ。行ったばっかなんじゃないかな」
「マジデェ~ェ?マイナス5ポイント。自家製ナン食べる?」
「いいです」
この、マジデェ~ェと語尾を伸ばす以外は普通に日本語が上手い印度人だった。ありがとうと言ってみたけれど、この人の言うポイントって一体何の事だろう?
「彼女はいるのかい?」
「ああ。まあ。いないんですけど、恋はしたいなぁと常日頃思っています」
「マジデェ~ェ。3ポイントあげよう。自家製ナン食べる?」
「いいです」
「どんな女性が好みなんだい?」
「かわいい女の子がいいですね」
「オウ!10ポイント」
「背は小さめで」
「オウ!4ポイント」
「髪はショートで明るい色、オレンジピンクみたいな。で、名前はティナがいいですね」
「それだとガイジンじゃん」
「あ」
「てんめ~ぇふざけてるのかよっ!?マジデェ~ェ!マイナス20ポイント」
「あ」
「自家製ナン食べる?」
「いいです」
「まあいいや。これでプラスマイナス0ポイントだよ」
「はあ。今僕は小説を書いているんです」
「どんなの?」
「『夢分析』っていうタイトルの少し不思議な夢をテーマにした連作です」
「そうか。プラス15ポイントあげるから今度読ませてくれ」
「今度っていつですか?」
電車がやって来た。
屋根にまで人が満載されているサビだらけのオンボロの印度の電車だった。
ここは日本じゃなかったんだ。
僕の方がガイジンだったんだ。
「今度っていつですか?」
「百年後だよ。百年後なんて一瞬だよ」
「はい」
「待てる?」
「はい」
「書ける?」
「はい」
「ああ、それと。あんたは恋愛ポイントを使い果たしたからこの世ではもう恋は出来ないよ」
「え」
「恋愛ポイントはもう貯まんないよ。マジデェ~ェ。来世で頑張ってね」
印度人の男はそう言うとヒョイッと電車の屋根に飛び乗った。
オンボロ電車はたくさんの人を乗せて発車して行く。
僕は恋愛ポイントを使い果たしたかも知れないショックでガタガタ震えてしまって電車には乗れなかった。
口笛を吹く。
かすれた音しか出ない。
電車は遠く離れて行く。
もう次は来ない。
第七夜に続く
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