第二夜 「順番」
第二夜
「順番」
堀川士朗
玉城だか玉置だか忘れたけどタマキティナに似ているかわいい女の子が僕ら四人の先頭を歩いている。
彼女は黒いワンピースを着ている。
僕より10歳くらい年下だ。
次に母。母は外行きの服で着飾っている。
次は祖母。和服を着て、ちゃんと美容室で洋髪パーマネントをやってもらっている。
最後に僕。だらしないジャージ姿。
の順番。
四人の今日のお出かけ。
古びた商店街を歩いている。
この街は知らない街だけど服屋が多い。
コ〇キが着るような服がそこかしこに吊されていてどれも100円だったが買わなかった。
人出はあまりない。
あっても何かユラユラと歩いている。
太陽は出てるんだか出てないんだかよく分からなかった。
どこからかミルクセーキの匂いも漂ってきた。
ティナ似のこの子はかわいいな。もっと髪色を明るくしたら似合うだろうな。
思い切ってオレンジピンク色にしてしまうとか。
「ここ亀有とか巣鴨の商店街に似てない?」
と僕はティナ似の女の子に言った。
「ごめん分かんないやそう言われても」
「え。どこ育ちのお嬢さんなの?君は」
「悪いけど山の手だから」
この子は顔はとてもかわいいけど性格は悪そうだ。
商店街を抜けた路地には、青いトタン屋根の屋台の焼肉屋さんが数軒並んでいた。
煙りが立ち昇り良い匂いがする。
「ねえ食べていかない?すごく美味しそうだよ」
と母とティナに向けて言ったが、首を横に振る二人。
「今お腹すいてない。もうお腹すかないかも」
とティナは僕に言った。
ビルの螺旋階段を下りる。
洞窟のような入り組んだ道を行く。
地面はごつごつした岩だ。
うんざりするほど暗い。
どうやらこの先が駅のようだ。
そこから電車に乗り、どこかに出かけるのだろう。
今日のお出かけはこのようなルートを通らなければいけないようだ。
祖母はさっきから悲しい顔を浮かべて無言でいる。ティナと母が先を歩いているのが嫌だったみたいだ。
何でだろう。
しばらく歩く。
狭い隙間が見えてきた。
向こうから光が差し込んでいる。
人が一人かろうじて通れるか通れないかの隙間。
器用にティナは一番乗りでスルスル通り抜けていく。
若さってすごいな。
次に母も少し苦労したけれど通れた。服装の乱れを気にしていた。
「ねえ帰りはタクシーにしようよ。こんな道のりもう嫌だよ」
と僕は向こう側の母に言った。
母は反論した。
「何言ってんの。ティナも通ったのよ、楽をしちゃいけないよ」
「でもババちゃんが」
僕は祖母の事をいつも「ババちゃん」と呼んでいた。
年寄りなのにこんな目に遭わせてかわいそうだと思ったんだ。
僕は祖母のお尻を「ごめんね」と言いながら押して、祖母はこの狭い隙間をやっと通り抜けた。
ふうふう言いながら悪戦苦闘しつつも。
ああ。僕の番だ。
何度か向こうへ行こうとしたが狭すぎる。
ズボンとお腹の所が引っかかって無理みたいだ。
通れない。
「あのさあ、お兄ちゃんは早く来ない方が良いよ」
と向こう側の妹のティナは言った。
「え?」となって、その言葉の意味を確かめる前に、みんなは僕を置いて駅の方に行ってしまった。
この隙間は僕の体は通りそうもない。
しばらくまだ。
何十年か先か。
独り。
残された。
第三夜に続く
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