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午前8時のコンビニエンスストアは、混雑している。朝食または、昼食のためのサンドイッチやお弁当、飲み物を持ちながらレジに並んでいる人が多い。

「お弁当は、温めますか。レジ袋は、ご利用ですか。」

忙しない店内をゆっくりとしたペースでまわる。2Lの水や、冷凍食品、お菓子やパンなどを次々と買い物かごへ放り込む。レジへ向かう頃には、店内の客数が随分と減っていた。

「いらっしゃいませ、ありがとうございます。」

笑顔の店員が買い物かごを受け取る。

「あと煙草もお願いします。21番をワンカートンと32番を二つ。」

「はい、かしこまりました。少々お待ちください。」

店の従業員が会計を進めている間、私は考え事をしていた。昨夜の件で都合の良い男たちと会うのが億劫になってしまったため、メッセージアプリのアカウントを削除した。しばらくは、気持ちのいいことも我慢することにした。そろそろ仕事の事も考えないといけないし…

「お会計が、8,860円でございます。」

ふと我に返る。

「クレジットカードで。」

「かしこまりました。カードを差し込み口へお願い致します。」

ついつい沢山買ってしまったが、この金額になったのは煙草が原因だとよく分かっていた。節約の文字が頭を過ぎる。今更、煙草をやめられるはずもないのに。

「お客様、大変重くなっておりますのでお気を付けてお持ちください。」

二つの大きな袋に購入品が詰められている。店員から受け取ると、予想以上の重さだった。

「ありがとうございました。」

今にもりそうな腕を必死に上げ、コンビニを後にする。

「大丈夫?」

顔を上げると、自分よりも遥かに高い背丈をした男が私を見下ろしている。

「大丈夫です。」

すぐに目を逸らし、男を避けながら前へ進む。

「おいおい、大丈夫じゃないだろ。」

後ろから肩を掴まれ、驚いた拍子に袋を落としてしまった。

「あ…」

落ちた袋の中から購入品が幾つも飛び出している。カートンで買った煙草の端が少し潰れているのが目に入る。それを男も見ていた。

「若く見えたから未成年だと思ったんだけど、成人済み?」

その男は袋から飛び出したものを拾い集めながら、私の顔をじっと見つめた。

「拾わなくていい。いい加減しつこいと通報しますよ。」

男から袋とその中身を奪い取る。

「通報は困るな。すまなかった、怖がらせるつもりは無かったんだ。気を付けて帰れよ。」

男は、案外呆気なくその場を去った。新手のナンパか恩の押し売りかと思ったけど、心配をして声をかけてくれた人だったのかもしれない。残りの周囲に散らばったものを全て拾い集め、なんとか自宅マンションまで辿り着いた。

オートロックの入口を開け、エントランスを過ぎる。エレベーターのボタンを操作し、中へ乗り込んだ。

「すみません、乗ってもいいですか。」

扉を閉めようとした瞬間、男の人が足早に乗り込んできた。

「は、はい。何階ですか?」

操作ボタンの前に立ったまま、声をかける。

「6階です。」

その返答に驚いて、思わず後ろを振り返る。このマンションは6階建てで、最上階は二部屋しかない。その片方の部屋は私が住んでいる。つまり彼があの隣人ということになる。

「あれ、先程コンビニの前で会いましたよね。同じマンションなら、やっぱり俺が運んだ方が早かったっすかね。」

コンビニの前で心配をしてくれたあの人が、減らず口の憎たらしい男と同一人物だったなんて信じられない。ここに住み始めてから一度も顔を合わずに済んでいたのは不思議だったけど、その現状にどこか安堵していた。

「6階です。」

アナウンスと共にエレベーターが開き、思わず降りてしまった。

「ここ最上階ですけど、もしかしてボタン押し忘れました?」

幸い彼は、私の正体に気付いていないようだ。私とベランダで話している時とはまるで違う態度に戸惑いつつ、初めて見る彼の顔をまじまじと見てしまった。小汚い三十路を想像していたが、顔が綺麗に整った爽やか好青年じゃないか。

「押し忘れてないです。」

動揺を隠すように勢いよく部屋の鍵を開け、中へ飛び込んだ。

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