あの子の名前が知りたい
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「最後に君の名前を教えてくれ。」
「知ってどうするの?」
「わからない。ただ、君がそこに存在したことを心に留めていたい。」
「貴方に名前を教える義理がない。」
その言葉だけ言い残して、私は部屋を出た。今は特別な感情を持って執着しているが、一年もすれば私の顔さえ思い出せなくなる。人の記憶とは、その程度のものだ。
side 都合の良い男2
高身長で顔が男前だと社内の女性にも人気の高い俺だが、好きな人にはあっさりと振られてしまった。昨夜に身体を重ねた彼女は、もうこの部屋にいない。窓越しに差し込む朝日が、今日は憎い。背中を丸め肩を落としながら、一階のフロントへ向かう。
「チェックアウトをお願いします。」
「はい、かしこまりました。森本様ですね。お連れ様によるお支払いで、新しい清算はございません。」
今、何と言った?
「え、あ…、え?」
「昨夜にお連れ様から代金を頂戴しておりますので、清算はございません。」
「……そうですか。」
ホテルを出た後は、タクシーを拾わずにひたすら歩き続けた。混乱と動揺が俺を襲う。
「本当に終わりということか…」
彼女にとって所詮、俺は都合の良い男だった。そんな彼女に好意を持ってしまった自分が愚かで情けない。最後の支払いは彼女なりの情けだったのだと、ようやく理解をする。
年齢も名前も教えてもらえなかったけど、相当若く見える。成人は超えていないのかもしれない。彼女はとにかく可愛かった。俺の好みだった。あの子が自分に笑いかけてくれたら、どれだけ幸せだっただろう。
彼女は、小悪魔だ。俺のように多くの男を翻弄し、理性を奪う。実に利口な女だったのだ。
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