第17話 勇者指名手配

 それを聞いたのは、朝食をとる為に集められた食堂だった。


「皆様、食事の前にご報告がございます」

 そう切り出したのは、魔法士長のアザリア・バレンタイン


「実は昨晩より、勇者殿の行方が分かりません。また、昨晩より勇者殿の警護に当たっていた兵士、巡回中の兵士、城門の警備を担当していた兵士。そしてメイドの1名を加えた計10名の行方が知れません」


「「「「「「!!」」」」」」


「現在は、騎士団長が責任者となり、城、城下町の捜索指揮をとっております」


「行方が分からない城の者たちは、鷲宮が関係していると?」

 俺達を代表してキョウコ先生が尋ねる。


「状況から考えますと、勇者殿が容疑者として考えられております。行方がしれない城の者たちは、衣服や装備を残したまま忽然と消えたのです」


「……衣服を残したまま?その、例えば血痕なりはないのか?」


「えぇ、ございません。残されたのは衣服と一部の装備のみ。そして、勇者殿が滞在されていた部屋にある衣服や金目のものはなくなっておりました。城の者たちの所持金も持ち去られたようです」


「……例えば鷲宮も被害者とは考えられないのか?」


「考えにくいと、申し上げるしかない状況です。勇者殿が深夜、城を歩いてる姿を数名が目撃しているのです。そして大きな袋を持っていたと。我々も特に勇者殿を監禁していた訳ではないので外出は許可しておりました。ただし、警護の者同伴でと」


「鷲宮もあたしの生徒だ。できれば信じたいところだ」


「お気持ちはお察しします。ですが、もう1点お見せしたいものがございます。これは勇者殿のステータスをコピーした魔法紙です。これは本人の能力が変化すると、あわせて更新されるのですが……どうぞご覧ください」


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【名 前】ハヤト・ワシミヤ

【称号】《堕ちた勇者》

【加護】《暗黒卿》

【スキル】《暗黒剣》《暗黒魔導》《狂化》《生命力吸収》

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「な、なんだこれは!!」

 堕ちた勇者だと?こんな称号は俺の知識にもないぞ!そ、それに何だスキルは!!!全スキルが変質している……


「え!?……な、なに、これ!!!!せ、《生命力吸収》って」

 ミキの顔が青ざめている。他の皆は驚きのあまり言葉がない。


「《生命力吸収》……こんなスキルは、昨日まで勇者殿にはありませんでした。少なくとも使徒様に敗れた後までは、魔法紙にも特に異常はありませんでした。私が魔法紙の更新に気付いたのも、今朝方なのです」


「《生命力吸収》……つまりこれが、行方不明者の原因か?考えたくもないがな……」

 気丈なキョウコ先生が力なくつぶやく。


「申し訳ございませんが、状況的にイルティリス王国としては、勇者認定は抹消。ハヤト・ワシミヤを指名手配とせざるを得ません。お辛いかもしれませんが、ご了承いただきたいのです」


「……一つだけ聞きたい。鷲宮へイルティリス王国として、あたし達の知らないところで、彼が暴挙に及ぶような扱いをしたことはないと誓えるだろうか?あくまで自衛のために起こした行動であるとは言えないと」


「創世6女神に誓って。我がイルティリス王国は、勇者殿に対して賓客として、応対したことに相違ございません。もちろん召喚の儀でご迷惑をおかけしたことは事実です。その点は責められても仕方ありませんが……少なくとも行動や人権の侵害、害意を持って接した事実はありません」


「……分かった。では代表して、あたし仙石響子は、鷲宮が指名手配されることについては了承しよう。ただし、できればもう一度彼には事実確認をしたい。その機会だけはもらえないだろうか?」


「承知しました。状況次第ではござますが、勇者殿の保護がかなった場合は、必ず場をご用意しましょう。ただし、不測の事態はあり得ます。その際はどうかご容赦を」


「承知した。皆も良いな?……すまない。あたしの監督不行届きだ」


「誰の責任でもないですよ。もし、本当に鷲宮がやったことならば償うべきだ。異世界人だからと好き勝手にしていい訳じゃない」

 ユウキが声をあげる。その通りだよ。俺達は確かに力がある。でもそれを好き勝手に使って、この世界の秩序を乱して良いわけがない。


 こうして2日目の幕開けは最悪のものになった。



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