第三章

 休み明けの月曜日、登校時間の高等学校下駄箱付近。

「お?」

 自分の上履きが納められている下駄箱の蓋を開いた鬼越は、彼女らしからぬ頓狂な声を上げた。

「どうしたの珍しい声上げちゃって?」

 同じように上履きに履き替えていた陽子は、鬼越の変な声に気付いた。

「え、なになに、ラブレターでも入ってた?」

「そうかも知れぬ」

「え!? マジで!? ちくしょーっまさかミユキに先越されるとはっ!」

 一人でおかしな状態になっている陽子は置いといて、鬼越はその場で封を開いた。「これが恋文というものなのか」と一瞬鬼越は思ったが「アタシに恋のふみなど送ってくる者など居まい」とすぐにその考えは霧散した。

「おおぉ?」

 そして中身の文面を見た瞬間、再び彼女らしからぬ声が出てしまった。

「……とてつもなく素敵な贈り物を貰ってしまったようだ」

「え? なに、また縞パン?」

「果たし状だ」

 それを聞いた瞬間「ぶほぉっ!」と陽子は吹き出してしまった。

「は、は……はたしじょう!?」

「ああ、しかもアタシが鬼であることを分かって送りつけてきたのだ。その揺るがない勇気、わくわくする」

 まるで恋をする乙女のようにときめきの瞳の輝きを放っている鬼越。うん、気味が悪い。

 鬼越が陽子相手なら隠すものでもないだろうと中に入っていた便箋を彼女にも見せた。


 前略


 赤鬼、鬼越魅幸殿


 貴女へ果し合いを申し込みます


 本日16時、体育館裏まで一人で来られたし


「すげー、ほんとに果たし状だよこれ」

 まさかそんなものが実在して、自分が実際に見ることになるとは思わなかった陽子は素直にびっくりした。

「しかし最後の一文が気になってな」

「へ?」


 追伸、ミニスカートを絶対に穿いてきてください


 文面の最後にはそう書き添えられている。

「絶対?」

「絶対」

 その「絶対」という文字が妙に引っかかる二人が言葉を繰り返す。

「でも今のミユキは制服なんだから別にいいじゃない。そのまま行けば」

「まぁそうなのだが、変に気になってな」

「……で、行くの?」

「無論だ」

 戦いの種族である鬼が戦いを申し込まれたのだ。行かなくては矜持に反するばかりか、里に残る仲間達に立つ瀬がない。

「しかし本日はアタシあての荷物が夕方くらいに届く予定になっているのだが……困ったな」

 だが鬼越には先約があったらしい。

「え、そうなの? じゃあボクが代わりに受け取っておいてあげるよ」

 鬼越のその予定には、陽子が代理人としての声を上げてくれた。

「それは非常にありがたい申し出だが、お前は友人の一人が果し合いを申し込まれたというのに心配はしないのか?」

 別にしてくれなくても一向に構わないのだが、陽子が特に動じたりもせず普通なのが気になったのだ。多分こういう場面では「一緒に行こうか?」などと、行かないまでもとりあえずいうのが普通なのではないかと思う。

「だってミユキだったら大概の相手は一人でぶっ飛ばせるでしょ? 敵わないのは鉄車怪人くらいで」

「……それは頼られているのか変なもの扱いなのか」

「ボクが始めてミユキに体育館裏に呼び出された時も、クラスのみんなはボクに対してそんな感じだったよ」

「……お互い難儀な体に生まれたものだな」

 多分陽子なら鬼越とやりあっても走って逃げれば大丈夫などといわれたのだろうと鬼越自身も推測する。そしてそれは正解である。

「二人ともおはよう、どうしたの?」

 鬼越が便箋を再び封書にしまい鞄に入れたところで後ろから声がかけられた。

「あ、委員長おはよう」

 今日も眼鏡に三つ編みのばっちり委員長スタイルの委員長がそこにいた。陽子が朝の挨拶をする。

 委員長も寮生活なので同じ場所から登校するのだが、意識していないと意外に顔を合わさないものである。

「おはよう委員長」

「鬼越さんは下駄箱になにか入っていたみたいだけど」

 遅れて鬼越が挨拶すると、委員長はそんな風に返した。鬼越が下駄箱から封書を取り出すところからの一連の流れを見ていた様子。

「なにかしら、ラブレターでももらったのかしら?」

 更なる委員長の追及。委員長らしく注意対象にするのだろうか。

「残念ながらその類の文ではなかったな」

「そう? あなたのことを殺したいほど恋焦がれている人もいるんじゃないの?」

「恋するほどの私怨か……それも否定できないな」

 委員長の詩的な指摘に、鬼越は感慨深げな顔になる。

「鬼とは恨みをかってなんぼの生き物だ。どこで誰がどれくらいアタシにそんな想いを抱いているかなんて正直分からん数だ」

「……私ちょっと職員室に用事があるから先に行くわ」

 委員長はそういい残すと、自分たちの教室がある方とは違う方向に歩いて行った。

「あ、うんまたあとでね」

 陽子が声をかけるが、委員長は既に廊下の角を曲がるところだった。

「殺したいほど恋焦がれ、恋するほどに怨む、か」

 廊下を進みながら独り語ちる。

 確かにこの気持ちはある意味恋なのかもしれないと、自分で改めて口にしてみて委員長もそう思った。

「……」


 その日の午前中の時間帯。

「まだ電探には映らない?」

「ちょっと待ってください――あ、今光りました! 11時の方向距離800メートル!」

 操縦手が操縦席に据え付けられている電波探信儀に映った輝点から距離を目測し告げる。

「……よし、目視でも確認した」

 キューポラから上半身を出している戦車長が双眼鏡で11時の方向を見ると、きらきらと陽光で輝く川面の中で、高波とは明らかに違う形できらきらが盛り上がっている部分を見つけた。

「進路左へ30度修正、現11時方向を正面に」

「了解」

「弾種、トリモチ硬、装填」

「了解」

 目標を発見した車長が矢継ぎ早に指示を出し、操縦主と狙撃手がすぐさま応える。

 陽子たちの通う高校のある地域の河川では、朝の時間帯から追撃戦が行われていた。川の上を水保所属の水陸両用戦車が高速で航行している。

 川沿いを歩いていた市民から「水の魔物を見た」と通報が水上保安庁の方に入れられた。その目撃情報は二体。そして今こうしてその内の一体を捕捉したのだ。

「目標との距離が500メートルになりました」

 電探に映る輝点が近づいてきたのを操縦手が報告する。

 普通は戦車に電波探信儀なるものは付けられることはないが、水上保安庁の水陸両用戦車の場合、主戦場が水面であるので標準装備となっていた。

 しかし開けた水上でも失探してしまうことも結構あるので、あくまでおまけの装備だと認識している戦車乗りは多い。

「400まで詰める。弾は無駄にしたくない」

 500メートルを切ればもう双眼鏡無しでも目標が見える。川面から人の上半身をひょろっと伸ばしたような物体が浮かんでいる。ほとんど透明なので周りの水がカモフラージュになっているが、経験を積んだ水保の戦車乗りであればちゃんと判別できる。水の魔物だ。

「了解」

 操縦手が更に距離を詰めるためにハンドルを回す。

 トリモチ弾の最大射程は500メートル前後だが、普通は最大射程で当たるものではないので、戦車は更なる接近を行う。

「距離400を切りました」

「よし、第一射、!」

 車長から発砲指示が下令され、既に照準を終えていた射撃手が発射レバーを引く。

 トリモチ弾とはいえ射撃時の風圧は凄いので、戦車長が多少顔を守る仕草をした直後、主砲から砲弾が放たれた。

 それは狙い違わず、航走していた水の魔物の背中にヒットした。トリモチ弾の弾着の圧力は水の魔物の背面を大きく抉り取る。削り取られた体の一部だったものは千切れ飛んで川面へと落ちた。それは川底へ沈むうちに跡形もなく水に溶け出す。

 しかし直撃を食らった水の魔物はそれでも消滅には至らず、進路を変えようとしていた。

 水の魔物がもっとも好むフィールドは、河川敷のある大型河川である。川沿いの道路などに阻まれて戦車の電波探信儀の電波は届かなくなるし、町中よりも水に近い方が湿気が多いので活動に適している。

 そして相手がそのように上陸作戦に適した相手だからこそ、専門駆逐組織として設立された水上保安庁の主要装備も水陸両用戦車なのである。

「次弾装填、弾種、トリモチ硬」

「了解」

 車長が次なる発砲準備を指示し、射撃手が自動装填装置でトリモチ弾を再び選択する。

「それにしてもトリモチ弾って便利ですね、水の魔物にも鉄車怪人にも使えて」

「まったくだわね」

 目標へ向けて舵を取る操縦手がそんな風にいうと、車長もそう答えた。

 水の魔物という異の存在は、体組織の構成防御力を上回る攻撃を連続して当てて、その体を維持できなくなるまで細かくしてしまえば殲滅が可能である。

 つまり少しずつ引き千切っていけば倒せる。もちろん爆撃などで一瞬にして吹き飛ばすことも可能であるが、被害拡大を考えれば毎回そんなことをしていられないのは想像の通りである。

 元々水の魔物相手には散弾などを使っていたのだが、それでは周りに与える被害が大きいということで初期の駆逐戦では水保側も思うように発砲できず苦戦していた。徹甲弾や榴弾では威力がありすぎて突き抜けてしまい最初から役に立たなかった。一応火炎放射戦車なども有効であったらしいが、超接近戦となってしまうためにごく初期に使われただけらしい。

 そんな苦労の連続の初期での戦いの後、鉄車怪人の足止め及びダメージ蓄積用に用意されていたトリモチ弾が水の魔物にも有効であることが分かり、今では水上保安庁の戦車全車両の標準装備となっている。

 基本は対人用に用いられるゴムスタン弾を戦車砲サイズにスケールアップしたものなのだが、発射されると切れ込みが開いて十字形になる弾頭部分が、グネグネとしたトリモチ状に化学変化するのだが一体いかなる仕掛けによってそうなるのかは、水保に戦車を納入している疾風弾はやてひき重工の企業秘密なので、そこから先はうかがい知れない。

 トリモチ弾は硬度の違いで二種類あり、人体に当たっても最悪気絶程度で済む軟らかいものと、目標にダメージを与えるのも考慮し硬いまま撃ち出して着弾後に軟らかくなって改めて拘束するものとがあり、発砲の際に選択する。鬼越が鉄車怪人と組み合っている時に放たれたのは前者であり、もしヒトミが捕まったままであれば万が一当たった際の園児の体力を考えて、前者の軟らかい弾種でも発砲できなかった筈である。その意味でもあの時の陽子と鬼越の活躍は大きかった訳だ。

「目標が上陸したわ。これ以上の内陸への進行を阻止する。第二射は足元へ発砲、照準!」

 車長の新たな指示が飛ぶ。

 水の魔物も消滅するのは嫌なので、危険を感じれば身を隠しやすい町中に逃げ込む。それでも細い川などの水系を目指して移動するので進路を予想するのは容易いが、やはり町の中に逃げ込まれては戦車の図体では追撃は困難になる。

 だから河川敷を主戦場にしたいのは水保も同じなのだ。

「照準よし」

「撃て!」

 水陸両用戦車から第二射が放たれる。それは上陸した水の魔物の肥大化した円錐状の下半身に当たり、相手を前のめりに転倒させた。

「よし! このままこちらも上陸する。上陸後位置固定ののち、連続射撃にて殲滅」

「了解!」

「了解です」

 水陸両用戦車も水の魔物に続くように河川敷に乗り上げ、動きが鈍った相手に連続射撃を与える。これだけの至近距離で、下は水面ではなく安定した場所なので、正確無比かつ無慈悲に連続ヒットする。

 とりあえずトリモチ弾(硬)を7発撃ち込んだところで水の魔物は体を維持できなくなり、あとは細切れの水の塊になってバラバラに転がった。

「よし、状況終了を確認」

 それが程なくして溶けるように河川敷の土砂の中に染み込んでいくのを確認すると、戦車長が追撃戦の終了を宣言する。

「ふぅ、とりあえず一体撃破ですね」

 額の汗を脱ぐいながら射撃手が言う。

「もう一体はどこにいるのやら」

 操縦手も息を吐きながら戦闘で強張っていた体の力を抜いた。

「本部へ連絡。こちら六番隊一号車」

 車長は通信用のマイクを取ると水上保安庁本部への連絡回線を開いた。

『こちら本部。どうぞ」

「六番隊一号車、水の魔物一体撃破」

 本部へ通信が繋がると水の魔物の撃破報告をまずは入れる。

『こちら本部、水の魔物一体撃破了解』

「本部へ連絡。今後の追撃続行のために現地休憩を承認願う」

 しかし目撃情報のあった水の魔物はまだ一体残っている。これで終わったわけではないので、再出撃のために三人とも少し休みたい。

 自分たちの基地へ詳しい戦果報告を含め一旦帰れば、ちゃんとした休憩も取れるのだが、ここから水保の根拠地である第参海堡に帰還するのは手間なので、現地で休憩時間がもらえるように申請した。

『こちら本部。現地休憩承認、時間は30分。おやつ代は一人500円までですよ』

「わかってます。六番隊一号車了解」

 その申請は問題なく通る。自分たちが休んでいる間は、他に川面を走り回ってる隊がカバーしてくれるだろう。

「とりあえず30分休憩もらったわ、休みましょ」

 本部との連絡を終えた車長が部下にそう促す。

「やったー」

「ふぅ、やっと一息吐けますね」

 休憩の決まった三人は まずは車外に出て外に降り立つと、体を伸ばすストレッチを思い思いに始めた。

「朝ごはん買ってくるわ。何がいい?」

 腕を伸ばす運動をしながら他二名に車長が訊く。車内にも備蓄のレーションは積んでいるが、せっかくの外での休憩なので外での食事を楽しみたい。それに外での休憩の場合は軽食費として一回500円まで支給されるのだ。

「おにぎり!」

「サンドイッチ!」

「じゃあ間を取ってハンバーガーね」

 二人の意見をスルーしての即決の車長。一応間は取ってるらしいので意見は尊重はしているのだろうか。

 しかし即決ならば何のために訊いたのかと二人は思うが、目と鼻の先にファーストフードショップがあるのが見えたので、多分そうなるとは他二名も最初から思っていたのだが。

「じゃあ整備と点検よろしく頼むわ」

「了解です」

 このような待機状態では、戦車長は連絡や物資の補給要請や受け取りのために車外に降りて走り回り、残った者は戦車の修理点検を行うのは、WW2で戦車運用が系統化されてからどこの国でも行われるルーチンワークとなっている。

 というわけで愛車の常態維持を任せた戦車長は、部下と自分の分の食料を求めて川向こうの道路沿いにあるハンバーガーチェーン店へと走るのであった。


 戦車長が食料を調達してくるのと同時に、基本整備と基本点検を終えた操縦手と射撃手は、三人連れ立ってコンクリートで造成された斜めの崖に腰掛けると、そこで遅めの朝食を始めた。

「それにしてもこの川も、綺麗になりましたよね」

 朝メニューセットのハンバーガーを頬張りながら、操縦手が感慨深げに言う。

「ほんとね」

 コーヒーを一口飲みながら車長がまったくだと答える。

「こんな真っ青になるなんて15年前は夢にも思いませんでした」

 ハッシュドポテトを齧りながら狙撃手がうなずく。

 この川も以前は、都会にありがちのヘドロが堆積した緑色の川、そんな印象だった。

 それが今では南の島並――とまではいかないがかなり透明度の上がった様相を見せている。

 水の魔物が多量に出現するのは水質に問題があるとの情報を入手したこの国の政府は、大掛かりな水質改善計画を打ち出した。

 その計画に則りこの国屈指の重工業である疾風弾はやてひき重工が要所となる河川に特殊浄水工場を鉄車帝国戦役後に設置、出現当時はそれこそチャリオットスコードロンでも手に余るほどに出現した水の魔物数を、15年という時間をかけてかなり減少させることができた。最近になって再び増えだしたが、それでも全盛期に比べれば大した数の増加ではない。

 そしてその恩恵として多くの河川は、透き通るような蒼き流れとなったのである。

 河川を丸ごと水質改善させるにも相当な技術が必要だが、疾風弾重工は鉄車帝国戦役時に鉄車帝国、そしてチャリオットスコードロンが有したオーバーテクノロジーの数々を入手し、その技術が応用されているとは噂されている。

 しかし疾風弾重工はこの国有数の財団連合である疾風弾財団の中心組織でもあり、疾風弾財団そのものもチャリオットスコードロンの元隊員となんらかの関係があるといわれているが、相手が相手であるだけに政府といえども迂闊に立ち入れず、その情報の殆どが非公開なのが現状である。

 ちなみに水陸両用戦車を始めとする水上保安庁が装備する機材の納入はほぼ全て疾風弾重工が行っており、創設から今日に至る運営まで殆どの出資を疾風弾財団が行っているので、ほぼ疾風弾の息のかかった半ば民営組織となっている。

 更には陽子たちが通う高校も一応は公立校なのだが、水保同様に創立から運営までその出資の殆どが疾風弾財団から出されているので、柔軟性の高い半ば私立校のような校風なのはそのためである。

「今日は一日水の上で仕事かな」

 そんな疾風弾重工製の戦車に乗って午前中の大半を水上で過ごしていた戦車長が、自分たちの庭ともいえる青き川面を見ながら、コーヒーを飲み干しつつポツリといった。

「そんな縁起の悪いこといわないでくださいよ」

「そうですよそんな物騒なこと」

 その予想に部下から抗議の声が上がる。

 もう彼女たちにとっては水の魔物という脅威が現れるよりも、それを追い掛け回して一日中狭い戦車の中で波に揺られるのが、縁起が悪く物騒なことである。

 本日彼女たちが基地へと帰り着くのは何時であろうか。


 時間は進んでその日の夕方直前、高等学校放課後。

「ふむ、時間だな」

 16時きっかりに鬼越は体育館裏に現れた。授業中と変わらぬ制服姿に、スポーツバッグが一つ。

 このスポーツバッグは爆槌が入っていたほどではないが、それなりに大きな――というよりも長いものが入ってる様子。中身の長さは1メートルは余裕で越えているだろう。普段はこのバッグも中身も寮に置いてあるので、昼休みの間に一旦戻って取ってきていた。

 果し合いを申し込まれたのだ。最大限の礼意をもって答えなければ失礼だと、戦いの種族である鬼越はそう思ってこれを用意してきた。ちなみに授業道具の入った鞄は陽子に持って帰ってもらう予定。

「ようこそ、赤鬼さん」

「?」

 上の方から誰何が聞こえたので、見上げてみると体育館の湾曲した屋根の突端に誰か立っていた。

 赤と白のフリルドレスに身を包んだ女だった。良く見ると手足は真っ赤なロンググローブとロングブーツで覆われている。長い髪も真っ赤に染まっていた。とりあえず物凄く学校機関に似合わない格好であるのは確かだ。更には手にバールのような物を持っている。その彼女の後ろにはカカシのようなものが立っているのも見えた。さっぱりわけの分からない組み合わせだ。

 鬼越は里から出る際に学んだ知識の一つに、あんな格好で町中を練り歩く催し物があったのを思い出した。

「確かハロウィーンは秋ごろの開催ではなかったか?」

「うるさいわね、私たちは一年中トリックオアトリートよ!」

 鬼越の言葉に好きでこんな格好してるんじゃないという怒りも込めて叫ぶと、彼女はそのまま宙に飛び出した。後ろのカカシのようなものも飛んでくる。

 しかし彼女は急落することもなく、まるで風で出来た床に支えられているかのように、鬼越の前へとふわりと降り立った。カカシのようなものも問題なく着地。

「赤と赤で色が被ってるな」

 彼女の全身を間近で見た、赤鬼である鬼越女史の第一声がそれであった。

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