タンポポとサクラ
涼。
第1話
『タンポポとサクラ』
ボクはタンポポ。小さな原っぱで生まれた。
でも、まだふわふわ綿毛のタネなんだ。
でも、もうすぐここを飛び出して大空を飛び、どこかの大きな街で立派に花を咲かせて
沢山の人や動物たちに見てもらうんだ。それが、ボクの夢なんだ。
そして、待ちに待った旅立ちの日。
みんなが旅立つ中、ボクはできるだけ遠くへ飛べるように、とびっきり強い風を待っていた。
「ボクが、つかまっていられないぐらい強い風、速く吹いて来い!」
そう言って待っていると、とっても元気な風さんがボクを一気に空高く飛ばしてくれた。
「わぁ、凄い!ありがとう風さん!」
〈やぁ、おいらはもうすぐ春だってみんなに知らせる風なんだ。
君はどこに行きたいんだい?〉
「どこって…とにかく人が沢山いる賑やかな街へ行きたいんだ。
そこでボクが咲かせる花をみんなに見てもらうんだ!」
〈へぇ、じゃあ大きな街の方へ、力いっぱい飛ばしてあげよう。
頑張ってキレイな花を咲かせるんだよ、用事が終わったら君を探しに行くよ〉
「うん!ありがとう」
すると、風さんはビューっと!凄い力でボクを吹き飛ばした。
〈じゃあね、またね!〉
「うん、きっとね~!」
そうしてボクは風さんの力を借りて空高く、大きな街を目指した。
大空の旅…なんて空は気持ちがいいんだろう。ボクはどこまでも行ける気がした。
山を越え、谷を越え、夜になっても星空の下を、朝が来ても飛び続けた。
そうして、やっと目の前に大きな街が姿が見えた。
「あった!なんて大きな街なんだ…よし!あの街にしよう」
大きな街の真ん中に花を咲かせるのがボクの夢だった。
ところが、突然!
後もう少しという所で、空が急に暗く雲に包まれ、ポツリポツリと雨が降ってきた。
「わぁー!」
ボクは雨に当たり、どうしようもなく真っ逆さまに落ちてしまった。
「こ…ここはどこ?」
見渡すと街はずれの公園のようだった。
「もう少しだったのに・・・」
もう、どう頑張っても体が濡れて飛ぶ事ができない。
あきらめるしかなかった・・・。
〔おや、タンポポの子だね〕
「わっ!」
突然、後ろから誰かが声をかけてきた。
恐る恐る振り返ると、すぐ後ろには大きな古ぼけた木が立っていた。
「なんだ…木のおじいさんか」
〔これからここで一緒に暮らす相手にむかって、なんだはないだろう〕
「はぁー」
大きくため息をつく僕におじいさんは構わず話を続けた。
〔何が気に入らないんだ?ここは日当たりも風通しも良いというのに〕
「でも、ここは…ボクはこんな目立たない場所が嫌なんだよ…」
〔はっはっはっは。何だ、そんな事を気にしていたのか〕
「当たり前じゃないか、誰にも見られないなら咲く意味なんてないよ…」
〔それなら大丈夫!わしが人を集めてやろう〕
「おじいさんが?…」
〔そうじゃ、だから元気を出しなさい〕
「う、うん…」
ボクはその時、こんな古ぼけた木にそんな事できるはずがないと思っていた。
だけど、どこまでも優しいおじいさんに少しずつ心を開いていった。
「おじいさんはいつからここに立っているの?」
〔そうじゃなぁ、かれこれ200年にはなるかのぅ〕
「えっ!200年!そんなに?」
〔そうじゃよ、この公園もあの街も当たり一面、何もない頃からずっとな〕
「へぇ、だからこの当たりの事は何でも知ってるんだね」
〔そういう事じゃ〕
ボクは少しずつおじいさんを尊敬するようになっていった。
そして、ボクが芽を出し、順調につぼみをつけようという頃。
季節はずれの寒い日がおとずれた・・・
「寒くてもうダメだよ…」
〔頑張るんじゃ、わしにキレイな花を見せてくれるんじゃろ?
これを過ぎればもう暖かい春になるからの〕
「でも、もう立っていられない…」
と、ボクが倒れようとした時、ボクのまわりの地面だけがほんの少し暖かかくなった。
〔どうじゃ、少しだけだが暖かくなったじゃろ?頑張るんじゃ、負けるんじゃない〕
「この暖かさはおじいさんが?ありがとう…ボク、頑張るね」
そうして、なんとかおじいさんのおかげで寒さに耐え、ボクは前よりもずっと元気になった。
ボクはおじいさんを大好きになった。
そして、寒い日を過ぎるとおじいさんが言ったとおり、ずっと暖かくなった。
〔もう少しじゃな〕
「うん!絶対、キレイな花を咲かせるからね」
ボクはたとえ多くの人に見てもらえなくても、
おじいさんに立派な花を見せてあげられたらいいと、はりきった。
そして、ある日の早朝・・・
「おじいさん!起きて!ボク、咲いたよ!見て!」
〔どれどれ、おぉ、何て可愛らしくキレイな花じゃ!それに堂々として立派だぞ〕
「ホント?」
〔あぁ、本当にキレイじゃ〕
「これもみんな、おじいさんのおかげだよ、ありがとう!」
〔わしの為にこんなキレイな花を見せてくれたお礼に、約束をはたすとするかのぅ〕
「約束?」
〔そうじゃ、わしが沢山の人を呼んでやると言ったじゃろ、上を見て見なさい〕
「えっ!」
ボクが驚いて見上げると、おじいさんは枝という枝に沢山の淡紅色のつぼみが
沢山ついていた。
「おじいさんて、一体…」
〔何だ、今まで知らなかったのか、わしはサクラじゃよ〕
「サクラ?…」
名前だけは聞いたことがあった。この世で一番キレイな花だと。
〔よし、坊やの花が咲いているうちにわしも花を咲かせてやろう〕
そう言ったとおり次の日、おじいさんはいっせいに沢山の花を咲かせた。
「わぁ…」
ため息がでるほどの美しさだった。
おじいさんはサクラの中でも有名なサクラらしく沢山の人々が集まった。
「おじいさんって、すごい木だったんだね。こんな沢山の人がこんな何にもない所に
おじいさんの花を見にやってくるなんて、ホントに凄いよ!」
〔坊やの花も可愛くてキレイだとみんなが言っておるぞ〕
「うん、嬉しい!おじいさんのおかげで夢がかなったよ、ありがとう!」
〔わしも今までにこんなに楽しい日々を送ったことはなかったよ。ありがとう〕
「でも、おじいさんにはホントお世話になってばっかりだったね、
何かボクにお礼が出来ればいいんだけど…」
〔それなら、ここに種を少し落としてはくれないか、やっぱりひとりより
にぎやかな方がいい〕
「うん、ボクもそれがいいかなと思っていたんだ。これからもよろしくね!」
〔こちらこそじゃ〕
そうして、いつしかサクラのまわりにはタンポポが一面、咲くようになり
ここはいっそう有名な場所になった。
おわり。
タンポポとサクラ 涼。 @neko1025
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