第5話『お兄ちゃん参観日に来る』

私はお兄ちゃんとの2人暮らしも学校にも慣れ、3年生となった。

〈真央、進学はどうする?付属中学だから繰り上がるだけだけど、

行くなら理事長に言っとくけど、どっちでもいいぞ〉

また財力?利権?特権?あまり良くないと思うんだけど…。

「どっちでもいいの?」

〈いいよ、好きにしたら。でも、学校行かないなら、お兄ちゃんの助手として働いてもらう、それ以外の仕事はダメだ〉

お兄ちゃんの助手?何で?っていうか…お兄ちゃんが何してるかも知らないのに…。

「高校は行きたいな」

〈そうか、分かった。明後日の参観日、行くからな〉

えっ!黙ってたのに…やっぱり筒向けだったか…

できれば、お兄ちゃんを人目にさらしたくない、色々な意味で…でも、仕方ないよね

一応、保護者だし、過ぎるほど色々してくれてるし…。

「うん、分かった」

〈なぁ真央、どんなコスプレがいい?〉

「ダメ~!本当にダメだからね?普通に来て普通に帰ってよ?」

〈はいはい、冗談だよ。でも、プロのカメラマン頼んでるぞ〉

「すぐ、断って!」

お兄ちゃんは冗談か本気かも紙一重なんだから…あぁ心配だな…。

そして、参観日当日の朝。

〈おはよう、真央〉

えっ?

「ダメって言ったでしょ?」

お兄ちゃんは銀さんのコスプレで木刀を振り回していた…。

〈分かってるって。ただ、いいよって言った時の為に用意してたから…

ちゃんとスーツで行くよ〉

「もう!黙ってても目立つんだから、お兄ちゃんは…ちゃんとして来てよね、静かにね?」

〈分かったよ、用意出来たら一緒に行こう〉

「えっ?3時間目だよ?3時間目だけだよ?」

〈え?ずっと見れないの?今日1日、予定してたのに…明美さんにお兄ちゃんの分の

お弁当も作ってもらったのに?〉

「ダメなの!見れないの!もぉ…」

今日は憂鬱な1日になりそうと思いながら学校へ行った。

そして、とうとう2時間目が終わり休憩時間、遠くからざわめきが近づいてくる。

きっと、お兄ちゃんだ…1番の心配はお兄ちゃんが、たった3つ上で、

私も含め誰もが認めるイケメンという事。

そのざわめきで、クラスメイトも廊下をのぞき込み、ざわめく…

そして、廊下で待つ他の保護者たちも同じく、ざわついていた。

私はお兄ちゃんの格好が心配になり廊下に顔を出すと、ちゃんとスーツ姿のお兄ちゃん。

〈真央~!〉

もぅ!…呼ばないで、手を振らないで、お兄ちゃん!

いっそうざわめく校内…女生徒の黄色い声まで?…。

〈どうも、どうも…〉

黄色い声に答えるな!そして、なぜ手を振る…あなたは誰様だ…。

チャイムが鳴り、他のクラスのざわめきは収まったけど…クラス内は大騒ぎだ。

「お兄さんってモデル?」「お仕事は?」クラスメイトの質問攻めに私もプチパニックだ…。

〈こんにちは、こんにちは、岡田真央の兄です、こんにちは…〉

廊下から聞こえる声…クラスメイトの保護者たちにそんな軽い感じで…お願い黙ってて…。

そして、やっと担任の先生が来てくれ、クラス内は収まった。先生が保護者たちに

〔どうぞ、お入りください〕

と、言うと。

〈はーい〉

返事しないの~!

〈こんにちは~こんにちは~〉

クラスメイトに挨拶しなくていい…

私はお兄ちゃんを見て、くち「チャック!」のジェスチャーをすると、

えっ!お兄ちゃんは中ほどの私の席に来た。

〈真央、リップか?〉

と、リップクリームを差し出した…。

「違うよ!くち、チャック!黙ってて!」

クラス内は大爆笑…もう嫌だぁ…休めばよかった…。

〔和んだとこで、始めましょう!〕

ありがとう先生…そして、本当にすみません…。

何とか授業は滞りなく進んだ。

〔これで今日は終わりです。いつも通り懇談会は日曜日にありますので、

できる限りお出席ください〕

絶対、行くのを阻止しよう…そうして、保護者たちは退出していった。

その後の私はクラスメイトの質問攻めで悲惨な1日となった。

私は終わると、逃げるように誰よりも早く学校を出た。

〈真央!〉

「えっ、何でいるの?」

〈一緒に帰ろうと思ってだよ〉

「とにかく、早く離れるよ」

〈ん?〉

私はお兄ちゃんの手を取り走った。

「はぁ、はぁ…もういいかな」

〈どうしたんだ?真央〉

「どうもこうも、ないの!」

お気楽様なんだから…と、

♪Oh~雨上がりの夜空に~…♪

お兄ちゃんのスマホが鳴った。

〈誰だ!〉

もしもし。という言葉を知らないのか…。

〈うん、全部こちらで用意します。いいですね?はーい〉

と、電話を切った。何だろう?

「お仕事の電話?」

〈理事長だ、とりあえず、売店と食堂を改装する〉

「えっ?学校の?」

〈うん、あまりにロークオリティだからな、ゆくゆくは全部変えてやる〉

確かにそれは…ありがたいけど…複雑な思いだな…。

「全部って?」

〈中身も外観もだ〉

あぁ…やる気満々の顔だ…こういう時のお兄ちゃんには何を言ってもダメだな…。

「やるのはいいけど、できるだけ普通にね?あと、業者に任せていちいち学校に来ないでよ」

〈どうしてだ?〉

「お兄ちゃんは目立つから!懇談会も行かないでいいからね」

察してよ…もぅ。

〈分かったよ、真央が居ないそんなつまらないもの行かないよ〉

普通は!行くんだけどね…。

「なら、いいけど」

と、♪ビックリシタニャービックリシタニャー…♪

お兄ちゃんのスマホが鳴った。これは雨が降る前のお知らせだそうで、

長靴をはいた猫の歌とか言ってたけど…全く分からない。

〈雨か…〉

「走る?」

〈大丈夫、すぐに傘が来る〉

え?傘が来る?

「達也さんか明美さんが傘を持って来てくれるって事?」

〈いや、ほら来た〉

お兄ちゃんが空に向かって指をさした。

「なっ!何?」

見上げると、鳥?カラス?いや…分からないものが私たちに近づいてきた。

〈お兄ちゃんが作ったコウモリ傘だ〉

コウモリ…傘…えっ?かなり、大きいよ?怪鳥だよ…。

ソレは、私たちの真上で止まった。

「作ったの?」

〈そうだ、降りてくるぞ〉

えっ…何でいちいち怖いものを…ソレはゆっくりと降りてきた。

確かにコウモリと言われれば…だけど大き過ぎだよ?怖いよ…。

ウィーン・・・

ソレの体から棒が出てきて、お兄ちゃんはその棒を掴んだ。

〈これぞ本物のコウモリ傘だ。よく出来てるだろ?〉

「えぇ…気持ち悪いよ…こんな大きいコウモリ…本当にコウモリなのコレ?」

雨が降り出した。

〈なに言ってるんだ、リアルサイズだぞ〉

なに言ってるはお兄ちゃんの方だよ?

〈真央、動物好きだろ?知らないのか?フィリピンオオコウモリだよ〉

お兄ちゃん…好きとマニアは違うよ?

「知らないよ、こんなの」

〈フィリピンオオコウモリだぞ?2メートルだぞ〉

2メートル…大きなのっぽのおじいさん時計と一緒だね…。

「とりあえず、傘なのねコレ」

〈そうだ、どこに居ても飛んで来てくれる傘だ〉

これからは真剣に天気予報を見よう…。

「また、棒にスイッチ?あるね…」

上から赤色、青色、黄色、緑色の…

突然にビックリしたくないから先に聞いてみた。知りたくないんだけど…。

〈リアルだけど、ロボットだかな、真央、押してみるか?〉

「嫌だよ、お兄ちゃんが押してよ、別に押さなくてもいいよ?」

押さないで…。

〈じゃあ、緑を〉

ポチッ。

「わっ!」

振りむいた…。

ナニカヨウカ…

「えぇ…」

〈ほらっ、キツネみたいで可愛い顔だろ?〉

イッテイル・イミガワカラン…

いいえ、怖いです!そして、何故いつもため口に作る…。

「もういいから、戻して…」

モドルノカ…

ポチッ。

お兄ちゃんは慌ててもう1度、緑のスイッチを押した。

〈真央、戻っちゃうだろ~じゃあ次、黄色な〉

あっ、戻って欲しかったな…。

ポチッ。ピカーン…

えっ!目からビーム??

〈目がライトになる、片目1万ルーメン、合わせて2万ルーメンだ〉

ライトか…また知らない単語が…わかんないって!

「明るいね~もういいよ…」

ポチッ。

〈最後に赤色だけど、これは押せない、真央も絶対に間違っても押したらダメだぞ〉

はいはい、押すもんですか。

「うん」

ちょっと気になるけど、きっと大変な事になるんだろうな…

そもそも、そんな押せないスイッチなんて付けなきゃいいのに…。

「それより、お兄ちゃん、周りがざわつき始めてるよ?」

〈そりゃ、日本じゃ動物園でも見られないフィリピンオオコウモリだからな〉

そういう問題じゃないよぉ…もぅ、紙一重なんだから。

すると、前方から1台の車が雨というのに速い速度で走って来た。

〈このままじゃ、真央に泥水がかかってしまう…〉

コウモリ傘?を持つお兄ちゃんの手が震えてる…。

「お兄ちゃん?」

私には無い辛い交通事故の記憶がお兄ちゃんにはあった。

〈あぁいうヤツが事故を起こすんだ…〉

ポチッ!

えっ!!今さっき言ってたよね?押したらダメな赤色スイッチをお兄ちゃんは押した。

ボフッ!

!?何が起こったのかのか分からないけど、車は吹っ飛び、前方扇状に何もかも吹っ飛んだ。

〈あっ…〉

あっ。じゃあ済ませれない状況だよ?お兄ちゃん…。

〈超音波兵器だったんだ…〉

唇を噛み、苦悩の表情のお兄ちゃん…なぜ、傘に兵器を搭載したの…。

「仕方ないよ…ね?コレ戻そうね」

私は緑のボタンを押した。

ナニカヨウカ…

「戻って!帰って!」

ワカッタ…

と、コウモリ傘はお兄ちゃんの手を離れ飛んで行った。

〈…ごめんな…〉

「遠回りして帰ろ?途中のコンビニで普通の傘買って帰ろ?」

〈うん…〉

こうして、色々あり過ぎた参観日は終わった。

後日、多数の人が怪鳥を目撃!突然の突風は怪鳥と関係が?という

ニュースが終日、報道されたのは言うまでもありません…。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る