第4話『保護者のお兄ちゃん』

私はどうなるかと心配していた学校も何とか無事に通っていた。

〈真央、友達できたか?〉

「うんうん、いっぱいできたよ」

〈気に入らないヤツとか先生とか居たらお兄ちゃんに言うんだぞ〉

いや、お兄ちゃんだけには言わない…。

「そんなの居ないよ、いい学校だよ。それでね、お兄ちゃん、おこずかいが

欲しいんだけど…友達と売店に行きたいし、たまに帰りコンビニとかも寄ったりしたいんだけど…」

〈そうそう、遅くなったけどコレ真央にと取り寄せた財布だ〉

と、お兄ちゃんは私に長財布を手渡した。

「コレって…ヴィトンじゃぁ?」

〈ん?知らない、家具揃えてもらったデザイナーに選んでもらったけど、

可愛いんじゃないか?ダメか?〉

「ダメじゃないよ~可愛いね、ありがとう」

ただ、中学生が持っていていいのかな…値段は聞かないでいよう…。

〈とりあえず、真央用のカードとお金入れてるから〉

「あ、うん…ありがとう」

恐る恐る開いてみると、やっぱり札束と黒いカード…お札2枚ぐらいにして、

後はタンスにしまっておこう。

〈まぁ、それはいいとして真央、お兄ちゃんは一応、真央の保護者だ〉

「うん」

〈学校から真央は遅刻が多いと連絡があった。とにかく真央は朝が弱い!

スマホの目覚ましでも起きないし、お兄ちゃんが声かけても起きない、

毎日お兄ちゃんがくすぐらないと起きない!〉

「ごめんなさい…お兄ちゃん怒ってる?」

お兄ちゃんは昔から優しく、どんな時だって私の味方、ヒーローだった。

お兄ちゃんから怒られる事なんてなかった。

〈心を鬼にして怒っている。なので、お兄ちゃんが目覚まし時計を作りました~〉

あれ?

「買ったんじゃなくて、作ったの?」

〈そうだ、一緒に寝室においで〉

お兄ちゃん、怒り方、分からないのかな…。

「うん…」

〈♪おおきな のっぽの ふるどけい おじいさんのとけい~♪〉

「え?」

なんで急に歌いだす?って、何だったかな…その歌…。

〈はい、これでーす〉

「な!なに?誰…おじいさん?っていうか…」

寝室に知らない上半身、裸の背の高いおじいさんが、ぬーんと立って居た…。

〈大きなのっぽの、おじいさんの時計だ、身長2メートルだ〉

えぇ…作り物なの?そりゃそうか…こんな大きなおじいさんは居ないよ…って!

「何なの?怖いよ…これのどこが時計?あれ?でも、なんか見覚えがあるような…」

〈モデルいぬやしきさんだ〉

あっ…本当だ…。

〈えっと、これを真央側の角に置く、よいしょっと…重っ…〉

あの…お兄ちゃん…。

「後ろ向きで?」

〈前向きだったら、なんか…気まずいだろ〉

なら、そんなもの作るらないでよ…。

「で?時計は?」

〈ここだ。♪おおきな のっぽの ふるどけい おじいさんのとけい~♪〉

それ、どんな歌だったかな…そして、お兄ちゃんがおじいさんの背中を押すと…。

プシュー・パカッ。

おじいさんの背中が両開きで開き、時計が現れた…。

〈♪おじいさんといっしょに チクタクチクタク♪〉

「そうそう、その歌、何となく知ってるんだけど、なんて歌?」

〈題名なんて知らないけど、ケン・ヒライも歌ってただろ〉

誰よ?それ…っていうか、歌とかの問題じゃないよね…。

「お兄ちゃん、いくら後ろ向きでも、やっぱり気味が悪いよ」

〈それは、ちゃんと朝、真央が起きられるようになるまで我慢しろ〉

えぇ…とりあえず、聞くのも怖いんだけど…

「そういえば、目覚まし時計って言ってたよね…」

〈そうだ、からくり時計的な目覚まし時計だ。真央、おじいさんの右親指を引っ張ってみ?〉

「嫌だよ~怖いよ~」

〈真央の遅刻を聞いて、まる1日かけて作ったのに…〉

あぁ、もぉ…。

「分かったよ…」

お兄ちゃんは起こり方を知らない、怒らしてはいけないと心から思った。

触るの嫌だなぁ…でも、頑張って、おじいさんの右親指を引っ張った…。

カチッ!チクタクチクタクチクタクチクタク…

「わっ!」

おじいさんがチクタクって言い続けた…。

「と、止めて~」

〈もう1度引っ張れば止まるよ〉

私は慌てて、おじいさんの右親指を引っ張った。

カチッ!

止まった…。

〈あと、9本あるぞ~〉

泣くよ?

〈あっ、丁度5時になる〉

え?

「きゃっ!」

カチッ!おじいさんの首が180度回り、こっちを向いて…。

ボ~ン…ボ~ン

と言って、また180度回り、前を向いた。

「うぅ…怖いよぉ…」

〈う~ん…確かに、ちょっとな…この機能は止めとくよ、あと、肝心な目覚まし機能だけど〉

もう、本当にごめんなさい…。

〈おじいさんの左手に腕時計があるだろ?それで時間を合わせる、

普通の腕時計をタイマーに改造した〉

え?時計に時計?しかもロレックスを?

〈とりあえず朝、7時に合わせてるから〉

「ど…どうなるの?止め方は?」

聞きたくないけど、聞いとかないとね…。

〈よし、やってみよう…とりあえず、30秒後に合わせて…〉

と、お兄ちゃんはおじいさんの左手の腕時計を触った。

〈…あと、15秒〉

ドキドキする…。

カチッ!

「わっ!」

おじいさんは両手こぶしを肩ぐらいに上げ…

ドンドンドン…

ひたすら壁を殴りだした。

「いや~っ!止めて、止めて!お兄ちゃん、ごめんなさい!」

ドンドンドン…ピタッ。

〈そうそう、真央のある程度の大きな声で止まる、ちゃんと起きて止めないと、

壁が壊れるから、ちゃんと起きるんだぞ〉

「はい…」

こうして、私は2日で早起きが身に付き、大きなのっぽのおじいさん時計は

撤去してもらった。

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