第15話 文化祭5
「ただいま~」
「おかえり!」
今日は基本的に省エネルギーで動いていたこともありあまり疲れなかった。
それにしても一言も発言しなかったのはあまり良くなかったかも知れない。
「お~やっと帰ったか!」
「ただいま」
自分の部屋に戻ると晴明が毛繕いをしながら言う。
何か用でもあるのか?
「じゃ~ん!これを見よ!」
そう言うと一枚のチラシを出してきた。
「えっと……
井口たい焼き店新作!
丹波栗と酒粕を使った京たい焼き。明日発売!
へ~あのたい焼き屋さん一味加えてくるな~」
井口たい焼き店は駅前にあるたい焼き屋さんで少し変わった味のたい焼きを提供していることで有名なのだ。
大不評だったがミカンとレモン餡のたい焼きなんかもあって面白い。
今回の新作はかなり美味しそうだ。
晴明が吸い寄せられるのも無理はない。
「これに使われる酒粕がなんと伏水の酒粕のじゃよ!美味いに決まっておる!」
成程……
酒の方に吸い寄せられたんだな。
「この店、御香宮が近いから空と雪にも持って行ってあげよう!」
「そうじゃな~ついでに一杯して……ぐふふ」
「気味の悪い笑い方辞めろ~酒はあんまり呑むなよ!」
「あんまりってことは少しは良いんじゃな?」
「すぐ上げ足取りやがって!今回は駄目。また今度な~」
「にゃ~隆~駄目?」
「猫撫で声を出しても駄目!」
可愛いが少しあざとい。
それに何かトラブルが起こった時の事を考えると晴明にはしっかりしておいてもらう必要がある。
最近ニュースで壊霊や妖の仕業と思われる怪事件が多くなってきているし。
こないだも埼玉で自然発火や大阪で一軒の家の下のみが地盤沈下するなどが起こった。
何か起こったときに晴明ほど頼りになるものはいない。
だから御免な。
「隆のケチ!」
「そのうち美味い酒一緒に呑みたいから!」
「お~それは良いのう!わしゃが直々に酒を注いでやる!」
「楽しみにしてる」
晴明は俺が酒呑めるようになるまで数年あることを忘れているな。
無理もない。晴明の生きた年代なら俺はとっくに成人だから。
これが本当のジェネレーションギャップっというやつだ。
「隆とお酒!隆とお酒!」
どんな歌だ。
恥ずかしいから辞めてほしい。
「晴明!久しぶりに昔話聞かせてよ!」
寝れないとき良く自分が生きた世界の事を晴明は聞かせてくれた。
「良いぞ!なんでも良いか?」
「うん」
「昔。かつての京は鬼や霊で溢れかえっていたのじゃ。鬼の形相は髪が黄金色に輝き赤い目をしていた。他にも様々な容姿の鬼が居った。背の高い鬼から低い鬼。目の青い鬼も居ったのう~
じゃがわしゃは、怖いと感じたことはなかった。
優しい目をしておったからじゃ。
それでも上の連中は恐れを抱き鬼達を追い出そうとした。
鬼達は居場所を失いながらも懸命に生きたのじゃ。
鬼の正体とは果たして何じゃったのか。
昔よく考えていた。あんなに優しい目をした者達を何故追い出さなければなかったのか。とな。
そんな事を長年考えていたが、いつしかわしゃも歳を重ね死んでしまった。
そしてこの世界に来て正体を知ることになったのじゃ。
外国の人々と容姿が似ていた。あの時代からもう海外から人が入ってきていたのじゃと。となれば鬼とはなんじゃ……
ある本の文に鬼とは陰が訛ったもの。
陰は正体の分からない不気味なものであると。
そんな事も陰陽師であるわしゃが知らなかったのじゃ!
面白いじゃろ~」
「zZ……」
「こら!せっかく話してやったのに何で寝てるんじゃ~」
「晴明の声が優しくて眠くなった……」
だが本当は聞いていた。
晴明は同じ人間を追い出そうとしてしまった事に深く後悔している。
そうじゃなきゃ、あんなに優しく少し悲しい声で語らない。
「それなら許してやろう!」
「うん!風呂入って寝るか~」
俺には分かることのできない時代の差。ジェネレーションギャップ。
分かってしまう世の中になりませんように。
「ん?やばい!課題あるの忘れてた~」
せっかくのしんみりとした気分がぶち壊されて明日を迎えることになったのだった。
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