第14話文化祭4
待ち望んでいた昼休みも間もなく終わり、五限目の授業が始まる。
ただ気が付いたら終わっていた。
「やってしまった……」
あまり授業中に寝る事を良く思っていなかった俺が寝てしまうとは……
周りで寝ている同級生にロクな奴はいない。
めでたくロクな人間ではない部類に所属してしまった。
霊が見えるという意味ではまともではないが。
「ほら~そろそろ席に着けよ!」
どうやら五限目だけでなく六限目のチャイムも超えてしまっていたようだ。
塚本先生が黒板を手で叩きながら促している。
「それじゃ、後は頼むな!」
全員が席に座った事を確認しホームルームのの進行を文化祭実行委員の二人に預けた。
「先週決め損ねた事を決めていこうと思います!」
佐々木が想像通りの台詞を宙に並べた。
「まったく考えてなかったな~」
「忘れてた!」
「先週何したっけ?」
そんな台詞が佐々木の台詞を上書きした。
高校生の文化祭なんてこんなものだろう。知らんけど。
「えっと……とりあえず決めるのはどういうタイプのお化け屋敷にするかですね」
この小島の台詞の後に長い沈黙が訪れた。
危うくもう考えるの面倒だから本物でも使えばいいじゃないか。
そんな台詞を言ってしまいそうになった。
鞍馬の天狗に来てもらったら……
暗い教室でポルターガイストの嵐。
面白そうだ。
天狗の無駄遣いもいいところだが。
それに空や雪を加えればもっと面白いかもな。
いたずらをしているのを顔を見合わせて笑う。
そう思うと文化祭って悪くない。
「私は人が驚かせるタイプがいい!驚かせたい人がお化けをすればいいでしょう?」
クラスの女子。名前は確か……
東なんちゃらさん。
そうだ東
あまり知らないが部活に入っていないが噂によると運動神経が抜群で人の少ない部活動の助っ人をよくしているらしい。
確かに有志にすればこの問題は解決する。
丁度いい落としどころかもしれない。
組み合わせるには決める時間次第で製作時間がかなり削られることになる。
それを考えるとカラクリみたいな物を作らないで済むから比較的短時間で済む。
「危ないからやめておいた方がいいって意味で先週言ったんだけど!」
この意見に噛みついてきた。
それなら驚かす役をしなければいいだけだと思うが。
「それなら驚かす役をしなければいいじゃない!」
東が素早く反論する。
当然と言えば当然だ。
「皆が怪我しないように言ってるんだ!」
皆か。
その単語だけで自分の為ではなく他人の為に言っているんだ。
そんな都合をよくできる魔法の単語だから俺はあまり好きじゃない。
「隠れる場所と驚かし方を工夫すればいいだけでしょう!」
「二人とも落ち着いて!」
佐々木が議論から口喧嘩に発展しそうな二人を止めた。
「できれば今日中にこれを決めてしまいたいのですが皆さんどう思いますか?」
小島が周りに意見を求める。
「私は工夫して皆で驚かすのがいいと思う!怪我は注意すればかなり抑えられるし」
菫が淡々と自分の意見を述べた。
結構発言しっかりするタイプだな。
「でも、ゼロってわけじゃないだろう?」
「準備でも怪我の可能性はゼロじゃないし、使うものによってはもっと危ないから」
「……」
菫が完全に論破した。
自業自得だがクラスメイトが見ている前で完全に論破されるって少し可哀想だ。
「それでは人が驚かすタイプのお化け屋敷でいいですか?」
佐々木がクラスに最終判断を促す。
「それでは人が驚かすタイプのお化け屋敷で行きます!」
クラスの人間が首を縦に振るのを確認し今度は小島が宣言した。
「次回からは必要になるものを整理していきたいと思います!先生なにか連絡ありますか?」
「ありがとう佐々木。重要な連絡はない。各自来週は忘れずに少し考えて来いよ。働き始めたら忘れたは許されないからな!それでは解散!」
塚本先生のさすが社会人という台詞で今週のホームルームは終わった。
「おい!勝村。今週は全く喋らなかったな」
「塚本先生。俺は元々そんなに発言する人間じゃないですよ~」
「確かにな。ただ意見すべき状況はあっただろう?」
「そんなのありましたか?」
「クラスの沈黙が続いた時だよ」
「あぁ~ありましたね。でも発言すべきタイミングかは分かりませんが」
「勝村だけではないが自分の意見を言えないといつか損をするぞ」
「さっきの台詞もそうですが昔そういうことをしたんですか?」
「怒られるような事は沢山あった。全校集会で話すべき事を忘れていたり、好きな男性に思いを伝えられなかったり……」
前半は分かるけれど後半のは違う意味で重いな。
「そうですか。気を付けます」
「全くその気のない返事だな~」
「気のせいですよ~」
「それなら良かった!君は昔の私によく似ている。やばい!もうじき部活動ミーティングの時間だ。気を付けて帰れよ~」
「塚本先生は頑張って下さいね」
それにしても塚本先生と俺が似ていたとは……
今の塚本先生からは全く想像できない一言だな。
こうして俺も誰もいなくなった教室を後にした。
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