第12話 文化祭2
そして、翌日を迎えた。
今日から、本格的に文化祭に向けてクラスが動いていく。
授業の後は、文化祭実行委員の二人が指揮を執り進める。
このクラスの担任塚本 メイ《つかもと めい》が長い美しい髪を触りながら見守る。
余談だが、この塚本先生は二十九歳の独身。
最近の口癖は、
「結婚式にもう出たくない~」だ。
どうやら同級生の結婚ラッシュで、自信を無くしてきているらしい。
ただ、かなりの美人だし仕事もできる。
整った顔と少し鋭い目。
学校の男子生徒から告白された事があるとか無いとか。
俺がもう少し早く産まれていたら恋に落ちていたかもしれない。
「さて、ディスカッションを始めよう!必要な物を書き出していこうか!」
小島が、早速話し合いを開始した。
ここで、気にしなければいけないのは予算二万円に抑えるためにどうするかだ。
とりあえず、聞くだけ聞いておこう。
「木の板!」
「ハンマー」
クラスの頭の悪そうな男子が言った。
名前は確か、羽藤 なんとか……
駄目だ、思い出せない。
それにしても、この教室をどさくさに紛れて改造としてないか?
「全く、この教室で何するつもりなんだ?」
塚本先生が的確に捌いていく。
「暗くするのにどうかなと」
「そんな方法取ったら、休学させられるぞ! 私もどうなるか…… ただでさえ、安月給なのに!」
「な、なんかすいません!」
「そうだな~暗くするには、何がいる? 勝村」
「僕ですか? そうですね…… でかい布とか、段ボールですかね!」
「そうだな まぁ、そんなところだな~」
議論に参加する気はあまりなかったのに、よりにもよって俺が指名されるとは。
そう思い先生を少し眺めた。
そうするとそれに気付いたのかニコリと笑った。
本当によく人を見ている。
「それじゃ、他にありますか?」
もう一人の実行委員の佐々木が今度は尋ねた。
「えっと、スプレーとか……」
やっと、まともな意見が出た。
スクールカーストの上の人間とよくいる女子生徒が言う。
いつももっとキャピキャピしている感じなのに小声で。
好きな男子でもこのクラスにいるのだろうか。
「そうですね! 他にお願いします!」
「あの~私、いいですか?」
ここで手を挙げたのは菫だ。
一斉に、最前列に座る菫の方に視線が集まった。
「それじゃ、相楽さんお願いします」
「えっと、このお化け屋敷って人が驚かすタイプですか? それとも、骨格標本とか置いて驚かすタイプですか?」
「そういや、そのあたり決まってなかったですね。 皆さん、どうしますか?」
言われてみればそこで買うものも多少違ってくる。
例え、カラクリを作る材料であったり。お面であったり。
「そりゃ、人が驚かすのがいい!」
「ええ、私は物で驚かしたい!」
「俺も、物だな。前やったとき驚かす役をやったんだけど蹴られたり殴られたりした!」
それは気の毒だな……
驚かして走って逃げていく人の足が顔にヒットする。
想像しただけで痛そうだ。
それにしても思いのほか白熱してる。
ここであまり時間をかけると後に響く。
ただでさえ、準備に時間を要することをするのに。
「どうだ、小島と佐々木! 意見は、まとまりそうか?」
少し口論になっていたことで、塚本先生が話を遮った。
「多数決にしようと思ってます!」
二人が顔を見合わせ、小島が答えた。
「多数決は確かにいい手段の一つだ。ただ数が多いから正しいと言う訳ではないことは覚えておくように!」
そう。これが今の日本の悪い形だ。
多勢には勝てない。
俺のように人と違う世界が見える。
そんな少数は、受け入れられない。
今回の場合ならどっちかに決める必要なんてないのだ。
両方組み合わせればより良いものができる。はず……
「はい……」
「それじゃ、今日はどっちにしても必要な物だけ決めようか~」
肝心な答えまで教えない。良い教育方針だ。
少し性格が悪くも感じるが。
「そうですね! 皆さん、他にありますか?」
「少し、雰囲気のある音楽流したいよね~」
「そうだね、優! 何か、音楽が流せるものは欲しいかも」
クラストップのイケメン川崎
川崎は、確かバスケ部のエースで勉強もかなり出来たはずだ。
井村は、サッカー部で運動神経は抜群だが頭はかなり悪い。
このクラスの男子のカーストトップにいる二人だ。
「誰かの携帯をスピーカーと繋げる感じでいいかな?」
「いいんじゃね!」
「じゃあ、当日誰かに持ってきてもらう感じで!」
「それなら、私が持ってるから使うと良いよ!」
「いいんですか! じゃあ、そういう事で!」
「他、何かありますか?」
こうやって聞いているだけで意見言わなくていいなら実行委員って楽そうだな。
そんなことを感じ始めていた。
いざやれと言われれば、恐らく言葉が響かないが。
「今日は、こんなものでいいだろう! 部活が、ある奴もいるだろうから解散だ!」
「そうですね! 皆さん、今日は解散です!お疲れ様でした~」
こうして、今日の話し合いは幕を下ろした。
「おい! 勝村」
「なんか、用ですか?」
少し当てられた恨みを込め言葉を放った。
「お前お化け屋敷どうするべきか、答え分かっていたろ~」
「いや、分からなかったですね~」
「あそこで議論になるとわ。もっと簡単に、考えてくれれば良かったんだがな!」
「そうですね。 まさかでしたよ」
「このまま、見つからなかったら意見を言えよ勝村」
「嫌ですよ。 自分たちで答えを見つけれるようにあんないい方したんでしょ?」
「分かってないと言ったではないか!」
「正解かは、分からないって意味ですよ! それに、大勢で何かするのは僕は苦手なんで」
「まぁ、いい!期待しているぞ~ じゃあな」
本当に、エスパーのような人だ。
「ねぇ、隆君! 帰ろう!」
「変な噂されるかもよ?」
「そんなの気にしないわよ!」
俺が気になるんだけれど……
「そっか~」
そこから暫く、歩いていた。
十分程、沈黙があったところで菫が沈黙を破る。
「私があんなこと発言したから、進まなかったのかな?」
「そんなことはないと思う。あそこまで、白熱するような問題じゃないし」
「そうだよね! 私もびっくりした!」
少し、気にしているように見えるが人と関わってこなかった俺にはなんて言ったらいいか分からない。
「明日にでも、決まるだろう!」
辛うじて出てきた言葉。
なんて酷い言葉だろう。
自分に責任はないと言っているようで。
「そうだね! それじゃ、私はこっちだから!」
「うん」
明るく手を振り、菫が道に消えていった。
どんな文化祭になるのだろうか。
そんな事を考えながら家族の待つ家に急いだ。
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