第7話 メッセージ

 “空間消滅領域SDA”との接触まで、地球時間換算で残り8時間にせまった。


 エレノア号は艇外せんがいに広がる“明るい宇宙”の中の微小な点になっている。

 私はもう、これ以上何も恐れることも驚くこともないと思っていた。

 そして、私たちの最後の時も刻々と近づいている。

 

「ディー、前方約138万キロの領域に、物質反応があるわ ―― 」

 

 突然メイティのメッセージがきて、私は急いで指令室コンソールに向かった。


「不明物体の数は、前方に一つとその上下と左右に一つずつ、合計五つが十字の配置で確認 ― こちらに向かって移動中。どうしていままでセンサーが感知できなかったのかわからない ― どこから現れたのかしら」 


「おどろいたな …… とにかくスクリーンに出してくれ」


「オーケイ、ディー」

 

 司令室のスクリーンには、薄明るい宇宙空間を背景に五つの巨大な黒いぼんやりとした影が映し出されていた。距離が遠くてまだ小さな点にしか見えない。


「 ―― 拡大してみるわ」


点の一つが拡大され徐々にはっきりした濃度になり、物体の形が明らかになっていった。

 

「これは …… 」

 

 それはあまりにも複雑な体形をしていた。

 

 その物体は、本体は球形でその周りを分岐した短い樹状部が網目のように絡み合っていて球形を包むように広がっていた。巨大な玉から葉のない樹木が隙間なく絡み合った不気味でとても機能的とは思えない体形だった。

 

「これは ―― 宇宙船 ―― かしら? でも、そうは見えないわね ― 」

 

「しかし …… 信じられん。いったい大きさはどのくらいあるんだ …… 」

 

「物体の一つだけで、正面からだと左右で1200キロあるわ。この船の全長の約3000倍ってところね」

 

「しかし、なぜこんな時に …… 」


「 ―― 私の発信した全波長シグナルを受信した可能性はゼロではないわね」

 

「ほんとにあのシグナルを受けとったっていうのか…いまになって?」

 

「 ―― コンタクトとってみる?ディー」

 

「あ、ああ …… できるのか?」

 

「できる限りの方法でやってみるけど ―― ではとりあえず同じ宇宙の仲間として、挨拶のメッセージは「HELLOこんにちは」でいいかしら?」

 

 こんな状況でも、メイティは何か楽しそうだった。しかし、私にはそこまでの余裕はなかった。第一次遭遇ファーストコンタクトの驚きでしばらく呆然となっていた。

 

「 ―― 地球の全言語と翻訳画像のパターンを全波長で交信をしてるから変換に時間がかるけどなんとか発信できそう ―― 」


 メイティが接触コンタクトを試みてから、スクリーンにノイズが混じり始めた。

 しばらくすると、巨大な物体の一部が明滅を始めた。

 

「 ―― 受信できそう、変換してスクリーンにだすわね」

 

「ああ …… たのむ」

 

 しばらくして、ノイズだらけの隙間に文字らしきものが現れた。




『 ・…・ 』


『 ・…・… ∴……・…・・∵… 』




「ノイズしか見えないな …… 」


「 ―― まってディー、もう少しで解読変換できそう―― 」




『 ・…・………・…・∴・… 』



『 ・∵…・… 』



『 ・…・………∴・…・・… H …・… 』


『 …・∵…・・…・… E … L …・…・… L … …・……・∴…・… 』


『 ・…・… O … …∵・… 』



『 …・…∵… 』



『 … 』





「これは …… 」


 私は網膜パーツから受けた情報に唖然とした。


[これは …… すごい …… 」



 

 しばらく待ったが、これ以上スクリーンに文字は現れなかった。

 

 

「すばらしいよメイティ、これは … 偶然ではなく … 」

 

 たった“5文字”のコンタクトだが相手が“知的生命体”だとわかった。


 やがてメッセージの文字が消えた。

 

 

 この時スクリーンに映る五つの巨大な黒い物体は、エレノア号より50万キロのところに来ていた。

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