第3話 D‐MEN

 エレノア号の二つ目のミッションは、地球外知的生命の探索だった。

 

 しかし、いまのところ人類はまだ高度な文明をもつ知的生命体とは遭遇コンタクトしていなかった。艇内せんないには無人探査機ボイジャー号のように地球の情報ディスクを積んで遭遇コンタクトの事態に備えていた。


 もし知的生命体がこの宇宙にいるなら、この“消滅現象”に無関心でいられるだろうか。そのことをメイティに尋ねたが、気がついてる可能性はゼロではないと答えた。

 しかしどんな知的生命体でもこの事態にはなすべもないだろう。

 

 

 ミッションのことを考えながら私は彼女といつものコテージのテラスにいた。

 

「生きてる間に、一度くらいは会ってみたかったな …… 知的種族に」

  

「 ―― 会って何をしたいの?」

 

「そうだな …… 今なら相手がどんな種族にしろ、同じ宇宙の仲間だと思えるよ。だからもし彼等に会えたら …… 最初のひと言はやはり「HELLOこんにちは」だろうな」

 

「あまりに普通すぎないかしら?でもディーらしいわね」

 

 ミルクティーを一口飲んで彼女はほほえんだ。

 

「ワタシも外知的生命が高度な文明をもつ友好的な種族なら会いたいものね。出会ったところで意思疎通が可能かどうか。それに仲良くなる時間はなさそうだし」

 

「そうだな、残念だが …… 」

 

「ディー、いい考えがあるわ。ワタシが、全周波数のシグナルで地球の情報を、全方位に送信してみるわ。もし、高度な文明を持つ知的生命体がいたらなにか反応があるかもしれないから」

 

「どうかな …… いままで返事をよこしたことがなかったのに?」

 

「いいのよ、何もしないよりはいいでしょ?最後になるなら」

 

「 …… そうだな、たしかに」

 

 メイティの言う通り最後になると思えばそれもいいかと思った。

 

 この状況になっても、私とメイティには死の恐怖はほとんどない。

 メイティに関しては、量子カオス型人工頭脳でありふねの中枢的存在。

 基本人格はあるが人間と同等レベルの感情までは持ち合わせてはいない。

 それがこれまでの長い時間を上手く付き合えた理由だと思っている。

 

 私は、頭部にはすべての記憶と知覚機能を移植したニューロ有機体である義脳ぎのうが格納されている。義脳は人間とほぼ同じだが身体ボディは違う。

 義脳以外の部分はすべて人工的身体ドロイドボディと複雑な神経回路でつながれている。私はかつて地球では〈D‐MENディーマン〉と呼ばれていた。メイティは私のことは“ディー”と呼んでいるがほんとの名前など私にはどうでもいいことだった。

 生命維持は義脳だけですむので環境や設備に負担がかからない、私は恒星間航行などの長久的なミッションにとっては理想的な形態だった。

 メイティの定期的な点検メンテナンスにより長寿が可能になったこともその一つだ。

 

 だがそのおかげで失ったものある。


 人類の有人恒星間航行がはじまったころ、私は宇宙飛行士の過酷な訓練の途中で事故に遭い、脊髄の運動機能が完全に破壊され日常生活を送ることは一生不可能な身体からだになった。そして婚約者だった恋人も私のもとを離れていった。

 ただし、いまはもう婚約者の記憶はぼんやりとしたものでしかない。


 BMIサイバー技術によって生まれ変わった私は、地球政府の国際宇宙開発機構が打ち立てた深宇宙探査計画のミッションに自ら進んで志願し、長いリハビリと過酷な訓練を乗り越えた。そんな中で私の存在を知ったメイティは、私をミッションのパートナーに推薦してくれた。そしていろんな条件で探査艇のクルーとして私が適任だと国際宇宙開発機構に推薦し、こうしてクルーになることができた。


 その当時からそしていまもメイティは私を支えてくれていた。

 

 私は生きられる限り宇宙の深淵に行きたかった。人類が知りえない世界を知りたいと思った。私は恐怖や寂しさの感情もよりも今ここにいる喜びが大きかった。いまこうして航行しているのはメイティのおかげでもあった。

 

 いろんな考えにふけったあと、私たちはまた司令室コンソールに戻った。

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