第八話 

「「いってきまーす」」


 次の日の朝、僕と椿はお互い揃って家を出る。これは部活で決められたことだからとかそういう以前の話だ。僕と椿は普段から登下校を共にしている。まあ兄妹で学校に登校するなんて滅多に見られない。でも僕たちは兄妹の中でも、トップレベルの仲の良さだということは自負している。


 椿が家の扉をしっかりと決めてから一緒に歩き始める。


「あ、そういえば今朝はなんで外なんかに出てたの?」


 僕は気になったことを聞いてみる。朝、玄関の扉が開く音で僕は目が覚めた。まだ開ききっていない目を頑張って開いて玄関まで行くと、椿の靴がなかったのだ。それからまた僕は二度寝をした。そして時間になると椿が起こしてくれるという毎朝のルーティーンだ。


 椿は少し考えてから口を開く。


「ちょっとランニングをと思っただけだわ。別に他意はないからそんなに心配しなくて大丈夫よ」


 椿はそれだけ言うと、口を閉ざしてしまった。まあ椿がそう言うのだから気にしなくてもいいのだろう。


 それから僕たちはお互い話すこともなく、学校までの道のりを歩いて行った。無言の時間でも僕たちの間に気まずさというものはない。むしろどこか心地いいまである。そんな余韻に浸りながらゆっくりと歩みを進めて行った。



★★★



 昇降口につくと、一旦お別れだ。椿は一年生だから僕たち二年生とは別の場所に下駄箱がある。 


 僕は自分の下駄箱に行き、上履きを取るために扉を開ける。


バサッ


「え?」


 扉を開くとまた何かが落ちてきた。あたりに散らばっているのは数枚の紙。なぜか全部裏向きに落ちてしまっていた。


 僕はそれを一枚拾い上げてみる。


「!?うそ、これは僕の写真?」


 そう、そこに写っていたのは僕が登校している時と思われる写真。他のも拾って見てみると、僕が家で着替えている時の写真、僕が授業中に寝ている時の写真などが数枚あった。


 僕は恐ろしくなってその場で立ち尽くしてしまった。


「おっはよ〜!桜玖、どうしたの?そんなところで立ち止まってさ〜」


 ちょうど背後からあいりの声がした。今度は僕は隠さずに全てを話すことにした。


「これ、すごいね。ここまでするのは流石に異常だと思うよ。なんか危ないような気がする」


 いつも以上な真剣な表情を見せるあいり。こんなあいりを見たのは初めてだった。いつも元気で少しふざけた感じがデフォルトだったから、こうやって真剣になっている表情は今まであまり見たことがなかった。 


そこであいりが「あっ」と何かに気がついたような声を上げる。


「ねぇ、桜玖。まだ何か入ってるみたいだよ」


 そう言ってあいりの見ている方向は僕の下駄箱。僕はその視線の先を見てみると、そこにはピンクの封筒があった。僕はそれを恐る恐る手に取ってみる。


「中、開けて見て」


 僕はコクリと無言で頷く。


「!?」


「え!これは...」


 中を開けると、一枚の手紙が入っていた。その内容は



『いつもあなたのことを見ている。もうどこにも逃さない。どこまでもどこまでも追いかけて、あなたを私のものにする。それこそ地獄の果てまでも追って』



 字はこの前と同じ、赤黒い色をしている。それに所々掠れていた。


「こ、これはどうすれば...」


 僕が頭を抱えて悩んでいると、あいりが背中をさすってくれる。


「そんなに落ち込まないで。ちゃんとみんなで考えようよ!何かきっと答えが見つかると思うから!だからそんな顔をしないで...」


 あいりは泣きそうな表情で僕を見つめている。


 そうだ、ここで僕が挫けちゃいけない。あいりにこんな顔させちゃいけないんだ!少なくとも僕は何があっても笑っていないと、他の人が心配する!


 僕は無理矢理笑みを浮かべる。


「うん、ありがとう。あいりのおかげで気持ちが楽になったよ!それじゃあ教室に行こっか」


 コクリと小さくあいりが頷く。


果たして、僕はこの先笑っていられるのか。それを知る者は、ここには誰もいない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る