第七話 

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放課後


 僕たち文芸部員全員、部室に集まっていた。


 誰も言葉を発することなくただ無言の時間だけが過ぎてゆく。


 僕は黙って周囲を見回してみる。椿は腕を組んで目を瞑っている。まるで瞑想でもしているようだ。あいりは何が何だかわからないと言った表情で、あたりをキョロキョロと見回している。美桜先輩と雫はこれから何について話すか分かるからなのか、お互いの顔を見合わせて頷き合っている。


「そろそろ話させていただきますわ。今日はみなさんで考えて欲しいことがありますの。まずはこれをみて欲しいのですわ」


 美桜先輩はホワイトボードに僕がもらった手紙をマグネットで貼ってみんなに見えるようにする。


 各自、ホワイトボードに貼られた手紙を見ている。反応も人それぞれだった。椿は眉間に皺が寄り、とても気難しそうな顔をしている。あいりはというと、口をぽっかり開けて放心状態といった感じだ。雫と美桜先輩はあらかじめ見ていたから反応はそんなには見られなかった。だが、美桜先輩は口元をキュッと引き結んで、硬い表情をしていた。


「みなさん、目は通してくださいましたか?今朝、桜玖さんの下駄箱にこの手紙が入っていたそうなのです。見てわかる通り、この手紙を書いた主はとても正気とは思えませんわ。そこで、この手紙の送り主が桜玖さんに、何をしてくるかわかりません。もしかしたら危険なことをしでかす可能性もありますわ。このことについて、何か意見のある方はいらっしゃいませんか?」


 先輩がそう問いかけると、真っ先に椿が手を挙げた。


「椿さん、どうぞ」


 椿は指名されると、素早く椅子から立ち上がった。


「今の現状で、思いつくことは一つしかありません。兄さんを、桜玖先輩をなるべく一人にしないということです。家や登下校なら私がいます。ですが、他の時間帯はどうしても私と離れてしまいます」


 そう言って椿はみんなの顔を順に見ていく。


「あ、それなら私は同じクラスだから授業中とかは一緒にいれるよ!なんなら昼も一緒にいられるよ!」


 椿の言葉を引き継いだのはあいりだった。あいりは場の空気を少しでも明るくしようと気丈に振る舞おうとしているように見えた。


 実際はどうなのかはわからない。


「そうですわね、解決策としては誰かが一緒にいた方がいいのでしょう。うん、その案を採用しますわ。放課後は部活がありますわ。なので放課後に関しては問題はないでしょう。登下校と家は椿さんに任せて、授業中はあいりさんに任せましょう。いいですわね?雫さん、桜玖さん」


「ん、それで大丈夫」


 雫はコクリと小さく頷く。


「はい、僕もそれで大丈夫です。みんなには迷惑をかけるかもしれないけど、協力してもらえればと思います」


 僕がそう言うと、みんなは一斉にため息を吐いた。


「なぁに、馬鹿なことをおっしゃっているのですか?今こそ文芸部が一致団結する場面ではないですか!」


 胸を精一杯張りながら、声を大にして言う美桜先輩。


「そうだよ、桜玖!困った時はお互い様、今は桜玖が困っているんだから当然助かるよ!」


 机に半分乗り出しながら力説するあいり。


「ん、こういう時は頼るのも大事」


 一言だけ優しい言葉をかけてくれる雫。


「兄さんはもっと人を頼ることを知って欲しいものだわ。だって、兄さん一人では大抵のことは解決できないんだもの」


 フンッ、と言ってそっぽを向いてしまう椿。


 僕はみんなの言葉を聞いて、少しうるうるとしてしまった。


「みんな、本当にありがとう。僕この部活に入ってよかったよ!あと、椿。最後の一言余計だからね」


 ドッとみんなから笑いが巻き起こる。


 そう、僕はこういう日常がずっと欲しかったのだ。いつまでもこうやってみんなと過ごせる日常を。


 僕はみんなの笑う姿を見ながらそんなことを考えていた。


 だが、この日常を壊す者がすぐそこまで近づいていることを、僕たちはまだ知らなかった。


 その時、誰かが笑みを浮かべた。この空間ではとても異質な残虐な笑みを。


『...』


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