第六話 

文字数について質問に答えてくださった方、ありがとうございます。

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「あー、結構時間たっちゃってるな」


 僕は現在、美桜先輩に手紙のことを相談するために弁当を片手に校舎内を駆け回っている。


 昼休みが始まった時よりは、校内の人が少なくなっていた。この時間帯になってくると、和気藹々と中庭で昼食を取るもの、食堂でダラダラと話しながら食べるものなど、居場所を固定してしまっている人が多い。そもそも弁当を持ってきているから、教室から一歩も出ないという人もいる。それは本来の僕のことを言っているのだけれど、多分他にもいるはずだ。


 僕は校舎内を駆け回りながら考える。


「先輩の教室にはいなかったし、校舎内は一通り探したかな。あと探してないとすると屋上と中庭と校庭だけど」


 考えをまとめるためにぶつぶつと独り言を言いながら駆ける。みんなもないだろうか、ゲームをしていて熱くなってくると独り言を言ってしまうこと、勉強に集中しすぎて思わず考えていることが口から漏れていること。それらは自分の考えを口に出して、より考えを明確にしているのではと僕は考えている。だから周りに人がいなかったり作業をするときとかは、結構独り言を言うことが多い。決して喋り足りないとか、ぼっちだからとかそういうことではないので勘違いはしないように。


 とりあえずそんなことは今置いといて。


「選択肢は三つあるけどどうするべきか」


 僕は一旦止まってから考える。


「昼休みに校庭に行くのは運動をしたい人くらいだ。美桜先輩は多分性格的にはないと思うから校庭は却下。そうするとあと二つ。この二つに関してはもはやどっちでもあり得る。でもああ見えて一人が多い先輩のことだから『一人でいるのにガヤガヤとするところに誰が行きたいと思うの、却下ですわ!』とか言って中庭は無さそう。でもな〜、今一階にいるから中庭の方が近いし」


 僕は「うーん」と唸りながら数秒考えた結果。


「そうだ、中庭に行こう」


と、決めた。


 善は急げ。僕は中庭に向かって駆け出した。


 数十秒後には中庭に着き、美桜先輩を探す。走り回って隅々まで探したが、結局見つからなかった。


「あぁ、最初から屋上に行けばよかった」


 僕はそれから一階から四階までの階段をダッシュで駆け上がり、屋上へと続く扉を勢いよく開け放つ。


「はぁ、はぁ、はぁ。やっと見つけた」


 扉を開けるとそこには、木のベンチに座って優雅に水筒の水を飲んでいる美桜先輩がいた。


 美桜先輩は器用に首だけこちらに向け、水筒の水を飲みながら目を見開いている。水筒を自分の横に置いてから僕のいる方に体も向ける。


「どうしまして?そんな慌てて何か私に御用でも?」


 美桜先輩は少し左にずれて、隣をぽんぽんと叩く。ここに座れということだろう。


 僕は素直にそれに従って隣に腰掛ける。


「そんなに焦らなくてもよくってよ。落ち着いてからゆっくりと話してくださいまし」


 僕はゆっくりと深呼吸をして息を整える。


「先輩に相談したいことがあって。まずはこれを見てはもらえませんか?」


 僕はポケットに入っていた手紙を取り出して先輩に手渡す。


「これは?」


「とりあえず見てみてください。そのことで先輩には相談したくて」


 先輩黙って手紙を開く。


「これは!?この手紙にはいつ気がつきましたの?」


「今朝です。たまたま早くきて、下駄箱を開けてみたらそれが...」


「他に相談した人は?」


「雫に最初に相談しに行きました。ですが雫もこれは私以外にも相談した方がいいと言っていたので、先輩のところに来ました」


「なるほど、そういうことでしたのね」


 先輩は唸りながら手紙を見つめている。僕はこういう周りの人のことも、自分のことのように全力で悩んでくれる先輩が好きだ。もちろん友達として好きという意味だけど。


 先輩は何やらぶつぶつと言っているけれど、はっきりとは聞こえない。途切れ途切れに、『これなら.....見つかる....』みたいな感じで聞こえた。


 それから数秒してから勢いよくこちらを向いた。その表情はとても晴れやかで、見ているこちらも思わず顔が綻んでしまうほどだ。


「桜玖さん、放課後の部活で皆さんに相談してみては?現状私たちだけでは解決策は見つかりませんわ。それこそいかだで世界一周をするのと同じくらいの難易度ですわ。それなら部活動のメンバーみんなに聞いてみたら、何かいい案が出るかもしれません。どうでしょう?」


「皆さんが良ければ是非そうしたいです!」


 僕はノータイムでそれに答えた。もはや自分一人でどうこうできる問題ではないと思ったからだ。


「それじゃあこの手紙は桜玖さんに返しますわね。私も私でできることをやってみますわ。あまり期待はしないでくださいまし」


 そう言って先輩は立ち上がり、自分の弁当と水筒を持って屋上を後にした。


 気がつけば周りに他の生徒は誰一人としておらず、六月だとというのに肌寒い風が辺りを駆け巡っていた。


 僕もそろそろ教室に向かおうと立ち上がると、学校中にチャイムの音が鳴り響いた。


 僕の耳にはそれがとても不気味な不協和音のように聞こえた。




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明日は午後投稿します


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