第五話
チャイムが鳴った。そう、昼休みを告げるチャイムだ。
僕は弁当を片手に目的地へ急ぐため、早歩きで教室を後にする。その途中、あいりが何やら言っていたような気がしたが、振り返ることもなく教室を後にした。
昼休みの校内は朝とは違い、ガヤガヤとしていた。友達を数人引き連れて食堂に向かうもの、購買に昼ごはんを買いに行くために廊下を走っているもの、中庭で優雅に昼食を取ろうと移動しているもの。僕はそれら全てに該当しない。
教室を出てから数分して、目的地に到着した。目の前にある扉を横に引く形で開ける。すると、中から紙の匂いがブワッと鼻腔内を突き抜けるように広がった。
僕は部屋の中へと一歩踏み出して辺りを見回す。右を見れば本、左を見れば本、前を見ても本。そう、みんなももうわかったと思うが僕は今図書室に来ている。目的はここにいる人に相談をするためだ。
僕は置いてある本たちには目も暮れず、カウンターへと一直線に向かう。案の定、そこに目的の人物はいた。
「雫、今いいかな?ちょっと相談したいことがあるんだけど...」
雫は読んでいた本をパタンと静かに閉じてからこちらにゆっくりと顔を向ける。
「ん、いいよ。何かあったの?」
雫は眠たげな表情で僕を見てくるが、これがデフォルトなので気にしないでおく。
僕は持っていた弁当をカウンターにある机の上に置き、椅子を引いて静かに隣に座る。
「これを見て欲しいんだけど」
僕はそう言って自分のポケットから今朝発見した手紙を出し、静かに手渡す。
雫はそれを見て一瞬目が見開いたが、何事もなかったかのように手紙に目を通し始めた。
数秒してから雫は手紙から顔を上げた。
「これはいつ貰ったもの?」
「今朝だよ、たまたま早く学校に着いて下駄箱を開けてみたらそれが入ってたんだよ」
「じゃあこれを送ってくる人に心当たりは?」
「あるわけないよ。少なくとも僕の周りにいる人で、こんなもの送る人に心当たりはないかな」
それから雫は顎に手を当てて、何かを考えるような仕草をして黙り込んでしまった。
僕はやることがなくなったので、弁当を開いて食べ始めた。僕がちょうど2個目の卵焼きを口に入れたときに雫が言葉を発した。
「考えてみたけど分からなかった。他の人にも相談するべき」
僕は慌てて卵焼きを飲み込んでから静かに問いかける。
「誰に相談するべきなのかな?」
「1番無難なのは美桜先輩だと思う。椿だと過剰に反応しそうだし、あいりだと頼りない」
「たしかに...」
雫の言っていることは間違いないと思う。あいりには悪いけど僕自身もそう思う。椿に関しては僕に関することだとすごい過剰反応するから、頼ったらどうなるか分からない。それならたしかに年上で頼れる美桜先輩に相談した方がいいのかもしれない。
僕は手早く弁当を片付けて、図書室を出る支度をする。
「ん、もう行くの?」
「うん、悪いけどこれから美桜先輩のところに行ってみようと思う。昼休み中になんとかこのことについては終わらせたいからさ」
雫は渋々と言った感じで頷いてくれた。
僕は弁当をまた片手に歩き出した。
一度図書室の扉の前まで来てから後ろを振り返る。
「雫、ありがと!なんだか相談する前よりも楽になった気がするよ」
「ん、またいつでも来て」
僕は大きく頷いてから図書室を後にした。
雫はその後、喜怒哀楽というものが抜け落ちた表情でただただじっと扉を見つめているのだった。
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