バチン!

 大きな音とともに、リビングの四隅に貼っていた紙の札が破れた。

「行ったな」

 穂村が耳に手を当てた。

 絵麻の意識は、再びリビングに戻っていた。

「おじさま」梅子が言った。「あの黒いものは……」

「姿なきもの」穂村が答えた。

 梅子の体がこわばった。

「姿なき、もの……」絵麻がつぶやく。

「ほんとはもーっと長ったらしい名前さ。さっきのはスカベンジャーだな。こわーいやつらだけど、絵麻ちゃんが関わることはもうないから、心配しなくても大丈夫。あ、でも、もしなんかあったら、おじさん、世界の反対側からでもすーぐ飛んできてあげるから――」

「あーはいはい。わかったから、それ以上近寄らないでください」

 梅子がにじり寄ってくる穂村を手で制した。

「あの。ありがとうございました、穂村さん」

「んふふふふ」穂村が微笑んだ。「困ったことがあったら、いーつでも言いな」

「はい」

「んで、うーめこちゃあん。今回の報酬なんだけど――」

「おじさま!」

「冗談だって」穂村は両手を掲げた。「絵麻ちゃんからのお礼なんて、おーれのポケットには大きすぎらぁ」

「ああもう。ほんとごめん、絵麻ちゃん」梅子が手を合わせる。「気にしなくていいから」

 絵麻はそんなふたりを見て、微笑んだ。

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