どうして今まで忘れていたのか、不思議だった。先週の木曜日、絵麻は、学級委員の仕事がある梅子を残し、ひとりで学校を出た。途中、道路に何かが横たわっているのを見つけた。ぐにゃりとした茶色い物体。それは猫の死体だった。車にひかれたみたいだ。飼い猫だったのだろう、鈴のついた首輪をしている。絵麻は猫の死体のそばに、しゃがみこんだ。

 チリリン。

 気付くと、梅子の家のリビングだった。

「やっぱり」梅子が言った。「絵麻ちゃん、その猫のこと、可哀そうだと思ったんだね」

 絵麻は首をかしげた。

「あのね。死んですぐの動物に――特にそれまで関わりのなかった動物に、心を近づけすぎると、ついてくることがあるの」

「ついてくる……」

「うん。死んだあとの動物が、その人についてくる。でも、これで原因がわかった。たぶんもう大丈夫。ちゃんと供養を――」

 チリリン。

 鈴の音に、梅子の言葉は遮られた。

 チリリン。チリリン。

 リビングのそこかしこから、鈴の音が聞こえてくる。その音は、ぐるぐると三人を取り囲むようにして、鳴り続けた。

「なんで」梅子は絵麻を抱き寄せた。「このくらいの『イ』なら、もう出てこないはずなのに」

「いんや」穂村がゆっくりと首を振った。「原因は猫じゃないぜぇ、梅子」

「猫じゃない?」

「絵麻ちゃん」穂村はじっと絵麻を見つめた。「その猫、それから、どうしたのかな?」

 梅子の腕の中で、絵麻は無言で穂村を見つめ返した。

 鈴の音は、これまでにないくらい大きな音で響き渡っている。

「覚えてないかな」じりじりと、穂村は絵麻の方へにじり寄った。「絵麻ちゃん。その猫の死体、君はそれから、どうしたんだい?」

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