「んあしーもとんにー。からみいーつくー。んあかいーんなみうをーけえーえってえー」

 梅子の家のダイニングキッチンでティーポットにお湯を注ぎながら、穂村は絵麻の知らない歌を口ずさんでいた。

 絵麻はその調子っぱずれな歌声を、リビングのソファに座ってぼんやりと聴いていた。

「おじさま、準備できました」

 部屋着に着替えて、二階から下りてきた梅子が顔を覗かせると、穂村が答えた。

「はーい。おじさまはここですよー」

「見ればわかります」穂村を一瞥し、梅子は絵麻の隣に座ると、絵麻の手を握った。

 穂村がティーポットとティーカップをのせたトレイを持ってきて、リビングのテーブルの上に置いた。ティーカップに紅茶を注ぎ、絵麻と梅子に手渡す。

「いい匂い」絵麻がカップに口をつけた。「おいしい」

 梅子もふた口ほど飲んで、テーブルにカップを置いた。

「絵麻ちゃん」穂村が言った。「これからおじさんの言う言葉を真似して言ってくれっかな」

「はい」

「じゃあ、いくよ」

 絵麻はうなずいた。

「私の名前は」

「私の名前は」

「水島絵麻」

「水島絵麻」

 穂村は、絵麻にうなずいてみせた。

「先週の木曜日」

「先週の木曜日」

「私はひとりで下校した」

「私はひとりで下校した」

「私は歩いた」

「私は歩いた」

 絵麻のまぶたが下りてきて、ゆらゆらと体が揺れ始めた。

「私は見つけた」

「私は見つけた」

「見つけた」

「見つけた」

「見つけた」

「見つけた」

「何を」

「何を」

「何を」

「猫を」

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