イケメン勇者様から「可愛い」って言われちゃいましたたた

「あの、倒されちゃう運命なのは分かってるんですけど、これを食べてからにしてもらってもいいですか? 初めて、ちゃんとそれっぽいパンケーキが出来たので……」


 小麦粉とかないから、このパンケーキもどきを作るのにも苦労したんだよね。うん、最後の晩餐のメニューにふさわしい。

 どうせ倒されちゃう運命なら、せめてこれを食べてからにしたい。そんなわたしの言葉を聞いて、勇者様たちはまたドン引きしているみたいだった。


 えー、魔王にもちょっとくらい人権があってもいいのでは!? 五分もあればペロリと食べられちゃうんだから、それくらい待っててくれてもいいのにな。

 ちょとせつなくなってるわたしに、金髪イケメン勇者が恐る恐る声をかけてきた。


「……一応確認しておきたいんだが、お前、魔王なんだよな?」

「はい、そうですね」

「…………平凡な村娘にしか見えないけど、魔王なんだよな?」

「そうですねぇ……、一応は。あっ、大丈夫ですよ! わたしが魔王なので、わたしを倒せばモンスターも一緒に消滅するらしいです! この子たちとってもいい子なので消えちゃうのはちょっと悲しいですけど……、勇者様のお仕事はわたしを倒すことでちゃんと成功になります!」


 安心してもらおうと思って言ったのに、勇者様たちはますます「えー?」みたいな顔をしてる。せっかくの美男美女ぞろいなのにドン引き顔しか見れないのって寂しすぎない?


 わたしのことをジーッと見た金髪勇者様は、仲間たちに対して、予想外のことを言い出した。


「なぁ、お前たちはちょっとドアの外に出ててくれねぇか? コイツとサシで話してみたい」

「えぇっ!?」


 そんなこと、他の仲間は絶対許可しないのでは!? だって、魔王と二人きりにするって普通に考えたら超危険だし!


 でも……、


「あ、そう? じゃあワタシたちは外にいるねっ。そのまま倒してくれてもいいよっ」

「いえ、倒すときには呼んでほしいわね。上級魔法をぶちかますチャンスだし」

「オレ、この戦いが終わったら故郷で結婚することになってるんで、なるはやで話つけてくださいねー」


 金髪勇者様の仲間たちは案外アッサリと部屋を出て行っちゃった。え、マジで? もし、わたしが超極悪非道な魔王で、二人きりになった途端に勇者様を惨殺しちゃう系女子だったらどうするつもりだったんだろ!?


 無駄にアワアワしているわたしに、勇者様が一歩一歩近づいてくる。えっ、どうしよう! すごく綺麗な顔が近づいてくる! 顔がいいしか言えない! 【急募】語彙力って感じ!?


 ドキドキしているわたしの両肩を、勇者様がガッシリ掴んできた。うぇぇぇ、こんな風に男の子に触られたのなんて初めてなんですけどっ。


「なぁ、お前……」

「は、はひっ」

「魔王にこんなこと頼むのもおかしな話なんだけどさ、もうちっと魔王らしくしてくれねぇか?」

「……へっ?」

「さっきのアイツらの反応、見ただろ? どいつもこいつも、魔王討伐なんて大してやる気ねぇんだよ。可愛いってチヤホヤされたいだけの白魔導士と、魔法ぶちかましてスッキリしたいだけの黒魔導士と、故郷で結婚することしか考えてねぇ弓矢使いなんだ。ただでさえそんななのに、お前みたいなマヌケな魔王じゃあ本当に……、締まりが無さすぎだろーが!」

「は、はぁ……」


 なんかわたし、マヌケって言われたような気がするんだけど、こんなイケメンにマヌケって言われるならなんかもう逆に「アリガトウゴザイマス!!!!」って言いたくなってきちゃうよね。


「そ、それにさ……」

「ま、まだ何か?」

「……お前みたいな、ただの可愛い女の子を斬るなんて、俺には出来ない」

「へっ……? ぇ、ぅ、え、ええええぇええぇ!?」


 可愛いって言いました!? わたしのことを!? 可愛いって!? えっ、このパツキンイケメンの目は節穴なのかな!? それとも、この世界ってそういう美意識なのかな!? 平安時代にはあのナスビ顔が美形だったみたいだし、そういうこと!?


「顔に似合わねぇ奇声を発してんじゃねぇよ! また三日後に来るからな! それまでに、もっと魔王らしくなっとけよ! じゃあな!」


 大混乱のわたしを睨みつけて捨て台詞を吐いた勇者様は、真っ赤な顔でそのまま立ち去って行ったのでした。

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