パンケーキもどきを焼いていたらイケメン勇者様がやって来ました
「おぉ! パンケーキっぽいものが出来た!」
わたしが喜ぶと、周りにいたミイラとか幽霊とか蝙蝠っぽいモンスターたちも拍手してくれる。うんうん、これにクリームと果物を添えたら美味しいのでは!?
──魔王になってから、一年くらいが経ったかな。
わたしは、とても平和に過ごしている。はじめはモンスターたちも怖いなって思ってたんだけど、一緒に暮らしてると愛着が湧いてくるものだよね。みんな懐いてくれて可愛いし、いいつけを守るいい子だし。
鏡に映るわたしの姿は、前のわたしのまま。だから、地味女子らしい、自分に合った魔王ライフを送ればいいかぁ……ってまったり過ごすことにしてるんだ。
魔王の城はめちゃくちゃ広い森の中にあるみたいで、最上階から見渡しても人間っぽいものが暮らしている場所とかは何も見えない。
この一年、勇者っぽいのも来ていないし、話し相手は唸り声だけしか出せないモンスターたちだから、ちょっと寂しいかな。
家族とか友達のことを思い出すと、泣いちゃったりすることもある。そんなとき、鳥っぽいモンスターが羽でよしよししてくれるんだよね。卵も分けてくれるし、すごく優しい。
そう、モンスターって、魔王の性質や指示によって性格を変えるらしいんだけど、うちの子たちはわたしに似てまったりしている。
森の外に出ちゃダメ、人間とか動物を襲いに行っちゃダメ、もし勇者たちが来たら攻撃したりしないでここまで案内してね、っていうわたしの命令をちゃんと聞いてくれているから、ほんとのんびりと平和な毎日だよ。
「クリームっぽいものと、みんなが採ってきてくれた木の実とか果物を添えると、ほら~可愛い! カフェのパンケーキっぽい! みんなも一緒に食べられればいいのにねぇ……、モンスターはごはんを食べないっていうのが残念だなぁ」
なんてことをミイラたちに語っていたとき、バターン!とドアが開いた。うちの子たちは、そんな開け方はしない。ということは、とうとうこの最上階まで勇者が来たのかな?
そう思って振り返ると……、わぁ! 金髪の超絶イケメンがいる! 剣を持ってるし、勇者かな? かっこいい!
黒魔導士っぽいお姉さんもセクシーキュートだし、白魔導士っぽい女の子もアイドルみたいに可愛いし、弓矢持ってる男の子もワンコ系男子って感じの可愛めイケメン!
「わっ、わわわっ、も、もしかして勇者様たちですか!? おぉぉ、とうとう来ちゃった! えっ、どうしよう、どうしよう!」
芸能人を目の前にしたらこんな気持ちなのかなって感じで、わたしのテンションは変な方向にねじれ上がっていく。やばい、やばい、みんな顔がいい! 男女ともに顔がいいよ! 興奮する!
わたし、RPGにはあんまり縁が無かったけど、アイドル育成系のソシャゲには大ハマリしていたから、なんか、こう、ガチャ十連で奇跡的にSSR四枚引きしたみたいなテンションになっちゃう!
勇者様御一行は、わたしを見てドン引きしている。そうだよね、急に目の前でハァハァしてたらキモいよね! ですよね!
「えーと、えーと……、あっ、一緒に食べます!?」
混乱したわたしは、思わずパンケーキもどきが載ったお皿を差し出した。でも……、
「ふ、ふざけるな! 俺たちは、お前を倒しに来たんだ!」
金髪勇者様から剣を向けられちゃった。
で、ですよねー……。
あっ、でも、言葉は通じてるみたいで、それだけはよかったなぁ……、なんて、わたしはのんきに考えたのでした。
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