魔王に転生してまったり生きてたら勇者様に叱られました

羽鳥くらら

天使のうっかりミスで魔王に転生することになりました

「いや、ほんっと、ごめんなさいぃぃ」


 目の前にいる天使がものすごい勢いで泣いてるのを見ながら、わたしはわたしでどうしたらいいのか分からなくて泣きたくなってくる。


 だって、この状況をどうしろと……?

 今日から大学生だったわたしは、ドキドキワクワクしながらの通学中に超絶かわいい子猫と出会った。しゃがみこんで子猫ちゃんとおはなししてたら、突然めちゃくちゃ頭が痛くなって意識を失って──、目覚めた今、よく分かんない宇宙空間みたいなところで、背中から羽を生やした女の子から理解が追い付かない話をされてる。


 この天使曰く、わたしは死んじゃったらしい。

 子猫を見つけたのはマンションの側だったんだけど、上から植木鉢が落ちてきて、わたしの頭に直撃しちゃったんだって。ついてないなぁ……。

 パパとママ、きっとすごく悲しんでると思う。親不孝な娘でごめんね、パパ、ママ。


 しかも、本当はわたしは違う世界で公爵令嬢(それも絶世の美女だって!)に生まれ変わって赤ちゃんのときから平和に幸せに暮らすはずだったらしいんだけど、この天使のうっかりミスで、また違う世界の魔王に今の姿のまま転生することになっちゃったらしくて……。

 えぇ……、そんなの嫌なんですけど。


「その、魔王になっちゃうのキャンセルしたりできないんですか?」

「ぴぃ! キャンセルしちゃったら、あなたの魂が消滅してしまいますぅぅ」

「別にいいですよ……、だって、元のわたしに生き返ったりできないんでしょ? 死んじゃったものはしょうがないし、無理に転生なんかしなくても……」

「ぴぃぃ! ダメですよぅ! 濁りの少ない魂の錬成ってめちゃくちゃ大変なんです! あなたみたいに純粋な魂は貴重なんです! リサイクル大事! 資源は大切に!」


 ぴぃぴぃ泣き喚いてる天使は可哀想だけど、言ってる内容はけっこう自分勝手だなぁって思っちゃうわたしは心が狭いのかなぁ……。

 でも、可哀想なのもホントだし、この天使って可愛いから強く言い返したりも出来ないし。わたし、可愛いものに弱いもん。可愛いは正義。


「うーん……、わたしとチェンジされちゃったっていう、もともと魔王になるはずだった人も純粋な魂だったんです?」

「はい! 純粋にヤバイ感じの人でした! すっごく無垢に凶悪行為を繰り返すような……、文句ナシに魔王向きの魂でしたねぇ」

「えー……、そんな人の代わりになるのはやっぱり嫌だなぁ。ていうか、そもそもなんで魔王の出現を天使が手助けしてるんです!? 魔王って悪い人でしょ? いらないじゃないですか!」

「ぴぃ! そういうわけにはいかないんですぅ!」


 天使は羽をパタパタさせながら、涙目で訴えてきた。


「その世界のその王国では、なんか色々あって国民の不満が溜まってくると魔王召喚の儀式を行って、我々に多大な供物を捧げてくれるんですよぅ。悪いことが起きていたのは全部魔王のせいってことにしたいみたいで……、まぁちょっとモヤッとはするんですけどお得意様なので無視は出来なくてぇぇ」

「えぇっ!? やだぁ、それって生贄みたいな感じじゃないですか! 嫌です、無理です、転生キャンセルしてください! それにわたし、魔王っぽいこととか出来ないと思いますし!」

「魔王らしく振る舞わなくても大丈夫ですぅ! サクッと勇者に倒されていただければ大丈夫なのでぇぇ」

「余計にイヤ! わたし、痛いの怖いもん! 無理無理無理無理」


 無理無理って言いながら手を振ってると、そんなわたしの両手を天使がガシッと握ってきた。涙目の顔がドアップになって……うん、可愛い。


「勇者たちとの戦闘時にはやられても痛みを感じないオプションをつけておきます! 魔王としての短い生を終えた後には、今度こそ超リッチで勝ち組なお嬢様ライフをお届けしますからぁ! お願いしますぅぅ!」


 手厚いサポートをつけて懇願してくる天使は、ちょっとイラッとするけどやっぱり可愛くて、もともと流されやすいわたしは、とうとう頷いちゃったのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る