第8話 繋がらなくて・・・

「電波の届かない所におられるか……」



速渡と約束してから次のデートをいつも速渡からの連絡で決行するのに連絡がない。


メールをしても返信がない。


心配になり連絡するものの良く耳にするアナウンスが携帯から聞こえる。


嫌いになった?


そういう理由ではないと私は確信していた。


お互いあの日は、何故か胸騒ぎがしていた事は事実だからだ。




「………………」




そんなある日の学校帰り ―――



いつも帰る海の前の道路から海を眺めている人影が目に止まる。


海の砂浜に佇む人影。


私は歩み寄る。




「あの……」



振り向く相手に私は目を疑った。




「速渡…!?」



「………………」



名前を呼ぶものの何か考えている様子が伺える。



「速渡……良かったぁ~……連絡つかないから心配……」


「……君……誰……?」


「えっ!?」




耳を疑った。




「速渡…? ……や、やだなぁ~、速渡、また、そうやって私の事からかっているんでしょう?」


「からかう? いいえ、初対面の人をからかうなんて、そんな事しないですよ。気、悪くしたなら謝ります。すみません」





初対面!?


違う私達は付き合ってて


恋人同士なのに……




そして、頭に包帯を巻いてあるのが分かる。





まさか



――― 記憶喪失 ―――





一番大切な記憶が思い出せないと聞いた事があるけど、それが本当なのかは分からない。





「…そうか…だから連絡つかなかったんだね…無理もないよね……」



私はポツリと呟くように言った。



「…あの……」


「ごめんなさい! 突然、声かけられて驚きましたよね?……私の…大切な人に…凄く良く似ていたから人違いだったみたいです。すみません!」




ここにはいれない。


速渡のはずだけど、本人が覚えていないなら仕方がないよね……



「そ、それじゃ」



私は走り去る。



「あのっ!」




呼び止められ振り返らず足を止める。



「君の名前……何?」

「…唯那……岬……唯那…」

「…岬…唯那…さん…。すみません…君は俺の事……」

「人違いだって言ったでしょう? だから気にしないでください」



私は走り去ろうとした。



グイッと腕を掴まれ、背後から抱きしめられた。



ドキン



「…君は…悲しい顔をしている……」



「………………」



振り返らせ顔をのぞき込む。



「…君は…俺の…何を知っているの?」

「…私は……あなたの……彼女なだけ……」



顔をあげる。



「……えっ?……彼女?」


「…うん…付き合ってて……だけど……無理に思い出さなくて良いから、急がないでゆっくりで良いから……」



「………………」



「…私…速渡の事…信じて待っているから……それじゃ…」




キスをされた。



ドキン



「君みたいな可愛い彼女が、俺にはいるんですね…必ず…思い出しますから……それまで悲しい思いさせてしまいますけど……」



私は首を左右に振った。



速渡は、抱きしめ、私も抱きしめ返した。




そこへ ―――――




「速渡っ!」

「母さんっ!」



私達は慌てて離れた。




「また、あなたは病院抜け出して!」

「だって病院暇だから」

「何かあったらどうするの?」

「何もないように気をつけるし!」

「病院戻るわよ!」



速渡の母親と私達は頭を下げる。



私は二人の後ろ姿を見つめる。




「速渡、今の子は?」

「俺の彼女だって言ってた」

「彼女?」

「ああ。俺、全然覚えてなくて…」

「名前は?」


「岬……唯那さんって……」

「そうね……お似合いのカップルだったわよ」

「えっ!? じゃあ……」

「二人は運命の赤い糸で結ばれている、お互いかけがえのない大切な人よ」

「そうなんだ……」





それっきり速渡とは会えないまま ―――


勿論、記憶が戻らない限り私達は逢う事は出来ないのだから ―――




「……速渡…」



私は速渡の事が気掛かりな中、私の学校に転入生が来た。




「悠木 速渡です」




ドキン



≪同姓同名?≫



だって私の前に現れたのは別の人。

眼鏡をかけて真面目そうな男の子だった。



「………………」



私はこの転入生の出現で更に辛い日々を送る事になるのだった。




ある日の放課後――――



用事で残っている私に悠木君が声を掛けてきた。



「岬さんって彼氏いるんですか?」

「えっ?」

「可愛いし彼氏いてもおかしくない容姿」

「……彼氏は……いるよ…でも…どうかな?」

「えっ?」


「彼とは連絡取れないし……会えないから……」

「遠距離なんですか?」

「……遠距離……というよりも…心は繋がっているはずなんだけど……現実は…」

「…岬さん…」




私は涙がこぼれそうになった。




私は心が折れそうだった。




――― ううん ―――




折れかけていたのかもしれない…………




「気にしないで!色々とあるんだ…信じて待つしかないから……」



私は、笑顔を見せ、居ても立ってもいられず席を外した。









































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