第5話戦争と戦争の間1

5月8日珊瑚海海戦は終わった。日本軍の大本営発表はとんでも無く盛った戦果が国民に報道された。これは、それ程問題ない。何故なら何処の国だって同じだから。史実では米軍もまるで勝利したかの様な報道をしていた。戦争等というものはそんな物なのだ。


僕達の祥鳳は一旦トラック島に寄り、艦橋の簡易修理を受けたが、そのまま呉の柱島に向かった。発令はされていないが、おそらくミッドウェー海戦に参加させられるのだろう。空母翔鶴、瑞鶴はおそらくミッドウェー海戦に参加できない。空母事態に全く損害がないものの、艦載機は2/3程度まで戦力が落ちた。未帰還機と機体の損耗が大きくて、搭乗員も機体も補充が間に合わないと思う。だが、僕達の祥鳳は艦橋を僅かに損傷を受けただけだ。それに魔法小隊の活躍も期待されるだろう。最も艦長をはじめ、航海長達が戦死したり重症を負ったので、人員補充は大変だろう。つくづく海老名少尉がいてくれて良かった。海老名少尉は祥鳳の操艦や航海航路策定ができたのだ。


トラック島で辞令を受け取った。僕と海老名は少尉から中尉へと昇進し、僕には艦長代理、海老名には航海長代理の辞令を受け取った。珊瑚海海戦での活躍が評価された。これも敵機来襲の報を知らせた事や、第五戦隊の直掩隊に恩を売ったのが大きかったのだろう。原少将はいたく感謝したのか、僕達への評価を随分いいものにしてくれた様だ。彼は正直ほうほうのていだったろうが、本土では無傷で米軍空母二隻を屠った英雄に祭り上げられているのだ。気分も良くなったのかもしれない。


「それにしても艦橋の人員補充がほとんどないのだなんて酷いですね?」


「全くだよ。昇進で全部誤魔化す気だ。呉まで大変だよ」


「そうです。操鑑できるのは私とトラック島で補充された平塚少尉だけですから…」


「一日十二時間勤務になるか?」


「いえ、私は航海の予定もたてなければならないので十五時間勤務でしょうか…」


海老名少尉の顔が歪む。それはそうだろう。いくら何でもブラック過ぎる。


「多分、呉の柱島で新艦長も始め、もう少し人員が補充されるよ。次はミッドウェーに行くと思うから」


「ミッドウェー? あんな島で何をするんですか? 戦略的な意味があるとは思えない」


「戦略的な意味は敵空母の撃破だよ。ミッドウェー島事態はおまけだ。正直、ミッドウェー島の攻略なんて必要がないと思う」


「不知火中尉の世界でもあったのですか? ミッドウェーでの戦いが?」


「ああ、盛大に負けた。一航艦は壊滅する。空母赤城、加賀、蒼龍、飛龍、空母四杯に艦載機を全部ね」


「加賀?」


「僕の世界では第一航空戦隊は空母赤城と加賀だったんだ」


「微妙に違うのですか?」


「パラレルワールドって言うんだ。そっくりだけど、少し違う異世界」


「しかし、一航艦が!? それでは戦争継続もできないんじゃ?」


「それが海軍は国民にも陸軍にも一航艦壊滅を伝えないで戦争を継続したんだ」


「そ、そんな事をしたら…」


「ああ、僕のいた世界の歴史ではソロモン海に浮かぶ島、ガダルカナル島でとんでも無い消耗戦に突入したよ。陸軍は一航艦を投入すれば直ぐに勝てると考えてたんだ」


「それで、そのガダルカナル島はどうなったんですか?」


ゴクリと海老名中尉が唾を飲み込む。


「戦死者3万人、多数の艦艇、航空機を失って、実質連合艦隊の航空部隊は壊滅したよ」


「そんな、海軍が国民や陸軍を騙いた上に、そんな敗戦をするなんて!」


「海軍と陸軍は仲が宜しくないし、国民や将兵の士気が下がると考えたのだろう」


「不知火中尉ならなんとかできるではないですか?」


「買い被りすぎだよ。僕の事はあまり信用されていない。僕は軍令部には後ろ盾がたくさんいるけど、連合艦隊ではもう一つ信用されていないんだ」


「でも珊瑚海海戦の様にやれば?」


「ああ、出来るだけやってみるさ」


海老名中尉の目は熱い。だが、僕はもう一つやる気が出ない。何故なら、例えミッドウェーで勝っても、この戦いに勝利は見えない。戦力差というより国力差が違い過ぎるからだ。山本五十六長官は短期決戦でハワイを攻略、米国との和平交渉に期待を寄せているのだろう。しかし、例えハワイを落としたからと言って、米国が和平を探るとは思えなかった。米軍は既にエセックス級空母の増産に入っている。米国はただ待っていれば、日本軍を打破できる戦力を確実に手に入れる事ができるのだ。ハワイを取られても、米西海岸はレーダー網と航空機による迎撃でなんとか凌ぐ事ができるだろう。英独間の戦い、バトルオブブリテンを見れば明らかだ。米軍を屈服させるには西海岸に上陸でもして米本土に殴りこんで半分位占領する気でやらなければ駄目だ。だが、日本にそんな戦力がある訳がない。日本は中国とも戦争を継続しているのだ。小国が二正面作戦、全くもって、愚の骨頂としか言いようがない。それに加えて日本軍は戦争継続に必要な油の主輸入先の米国と戦争をしている訳だ。戦略物資の調達先と戦争をするなんて考えられない。更に、日本の産業である繊維業の主輸出先は米国なのだ。報道はされていないんだろうけど、日本の経済は開戦でおそらく壊滅的ダメージを受けているだろう。経済的にもヤバい。


それにしても、日本人はハルノートを突き付けられて窮鼠猫を嚙むという状況だったというが、ホントにそうとは言えないと思う。中には米国に無理やり開戦させられたと主張する右側の人が前の世界にはいたが、そんな物、外交努力の不足としか言いようがない。交渉の為に故意に凶悪な要求を突きつける事は何処の国でも、いや、企業等でも当たり前の様に行われる事だ。米国が本気だったとは思えない。米国だって、油の輸出先の一つを失う訳だし、安価な繊維が輸入できなくなる。日本に比べれば被害は軽微だが、彼らだって、全く困らない訳ではないのだ。日本が辛抱強く、外交交渉すれば開戦は避けられたと思う。正直、米国はえ? マジで切れたの? これ位で? って思ったと思う。それ位短気な話だ。法的強制力のない文章相手にキレた結果がこれだ。十分に外交交渉した結果ならわかるが、日本人はあまりにも外交ベタ過ぎた。


「悪いけど、今日は自室で休むよ」


「ええ、英気を養って、ミッドウェーではお願いしますよ!」


「ホント買い被りは勘弁してくれよ」


そう言って、手を振りながら、僕は自室に戻った。自室に戻る途中、レイに合った。いや、絶対待ち伏せだよね? 艦橋の真下で会うなんて、普通ないだろう。レイ達の士官室と導線がない。


「ねぇ。昨日の戦いで小隊長頑張ったから、ご褒美をあげようと思うのだけれど」


「えっ?」


いや、またレイは普段のドSお嬢様モードに入っている様だ。あれだけ盛大にドM暴露したのに、良く厚顔無恥でドSの演技続けられるな。やっぱり脳が壊れているのだろうか?


「後で私の部屋に来て、従順な下僕にはご褒美の鞭をあげないとね」


「… いや、鞭はいらないかな」


「… 嘘つき、欲しがりの癖に」


いや、欲しがりは絶対レイの方だよね。でも、頬を赤く染めたレイはとても可愛らしい。これで変態じゃなければ、いやドSの方はむしろ欲しいんだけど…は!? 僕はドMだったのか? いや違う、なんちゃってMだ。決してレイの様な重度のドMじゃない。


レイは自室に来る様ドSお嬢様発言をして去ってしまったけど、残された僕は困った。


どうしよう? レイルートパスで良いよね?

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