第4話珊瑚海海戦4

レイがヨークタウン攻撃隊を撃破したおかげで、40分以上敵機の来襲が無かった。空母翔鶴と瑞鶴が攻撃隊を全て発艦させると、直掩機も発艦させていた。


僕は直掩隊発艦を見届けると、旗艦の原少将に電文で意見具申を行った。


『航空戦隊は前方のスコールの下に隠れたし』


僕の意見具申は原忠一少将に取り入れられた。史実では瑞鶴だけがスコールの下に逃げ込めたが、この世界では翔鶴、瑞鶴、祥鳳を始め、全艦隊がスコールの下に逃げ込めた。ヨークタウン攻撃隊の相手をしなくて良かった第五航空戦隊は冷静な判断ができる時間を得たのだ。僕は更に意見具申を行った。


『後続の攻撃隊接近の可能性高し、我が魔法小隊の電探情報に従い、直掩隊にて迎撃をされたし』


この後に続く攻撃隊はレキシントン攻撃隊21機の筈だ。僕の魔法小隊の戦闘機レイは既にかなりの戦闘を行い、魔力が低下している筈だ。擬人化兵器は魔力が低下すると火力も防御力も下がる。レベルが上がれば改善するが、レイは未だレベル5なのだ。レイにこれ以上負担をかけたくない。それに、第五航空戦隊の直掩隊にも活躍の場を与えないと…日本人の妬み嫉妬は怖いのだ。彼らにも武勲をたててもらわないと、悪目立ちしてしまう。


「それにしても味方の武勲まで計算するなんて」


「でも、そうしないと、妬み嫉妬は怖いよ」


「確かに先任の言う通りかもしれません」


「ああ、その辺は未来の日本人も同じだよ」


「なんともまあ……」


「三つ子の魂百までもってヤツと同じだよ。日本人は日本人なんだ。未来でもね」


「聞きたくない未来ですね」


僕は思わず苦笑いすると、海老名がニヤリと笑みを浮かべた。そして、レイ達に魔法通信を行う。


「レイ? 聞こえるか? ユキに第五航空戦隊の直掩隊を誘導してもらう。レイは帰還しろ」


「今頃私の心配してるの? そこまでして私の機嫌をとりたいのね? 必死なのね? どうせなら、跪き、手をついて、わたしに謝りなさい。 そうすれば許してあげるわ。どう? あなたならできるでしょう? さすが駄犬ね」


「いや! お前の身に何かあったらオレが嫌なんだよ!」


「……」


「お前のことが心配で、心配でたまらないんだよ!」


「そっ…そんな言葉でっ…言葉で責めないでっ…!?」


ええっ? 僕、責めてないよね? 僕、凄いレイの事心配してるだけだよ。


「ホント? ホントに私の事心配なの? 私も小隊長の事心配なのよ! もう、小隊長ったら私達お似合い過ぎるからだなんて! まるで、夫婦みたいだなんて! 帰還したらすぐにでも結婚しようだなんて! 恥ずかしい事言わないでよ!」


そこまで言ってないよね? レイはスイッチが入ると突然妄想少女になるんだね。可愛いけど…でも、レイ、ちょっと、現実捏造し過ぎだよね? 僕はレイが愛おしくなってきた。


「…僕っ…レイの事ずっと好きだったんだよ!…その…なかなか言う時がわかんなくて言えなかったけど…大好きだよ」


「ええ!? 私の事! 好きだなんて! あわわわわわわっわわ!? そんな急に、こ、告白なんて! そ、そんなに急に駄目よ! もう、き、今日の夜にもだなんてイケないわ!? 未だ早いわ!? ちょっと待って。小隊長! 落ち着いてください!」


いや、落ち着くべきはレイの方だよね? もしかしてこの子、頭のねじ何本かとんでる? いや、全部緩んでいるのかも? やはり、脳の整備をするべきだろうか? でも、治せる人いるのかな? 小学生からやりなおした方がいいよね?


「小隊長! わ、私、小隊長のペットになっていいんですよね? 小隊長が思ったより強引で…す、素敵でした…強引なのは嫌いじゃないの!? むしろ強引に躾けをして欲しい! ご主人様に心配をかける様な雌豚はお仕置きが必要ですよね? 私、駄目な雌豚だから…たくさん、たくさんお仕置きされたい!」


「いや、僕そこまでは…無理…」


「さあ、小隊長! こんなに粗相ばかりして、ご主人様に心配ばかりかける雌豚はお仕置きをしてください! 思う存分虐めてください! わ、私としてはなるだけ厳しいお仕置きを希望します!」


「…いや、まず、どこから突っ込んでいいかわかんない」


「大丈夫です。どこでも小隊長の好きなところに突っ込めばいいだけです」


「ええっ?」


「何処でも無理やりされれば、私にとっては、ご、ご褒美だから、もう! ふ、普通のお尻より、お口の方が汚されてる感じが! いや、いけない方のお尻の方がもっと背徳感があるかしら! ああ、もう全部にお願いします! もう我慢できません!」


ああ、レイが完全に壊れた。尊といとすら思っていた清楚なレイが勝手に雌豚に堕ちていく…


「いいから、レイ、早く帰って来て…」


「わ、私、初めてだから、怖いけど、無理やり、激しく、出来れば動けない様に拘束してから、乱暴にしてください! ああ! こんな時の為に買っておいた手錠がぁ!」


ブチッ


僕は一方的に魔法通信を切ると、ユキに魔法通信を送った。


「ユキ、敵機を電探で捕えたら、方角と高度を教えてくれ。味方の戦闘機を誘導する」


ちょっと、疲れた。レイは見た目は清楚系完璧ドSお嬢様なのに、残念ドMだった。僕はいつものドSお嬢様のレイの方が好きなのに…


ユキの敵機情報、レキシントン攻撃隊21機の情報を翔鶴、瑞鶴の直掩隊に送る。直掩隊はレキシントン攻撃隊への奇襲に成功して、ほぼ半数を撃墜破した。半数は逃げた様だ。つくづく米軍の機体は頑丈だ。戦いを重ねる程、日本軍の消耗は多くなり、米軍の被害は少なくなるだろう。僕はめまいがしてきた。


その頃、翔鶴、瑞鶴攻撃隊は空母ヨークタウン、空母レキシントンを攻撃。上空で戦闘機隊の激しい空中戦が繰り広げられる中、レキシントンは午前10時18分から12分間の戦闘で魚雷2本、250キロ爆弾2発命中、至近弾5発を受けた。この時日本軍はレキシントンをサラトガと信じており、爆弾命中による5インチ砲弾誘爆を目撃した日本軍機はサラトガ撃沈と信じ、母艦へ連絡した。実際にはこの時、レキシントンは健在だったが、被雷によって漏れだしたガソリンが気化して引火、大爆発を起こして消火不能となり、レキシントンは駆逐艦フェルプスの雷撃により自沈処分となった。


一方、ヨークタウンは250kg爆弾1発の命中だけだったが、艦首至近距離の海面に自爆機1機、至近弾3発が船体の接合部を緩めてしまい、燃料が漏れ出した。そして致命傷だったのは、命中した250kg爆弾が飛行甲板を貫通し、1.5インチ鋼鉄装甲の第4甲板で爆発、火災による黒煙とガスで機関のボイラーは無人となった。しかし、ダメコンに勝る米軍は決死の応急措置により何とか持ち直し、ヨークタウンは後日真珠湾で修理される事となる。


「多分、原少将は撤退を選ぶと思う…」


「何故ですか? 戦果を拡大すべき好機ですよ?」


「それができないのが日本人だよ。特に原少将は意思が弱いと米軍に分析されている…」


「それも未来の知識?」


「ああ、そもそも日本人に戦争なんて向いていないんだ。それに帝国海軍士官なんてエリートだ。エリートに残酷で強い意志を要求される戦争だなんて向いていないよ…」


「また、軍法会議になりかねん事を…」


「全ての士官がそうとは言わないけど…そうは思わないのかい?」


「正直、否定できません。私も兵学校でそこそこの成績でしたが、戦争に向いているとは思えません。正直、先任と同じ船に乗っていて本当に良かったと思っています」


「それは買い被り過ぎだよ…」


結局僕の考え通り、原少将は撤退を決め、北上した。日本軍機の半数が攻撃時の損害により、稼働できない状況になっていた。その上、B17の散発的な攻撃は原少将の精神を追い詰めた様だ。


程なくしてレイが帰ってきた。僕はちょっと微妙な目でレイを迎えてしまった。だって実際レイは微妙過ぎるのだ。見た目完全無欠の清楚系ドSお嬢様なのに、その正体はドMの極みだ。どうしても生暖かい目になってしまう。


「し、小隊長の蔑む様な目が……」


「いや、僕はただ心配してただけだよ」


「そっ…そんな目でっ…見ないでっ…」


どうもレイは僕が蔑む様な目で見たと思ったらしい。でも、レイはふわりと笑い、とてもいい笑顔になった。蔑まれて、そんなに嬉しいんだ……


米軍被害


空母レキシントン沈没、油槽船ネオショー沈没、駆逐艦シムズ沈没


空母ヨークタウン損傷


航空機92機損失


日本軍被害


駆逐艦菊月沈没、掃海艇3隻沈没


航空機59機損失


美少女擬人化兵器零式艦上戦闘機一一型レイの尊厳喪失

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