第3話珊瑚海海戦3

1942年5月8日、珊瑚海で史実に反して生き残った軽空母祥鳳と、MO攻略部隊から重巡古鷹、衣笠の三隻がMO機動部隊に編入された。祥鳳の艦橋は応急修理がされたが、艦長は戦死、他の士官も重症で、指揮は引き続き僕がおこなった。少尉の僕が軽空母とはいえ、指揮を任されるのは異例だ。しかし、MO機動部隊の空母翔鶴、瑞鶴共、昨日の戦闘で既に艦載機を多数失っており、尚も米軍機動部隊はこの海域にとどまっているとみられる。指揮官である第四艦隊司令井上成美中将がMO機動部隊へ祥鳳を編入したがったのは当然だろう。祥鳳は艦橋士官以外全くもって無傷なのだ。それに井上成美中将は僕の事を知っている。


「第五航空戦隊はかなり損耗してるだろうな」


「そうですね。薄暮攻撃までやって、かなりの未帰還機を出したみたいです」


「着艦に失敗したんだろう? せめて搭乗員が回収できれば、良しだね」


「搭乗員ですか? しかし、貴重な航空機が…」


「いや、貴重なのは航空機より搭乗員の方だよ」


「不知火先任、随分と上の人が怒りそうな事を」


「いや、論理的な理由からだよ。搭乗員を育成する練習機、燃料代、教官の給料、搭乗員事態の給料、トータルで零戦買えるよ。それに零戦は1年も製造に期間がかからないだろう? それに引き換え搭乗員は3年は育成に時間がかかる」


海老名少尉は目を見開いて僕を見た。


「不知火先任? それも未来の常識ですか?」


「ああ、未来では人道的にも論理的にも搭乗員を大事にする」


海老名少尉はかなり明晰な頭脳をもっている様だ。兵学校をそこそこな優秀な成績で出た僕とたいして変わらない成績だろう。僕の言う事をどんどん吸収する。


僕が魔法小隊を指揮しているのはコネだ。僕のバックには軍令部総長永野修身がいる。彼は現代日本から転移した僕を保護し、僕の召喚魔法をこの戦争で利用できないか模索している。彼の派閥の山本五十六長官を始め、海軍内部への根回しは行われているが、僕の意見はほとんどこの戦争に影響を与えていない。軍令部の永野は僕を信じてくれたが、それは僕がレイやキュウを召喚する処を見たからだろう。米内光政内閣総理大臣、山本五十六連合艦隊司令長官、井上成美第四艦隊司令長官等の信頼を勝ち得れば、この戦いはもう少し被害を抑える事ができるだろうにと思いつつ、歯がゆく思う。


「この海戦、どう動くのですか?」


海老名が単刀直入に聞いてくる。いや、僕が未来人である事を確かめるつもりだろう。当然と言えば当然の事だ。


「両軍共同時に索敵機を放つ、そして、双方同時に攻撃を行う事になるよ。クロスパンチさ」


史実では日本軍が空母翔鶴と瑞鶴から哨戒機7機で、米軍が第17任務部隊空母レキシントンのSBDドーントレス18機による索敵を行った。索敵に対する関心度は米軍の方が理解が深ったとしか言いようがない。投入された索敵機は倍もの差があった。例え彼我の戦力差が大きくても索敵機を削る等あり得ない話なのだ。史実では翔鶴の九七式艦上攻撃機が索敵に成功したものの、もし、見落としていたら、結果はおそらく一方的な敗戦となっていただろう。


「現状の兵力差はどれくらいあるのですか? 同時にパンチを放つなら戦力が大きい方が勝つ筈だ」


「その通りだけど、戦力差はほとんど同じだよ。つくづく薄暮攻撃なんてしてなければね。もちろん、たらればなのは承知なんだけどもね」


「えっ? ちょっと待ってください! その戦力にこの祥鳳の戦力は入っているのですか?」


「入れてないよ。でも、どうせ僕達に要求されるのは防空だけだよ。九七式艦上攻撃機が6機あるけど、練度を考えると索敵に使うのもどうかと思うよ」


「確かにそうですけど、少なくても防空に関しては有利になりませんか?」


「僕がこの祥鳳、というよりレイやキュウ、ユキより翔鶴や瑞鶴を優先すると思うかい?」


「いえ、不知火先任、今、聞いた事は忘れます。私が聞いた事も忘れて下さい」


まずったな。彼もこの時代の人間なのだ。僕は主力空母翔鶴や瑞鶴より自分の乗る祥鳳、というより部下のレイ達を優先すると言ったのだ。上官に聞かれたらえらい事だ。それを聞き流してくれる海老名少尉に感謝をしなければ。


「不知火先任、機動部隊旗艦翔鶴より電文で連絡がありました。祥鳳より索敵機3機を拠出されたし」


「ほう、悪くないな。索敵線もあまり変わらない様だね」


海老名少尉の伝えてきた索敵線情報を見て、僕は呟いた。


「まあ、うちの九七艦攻の練度は低いですが、この索敵線ならあまり関係なさそうですね」


「ああ、アメリカ機動部隊は翔鶴の索敵機が発見するよ」


僕は甘かった。既に歴史が変わっているという事に気がつかなかった。MO機動部隊が索敵に史実より多くの機体を投入したにもかかわらず、敵空母発見が遅れるという事態を予想できなかった。九七式艦上攻撃機10機が索敵に投入された。しかし、肝心の翔鶴機(米機動部隊の真上を通る索敵線を担当)は機体のトラブルから発艦が30分以上も遅れたのだ。


祥鳳から3機の九七艦攻が索敵の為発艦する。


「後は待つだけだな」


「そうですね。後は攻撃を主力空母に任せて私達は防空に専念しましょう」


「海老名、お前?」


「私も少し先任の考え方に染まった様です」


「ふふっ、いいな? お前」


しかし、味方索敵機からの敵空母発見の報はなかった。一方、哨戒に出ていたユキから米軍の艦上爆撃機ドーントレスのものと見られる機影を電探で捉えた。


「先任、どういう事ですか?」


「まずい、歴史が変わった!」


「歴史が変わった?」


「ああ、昨日祥鳳は史実では沈んでいたんだ。だから、既に歴史が…」


「なら、旗艦に索敵機に発見された旨、報告しましょう」


「そうだな。確かに」


僕達は敵索敵機の位置を知らせ、敵機動部隊に発見された事を旗艦に報告した。上空のゼロ戦隊が慌ただしく動く、おそらく索敵機を探す為だろう。


「不味いな。一方的に来るな」


「ええ、このままだと…」


「何、安心しろよ。ユキには電探があるし、レイとキュウは10秒もあれば飛び立てる。祥鳳だけでなく、艦隊の安全度が増すよ」


「電探ですか? あんなの盆提灯なんじゃ?」


「航空戦は先に見つけた方が勝ちだ。攻撃側も迎撃側も」


「じゃ?」


「ああ、敵機には電探は無い筈だ。待ち伏せすれば大打撃を与えられる」


「それじゃあ、結局、艦隊を救う事になりません?」


「まあ、そうだけど、僕も流石に自分だけ助かりたいという程、自分勝手になれないよ」


僕達は更に最悪な事態になるとは思わなかった。


「無線傍受しました。翔鶴索敵機が敵機動部隊を発見。その数、空母2重巡6駆逐艦多数!」


「まずい! このまま攻撃隊を編成したら!」


そうなのである。これではまるでミッドウェー海戦と同じだ。索敵は史実では午前6時22分発見、こちらの世界では午前7時22分に発見。おそらく敵機来襲は午前8:30分頃、そしてMO機動部隊の攻撃隊発艦も同午前8:30分頃になる。爆弾や魚雷を満載した空母に敵が襲いかかるのだ。アメリカ軍と違い、日本軍に電探はない。僕らのユキだけが探知できる。だが、第五航空戦隊の上層部が僕らの言う事に耳を傾けるか?


僕は伝声管に向かって話した。


「レイ、キュウ、出撃になりそうだ。準備をしてくれ」


「わかったけど、あまり熱意込め過ぎた声で話さないで、私まで変態になってしまったらどうするの?」


レイがいつもの定常運転だけど、変態はレイの方だよね? 僕はノーマルだからね?


そして、運命の午前8:30分。僕は独断で祥鳳の直掩機としてゼロ戦8機、96艦戦4


機を発艦させていた。敵発見の報は旗艦に発信したが、今頃はおそらく蜂の巣をつついた様な状態だろう。僕はキュウとユキに祥鳳の直掩を任せ、レイには敵攻撃部隊への奇襲を計画した。敵ヨークタウン攻撃隊は雷爆同時攻撃を実行する為、空中集合を行っていた。そこへ、ユキに誘導されたレイが突っ込む。最初は上空で旋回している爆撃機隊を、そして次に速度が出ていない雷撃隊がレイに葬られた。援護の艦戦はいなかった。レイのヒットアンドウェイの攻撃に一方的に叩かれて半数が墜落、半数が爆弾や魚雷を捨てて逃げた。


「小隊長、追撃は当然するわよね?」


「追撃はいい。それより祥鳳を守ってくれ」


「守ってくれだなんて気持ちが悪いわね。変態のあなたを守らなきゃと思うと、気持ちが悪くなるでしょう?」


「僕が変態っていう前提止めてくれない?」


そうだよね。変態はレイの方だよね。僕はノーマル。変態のレイに変態呼ばわりは御免こうむる。


「そんな事言って、私に罵られて興奮しているのがバレバレよ」


「いや興奮してないからね!?」


「ふふっ、まさにドMの鑑ね。たっぷり調教した甲斐があったというものだわ」


いや、だから、変態はレイの方だからね。これ、何のフラグ?

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