第2話珊瑚海海戦2

「魔法小隊出撃!! レイは右舷をキュウとユキは左舷を守れ!!」


「「「はい!!!」」」


この時ばかりはレイもキュウもユキもふざけたりしない。初めての実戦なのだ。祥鳳飛行甲板で僕は三人を見送った。指揮官の務めだ。


「死ぬなよ。みんな!!」


「心配しているつもりなの? 気持ち悪いわね。豚の癖に。あなただけ死ねばいいのに」


「フニャ☆先輩心配してくれるのですね。これはキュウルート選んでくれるのですね!」


「いや、レイ、心配してる人にそれは無くない? 僕、マジで心配してるよ。それとキュウ、僕は1mmもそんな気持ちないから!」


「私は右舷に飛び立つわ」


「キャピーン☆キュウは左舷に」


「……」


「ユキは少しは喋れよ」


「……」


「いや、いい。人間足る事を知らねば。多くの事は望まん」


「「擬装」」


二人が叫び、一人は無言で擬装を展開する。レイとキュウの背中にはあめ色の翼に尾翼、手には可愛くデフォルメされた20mm機関砲、7.7mm機銃等が装備されている。ユキは背中に艦橋、手には12.7cm高角砲、足には艦首、かかとにはスクリューや舵が見える。


「零式艦上戦闘機出る」


「九九式艦上爆撃機行ってきまーす☆」


「……」


ホント、ユキ喋れよ。こんな時位……


レイとキュウには20mm機関砲、7.7mm機銃、電探、防弾ガラス、タンク防弾、自動消火装置を装備した。ユキには12.7cm対空砲を3つ、25mm機銃を2つと対空電探を装備した。三人共、レベルは5だ。せめて模擬空戦で、実戦の前に現実に近い訓練をさせたかったのだが、ついぞ敵わなかった。三人共見た目と違って、とんでもない火力と防御力を持っている事はわかっていても、心配にならない方がおかしい。


三人は展開した。早速、レイは快速を飛ばし、敵艦戦隊と交戦に入る。一瞬でF4Fワイルドキャットを血祭に上げた。これで、キュウは安全になる。キュウは艦上爆撃機なので、対空戦を得意としない。戦闘機隊に囲まれると危険だ。レイはわかっていて、最初に戦闘機隊を叩いたのだろう。頭のいい子だ。


「小隊長、何か言う事は無いのかしら?」


魔法通信だ。僕達はお互い魔法で通信ができる。この時代の日本の無線機は性能がすこぶる悪い。そんな中、魔法通信は極めて便利だ。


「ありがとう。よくやってくれた。これでキュウが安全になる」


「何をもっともそうな事を言っているのかしら? ホントは私達のスカートの中覗いてたんでしょう? 変態もたいがいにしなさい」


ええ、そんな事言う? 僕本気で心配してたんだよ。


「レイ! 上空から艦爆隊が迫っている。頼む! キュウ、ユキ左舷の雷撃隊を頼む」


「命令だなんて、生意気ね。仕方ないわね。帰ったら、足でお尻を散々蹴ってあげるから、期待してなさい」


いや、僕、そんなの期待してないから……


「先輩、雷撃隊はまかせてくださ~い☆帰ったら、私の足の裏の匂い、クンカクンカさせてあげますからね☆」


いや、僕、そんな癖ないから、許して。


「……」


ユキは無言な訳ね。ドSとウザがいると普通に見えるけど、良く考えたら、こいつが一番おかしいかもしれない。どんなけ、無口だ。作戦に支障をきたしかねん。


僕は艦橋に戻ると直掩隊のゼロ戦4機と96式艦戦4機に無線で呼びかけた。


「直掩隊は右舷の雷撃機に集中してくれ!」


返信はなかった。


「先任、多分無線は……」


「そうかもしれない」


「私が飛行隊の誰かに連絡して、手信号で伝える様伝令します」


「頼む、ところで君の名は? 今更だが」


「私は海老名少尉です。以後お見知りおきを」


「すまん。僕は艦橋には中々入れてもらえなかったから」


「わかってますよ。私も同様です。下っぱですから」


海老名は笑って言った。その顔は、まだ戦士のものではなかった。僕と同じで20歳だろう。兵学校を出て、配属されたばかりなんだろう。海老名は伝声管で指示を出すと、早速ゼロ戦隊が高度を下げてくる。右舷の雷撃隊に的を絞ったのだろう。


「これでレキシントン雷撃機隊・ヨークタウン攻撃隊の雷爆同時攻撃を避けきれるかもしれない」


「レキシントンとヨークタウン? サラトガではないのですか?」


「サラトガは未だワシントン州のブレマートンで修理中だ」


「何故そんな事を……」


「僕は未来から来たんだ」


「…… み、未来」


「信じられないか?」


「いや、あの女の子達を見たらあながち否定する方がおかしい様に思えます」


海老名は聡明な男だった。目の前で繰り広げられているレイ、キュウ、ユキの戦闘を見て、僕の言う事を否定しない。祥鳳の艦長達や連合艦隊の頭の固い上の奴らと大違いだ。


「そういう訳だから、正規空母二杯分の攻撃をこの軽空母で受けなきゃならんのさ」


「どうりで、敵機が多い筈ですね」


海老名が苦笑する。こいつ、中々肝が据わっている。本来であれば、軽空母祥鳳と共に命を共にした筈の彼が生き伸びた事でどんな変化が産まれるだろう?


「小隊長、上空の爆撃隊の半分を殲滅、残りは爆弾を投下して敗走したわ。追撃するべきかしら?」


レイからだ。


「いや、追撃より、祥鳳右舷の雷撃隊の排除を頼む。ゼロ戦隊4機じゃ荷が重い」


「了解、ところで、今日の私のショーツは何色だったのかしら?」


「黒だった様な…あっ!?」


しまった。レイが飛び立つ時、つい出来心で見てしまったんだ。だって、レイの制服、学生服みたいで、その、ギリギリの極限まで膝下の短いヤツなんだもん。レイの脚、凄い美脚だから、男だったら、つい覗いてしまっても無理ないよね?


「声が小さいわね。私のショーツの色は何色だったか大声で言いなさい!」


「いや、流石に艦橋で大声でだなんて、そ、そんな事はちょっとマズいよっ!」


「マズい? じゃ、明日は何色がいいか、お願いしなさい。このムッツリスケベ!」


「な、なんて事言うんだ! レイ! はぁはぁ……」


「息が荒いわね。女の子に辱められて興奮しているのね?」


「ち、違うわ! 女の子がそんな破廉恥な事言うから!?」


「破廉恥だなんて、帰ったら、お仕置きが必要な様ね、この糞豚野郎」


また、顔をグリグリされるのだろうか? 意外と気持ち良くて誰も見てなきゃむしろご褒美なんだが、少々、男というか、人間として何かを失って行っている様な気が最近している。


「先任、マズい、右舷が!」


「えっ? 海老名もレイのショーツの色が気になるの?」


「いや、一体何を? 右舷の雷撃機が魚雷を投下しそうです!」


「舵を! 取り舵一杯! 全力で回避だ!」


「了解!」


僕は双眼鏡で敵雷撃機を見た。


「ちっ!?」


雷撃機はゼロ戦の追撃もものともせず魚雷を投下。そして、ゼロ戦が一撃を浴びる。しかし、雷撃機は巧みに直撃を避け、尚も高度を上げずにこちらに向けて低空を飛び続ける。


「まずいぞ! 魚雷よりまずい。あのTBD雷撃機、この船に突撃する気だ!」


僕は確信した。勇敢な雷撃機は被弾して、帰投のめどは無い、燃料が漏れている。低空でこのまま引き起こしてもゼロ戦やキュウの餌食だ。だから、おそらくこの艦に激突する気だ。


「先任、頭を下げて!」


海老名が叫ぶ! 雷撃機の機銃掃射だ。着弾の音がする。幸い、機銃弾が艦橋内に飛び込む事はなかった。僕は恐る恐る、艦橋の窓から敵機を見た。すると、


「――――――~~~~ッ!!!!」


僕の目に入ったのは、敵雷撃機に激突するレイの姿だった。レイは自身の身体をぶつけて雷撃機を落とした。雷撃機は四散するが、レイも海上に落ちた。


「ユキ、キュウ! レイがやられた。頼む、救助に行ってくれ!」


僕は慌てて、ユキとキュウにレイの救助を頼んだ。既に左舷はキュウとユキのおかげで敵機の姿はない。右舷を見守ると、キュウが雷撃機の残り1機をすかさず撃墜する。そして、ユキが祥鳳の後方から右舷へ回り、対空砲火で雷撃機を1機撃墜すると、レイの着水した箇所まで行った。そして、レイを救助した。


「ユキ? レイは無事か?」


「大丈夫。小隊長」


「直ぐに祥鳳に運んでくれ」


僕は慌てて祥鳳の飛行甲板に向かった。おそらくキュウが甲板にレイを運んでくれる筈。甲板に降りると、やはりキュウがレイを運んでくれていた。キュウはレイを甲板の艦橋の壁にもたれさせる様にした。意識があるという事か?


「レ、レイ! レイ! なんて無茶な事するんだ!」


僕はレイの無茶への怒りのあまりに、レイの右の顔の方の壁に手をついて、怒鳴ってしまった。あれ? これ、壁ドンじゃ?


「わ、私、別に小隊長の勘違いなんだからね! 小隊長を助ける為に自分を犠牲にして、この隙に乗じて、お付き合いしてもらって、アツアツの恋人同士になるとか、新婚さんみたいとか言われるとか、将来の為に婚約を早くしようとか、何時頃結婚するか早めに相談した方がいいとか! 思ってる訳じゃないからね!」


えっ? レイ? 何それ可愛いんだけど?


「レイ、僕は君の事が好きだ。だから、こんな危ない事は止めてくれ」


「わ、私の事がす、好き…」


レイは頬を赤らめて、僕の言葉を反芻している様だった。


「僕は君の事は何でも受け入れるよ。いつもの事が好きの裏返しなのはわかっていたよ」


いや、ホントはさっきのレイの独白で気がついて調子にのってます。


「な、なんでもレイの事、受け入れてくれるんですか? レイ酷い事しますよ?」


「いや、僕はレイの事なら何でも受け入れられる。好きだから…」


好きという事に嘘は無い。レイは黒髪清楚系、胸もキュウ並みに大きい、こんな娘と恋人になれたらどんなに幸せか? 何よりあの毒舌がいい。M気味の僕は何気にレイの毒舌にやられてしまっているのだ。今は尊いとすら思っている。


「ホントにレイの事、何でも受け入れてくれるんですね?」


「あたり前じゃないか…」


「小隊長殿、レイを小隊長のペットにしてください!」


「ええっ?」


今、急に変なワードが入ったぞ? 聞き間違いだよね?


「わ、私、小隊長のペットになって、ああ! 私、こんなにはしたなくて、小隊長に叱られてしまう! ああ、でも、むしろ、たくさん叱って欲しいわ! たくさん叱ってもらって、できれば体罰も! お尻もたくさん叩いてもらって、罵声を浴びせてもらって、もうできれば全裸の時にそれをして欲しい!」


「レイ?」


レイはうっとりした様な潤んだ瞳で、僕を見て、


「私、小隊長に叱られながら、お尻を叩かれるのが夢だったんです!」


レイは重度のあれだったらしい。ドM……僕、無理……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る