クラニアム・グリージア

シャズの命令にセイムは沈黙を持って答えた。

それでいて、攻めた。

彼にはどうしてもつながらない謎があった。


「シャズさん、聞いていいですか?シャズさんとリナさんの事です」

「ダメだ」


シャズは議論の余地なく即答した。


「そうですか・・・。もし僕とジゼルさんがここに残りたいと言ったらあなたはどうしますか?」

「もちろん、今まで通りお前たちをこき使ってやろう」

「あなたにそれが無ければきっとたくさんの友達に恵まれていたはずです」


シャズは知ったような口を利く小僧をあざ笑うように鼻を一度鳴らした。




ブオオオオオオオオオオオオ・・・・。


シャズとセイムを荷台に乗せたクローラーは、遠くに見えていた灰色の尖峰に向かって荒野を突き進んでいた。


この辺りの地形は元々の険しい大地に加えて、気まぐれな鉱夫たちによる人為的な調整が施されていたため、以前のジョズの街へ向かう時の様なレールの上を走るのとは快適さがまるで異なっていた。


セイムはいつものキューポラにデイヴィッドの姿が見られず、加えて、彼の名を出すと大人たちが良い顔をしない事を既に知っていたので口にも出せず大変息苦しい思いをしていた。


クローラーは半日ほど走り、たどり着いた山のふもとで停車して二人を下ろすと、さっさと元来た道を帰っていった。


その日は、空全体が厚い雲に覆われて薄暗く、セイムたちが山へ侵入する頃には雨まで降っていた。


セイムは切り立った崖の上に群生している植物たちを見つけると言った。


「シャズさんの言ったみたいに、高くなっている中腹からは植物たちが生えていますね」


「そうだ、そこに生き残った動物達も生息している。この山は見た目よりもずっと険しい。最短ルートはよっぽどの装備を整えてなおかつ訓練しなければ通れない、だから迂回するルートを通って上の森まで進むことになる。一日がかりだ」


「はい」


山道は険しく、雨で濡れていて滑りやすかった。

おまけに空気まで薄いのだ。しかしセイムは弱音を一言も吐かずにシャズの背中を追った。


セイムは無意識のうちに何処かに人の住めそうな、ジゼルと共に暮らしていけるような地形を探していたが、そんなものはやはりどこにも見当たらない。


それどころか、嘲笑うかのような厳しい自然が代わる代わる彼の頬を打った。


「なんて、寂しい山なんだ・・・・」

「・・・・」


セイムがぽつりとつぶやいて、シャズはそれを無視した。


岩肌が露出した灰色の山の麓には、所々で苔や痩せた草が必死にへばり付いて、風に吹かれて揺れていた。


その遥か上に見えている樹木たちも、ムーンシャイン鉱山の植物たちと比べると色が薄くどこか悲しげだった。


そして、シャズの言う通り。

中腹の森にたどり着く頃には、地平線の向こうに太陽が沈みかけていた。

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