孤独
追い出されるように部屋を出た二人は目を合わせる事も避けた態度で、シャズはそのままどこかへ消えて、セイムは今出たばかりの部屋に背を向けて壁に寄りかかり座り込んでしまった。
シャズはあんな呑気な事を言っていたが、彼は事態をとても楽観視する気にはなれず、こうして手をこまねいていたせいでジゼルに致命的な変化が訪れてしまう事を酷く恐れていた。
部屋ではリナがつきっきりで看病に当たっていて、中からは一度話し声のようなものが聞こえてそれからは、まるで誰もいないかのように沈黙を貫いている。
セイムは、明日の朝、ジゼルの為に何をする事が最良なのか?不足する自らの経験に悪態をつきながら自分なりに考えていた。
その夜。
みずみずしい木の葉が風にゆすられてぺしぺしなる音に乗って、何か悲痛な叫びのようなものが聞こえて来た。
セイムは万が一にも部屋の中のジゼルを起こしてしまわないように静かに立ち上がると、わざわざブーツを脱いで足音も殺し、屋敷の外へと移動した。
・・・・・・!!!
・・・・!!!
聞いたことのある声だった。
声は、中庭の方から聞こえてきているようだった。
セイムはそちらへと向かった。
その日は、普段は枯れている小川の支流にまでたっぷりの水が満たされていた。
この支流は本来、遠くで大雨が降って水量が増えた時に水が流れ込むようにできている。
彼は見慣れない光景に足を取られないように声のする方、川の上流へと向かった。
やがて、ジゼルが彼を引きずり込んだ池が見えてきて、そこから流れ出る水を木の枝やゴミ屑を固めた物がせき止めているのが見えて来た。
悲痛な鳴き声は、その中から聞こえて来ている。
セイムは塊に近づいてそっと中を覗き込んだ。
「君なの?」
『カウウ・・・』
セイムの声を聞きつけて、ゴミの塊からゆっくりと姿を現したのは中型犬ほどの大きさの生物、シーポンだった。
シーポンはセイムを見つけるとすぐに彼に寄り添って、自らを抱き上げる許可を与えた。
彼は濡れたままのシーポンを抱き上げて、近くの丸太に腰を下ろした。
抱きかかえられたシーポンは、落ち着きを取り戻していたように見えたが、ビー玉の様な目には明確な悲壮の色が現れているようにも見えた。
「そいつらは、シーポンは」
「・・・・はい」
誰かがセイムの後ろから音も無くやってきて、その正体を彼は知っていたのでわざわざ振り返る事もしなかった。
声の正体は珍しく遠慮がちに立ち位置を整えて続けた。
「繁殖期になると川を横断するようにダムを造るんだ。全く、邪魔で仕方がない」
声の主はシャズだった。
シャズはうんざりして、ダムの一番上に乗せられた『磨かれた白木』を持ち上げるとその辺に放り投げた。
知ってか知らずか、それはこのシーポンにとってかけがえのないダムのシンボルだった。
大人しくしていたシーポンが血相を変えてセイムの懐から飛び出すと藪の向こうに消えた磨かれた白木を回収して元の場所へ収め満足そうにした、それからシーポンは、再びセイムの元を訪れて自らを元の場所へ収める許可を出した。
「・・・・。気になっていたんです。他のシーポンたちはどうしてしまったんですか?なぜこのシーポンだけ、その・・・」
シャズは俯いて口元を歪ませると観念したように語りだした。
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