日々

セイムは身震いするほどの喜びを表に出さないように必死で堪えた。

何故ならば、デイヴィッドはこの事を二人だけの神聖で特別な秘め事にする事を望んでいるような気がしたからだった。

彼は渡されたペンダントを首にかけて一度見せるとすぐに服の中にしまった。


デイヴィッドは、大変満足そうにその様子を眺めていた。


その時、人知れずダンテがぽつりと呟いた。


「ああ、セイム。そんなことをしたら別れがつらくなるぞ?」




夕日に照らされるムーンシャイン鉱山の懐かしさを靴の裏で目いっぱい味わうと、セイムはシャズとリナの事がとても恋しくなって、帰ったことをいち早く伝えたくなって、その足は自然と駆け足になった。


「ジゼルさん・・・!はやくはやく!」


「もうセイムさんったら!待ってください!」


セイムの胸は達成感と幸福で溢れていた。


そして、昨日までの出来事を早く、こんなつまらない乾いた地で隠居する二人に話して聞かせたかった。


食器も家具も、ジゼルと二人であの屋敷に合う物を選んだし、運搬担当の人物がうんざりする程品物のチェックもした。


後は、無事帰還した報告をして食事をとって明日からまた。


「セイム・・・!待って・・・・!セイム・・・」


どさ・・・・。


そんな彼の後ろで何かが転ぶ音がした。

振り返ると、ジゼルが薄っすらと砂を被った地面に倒れてぐったりと動かなくなっていた。

彼は慌てて駆け寄って、狂ったように彼女を呼んで様子を確かめた。

ジゼルの顔はすっかり蒼白になって息も絶え絶えでひんやりと冷えていた。





「・・・セイム。まあ兎に角、よく帰った」


シャズは喉をガラガラ言わせて落ち着きなく俯いたり前を向いたりしながらそう言った。

「シャズさん・・・!ジゼルさんはどうしてしまったんでしょうか・・・?!」


シャズは何かを言いかけて、深々とため息をついた。


「そうだ!あの街にだってお医者さんがいるはずです!見てもらいましょう!あれだけの人たちがいて、商業船団もまだ停泊しているはずです!船にはお医者さんだって!」


「おいおいおい。セイム。まあ落ち着けよ。まだどうなるかわからないだろ?ん?明日になればよくなるかもしれないし、今動かしたらもっと悪くなるかもしれない、そうだろ?シオにだって長距離の移動は負担になる。今は少し休ませて様子を見た方が良い」


「様子を見ようって、その間にもっと悪くなったらどうするんです!?ダンテさんはどうですか?デイヴィッドさんにも手伝ってもらって・・・。なんなら僕だけでもお薬を買いに・・・」


セイムの口からデイヴィッドの名前が出てくると、シャズは僅かに不機嫌そうにした。


「デイヴィッド?あの人形の事か?」


「人形!?デイヴィッドさんは人形じゃありませんよ!?そんな呼び方はやめて下さい!シャズさん!」


セイムの豹変ぶりにシャズは少し呆気にとられたようになって、それからセイムを正面でとらえると背筋を伸ばして、彼らしからぬ強めの語気で言った。


「あいつは人形だ。セイムお前のために言ってるんだ。あまりアイツに肩入れするな。わかったな?」


「僕のためだって・・・?僕が誰を大切にしようとシャズさんには関係のない事じゃないですか!」


「なんだと・・・?」


「はいはい!!!そこまでー!全く、必死になっちゃって。罪な女ねしおちゃんは。あんたたちはうるさいから部屋から出てなさい!」

『・・・・』

「早く!!」


二人は渋々部屋から出て行った。



「・・・。リナさん?」

「しおちゃん起きてたの?ごめんなさいねうるさくしちゃって。お使いそんなに大変だった?」


「いえ・・・。もうだいぶ良くなりました」


ジゼルはそう言ってはいたものの顔は相変らず蒼白で、ベッドから体を起こしただけだと言うのにその息は乱れていた。


「だーめ!まだ寝てなさい。あたしが付いててあげるから」


「リナさん?」


リナは、遠くを見る目をして優しい表情を浮かべて含み笑いをした。それからジゼルをベッドに戻すと太陽の香りがする真っ白な毛布を掛けてやった。


「・・・まーったく。セイム君があんなにやんちゃになって帰ってくるなんてねぇ。帰ってくるなり『お医者さんを呼んでください!』だなんて、そんなの居ないっての、おっかしい・・・・」


「こんな事初めの事でしたから、ずいぶん驚かせてしまったのかもしれません。セイムさん、私の知らないうちにお友達が出来たみたいなんです。私と居る時よりもずっと楽しそうで・・・。もちろんノイローゼになって倒れてしまったたわけではありません!・・・でも、なんだか隠し事をされているみたいで寂しくて」


「うんうん。男って結局友達だとかお母さんが頭の中心に居座ってるから・・・。やだやだ・・・。しおちゃんもヤダヤダ期ですねぇヨシヨシ」


リナは心底うんざりするように鼻息を吐くと暖かな手でジゼルのおでこを撫でた。


「ふふ。温かい、リナさんありがとう」





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