別れ

「マシウ様。彼女らが街を去るようですが・・・?」


「そうか、やはりよそ者が絡むとロクな事にならないな。出て行ってくれて清々する」


マシウは教会へ送る親書を製作しながら暖かい飲み物を運んできたヘイドに対して粗野な態度をとった。


親書には、諸事情により。採掘品の納品は延期になる。


と、言った旨の内容が記載されていた。


ヘイドが運んできたのは、商業船団でアリーが仕入れて来たばかりの新芽で作られた紅茶だった。


彼はその懐かしい香りを楽しんでから二人の贅沢をとがめた。


「ヘイド、俺がこんなものを飲んでいるところをこの街の誰かが見たらどうするつもりなんだ?ただでさえ、計画が遅れて切り詰めて行かなければならないと言うのに」


「あなたが一度海に出れば、きっと毎日浴びる程飲めるでしょう。それを考えれば、何ほどのものがありましょう」


「ふん、知ったような口を利く」


マシウは、この街とは不釣り合いなほど綺麗に磨かれたティーカップに口をつけて紅茶をひと口啜ると一息ついた。


「・・・ヘイド。俺はもう一度海に出られるだろうか」


「勿論です。待てば船出の日より有りという言葉もございます」


「全く、お前は間違っているよ。ヘイド。機械のくせに」


「そうでしょうか?マシウ様?」





メイプルは、簡単な挨拶をすると船団に溶けて姿を消した。


そして、セイムたちは爽やかな気持ちで、これから訪れる彼女の冒険の成功を願った。


約束の時間に、約束の場所に、ダンテは既に到着し3人が街の大階段から姿を現すと、硬くなった首を上半身ごと後ろにねじってから急かすようにエンジンをふかしたのだった。


セイムとジゼルは、思わず小走りになってダンテのクローラーに駆け寄ってデイヴィッドもそれに続いた。


「気が済んだか?」


ダンテの様子が大変不器用だったので、その言葉が誰に向けられたものだったのか居合わせた者らはすぐに理解して結末を見守った。


デイヴィッドは一歩前へ踏み出すと一度頷いて、彼の特等席であるキューポラへよじ登った。


「おい、デイヴィッド」


今度ははっきりとダンテがデイヴィッドを呼んだ。


1度目と違い、その言葉は何かを咎めているように聞こえたのは、彼の反応から見ておおよそ間違いでは無かった。


彼はダンテと目も合わそうともせず、表情はそのまま、苦し紛れにジゼルに手を伸ばして彼女の乗車の手伝いをした。


「どうもありがとう、デイヴィットさん、ダンテさんまたよろしくお願いいたしますね」


しかし、老人は情け容赦なく再び彼の名を呼んだ。


「おい、デイヴィッド」


デイヴィッドは次にセイムの乗車の手助けをした。


「ありがとうございます。ダンテさんすみませんがよろしくおねがい・・・」

「腕はどおした?」


デイヴィッドは少し青ざめてダンテの方を見てそれ以上の説明をしなかった。

そして、ダンテの方もそれ以上の訳を聞かなかった。


ムーンシャイン鉱山へ向かうクローラーは、夕日に向かって突き進んでいるようだった。


つい数日前に通った道だと言うのに、とても懐かしくて愛おしく感じてしまうのはあの夕日のせいかもしれない。


ガタガタと揺れる車内でジゼルは静かに寝息を立てていた。


セイムは返し忘れてしまったジャケットを彼女の肩に掛けて内心得意になった。


それから、しばらくして彼女の寝息が確かなものになるとキューポラから地平線を眺めていたデイヴィッドがセイムの方に振り返って、残された方の銀色の腕を突き出した。


手には、何やら握られている。


セイムはドキリとして差し出されて銀色の手を両手で迎えに行った。


セイムの両手の中で銀色の手がゆっくりと確かに開かれて、彼がなかの物を両手でしっかりと受け入れると銀色の手は音も無く静かに、彼から離れていった。


「これは・・・・。デイヴィッドさん・・・・・・」


デイヴィッドは、今にも泣きそうな程照れていた。


セイムの両手に包まれた暖かなそれは、太陽をモチーフにしたペンダントだった。



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